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黒薔薇の騎士団  作者: すずしろ
E-2 強くなるために
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明日香と赤双の戦姫ー1

 明日香と梓が特訓を始めて月が重なるのが、50回を越えた。これはこの空間で50年の月日が流れたことになる。もちろん入る前に『時間凍結タイムスティール』を使っているので歳をとっている何てことはない。

 この間にも何度か明日香はアリシアと、梓はマルモと戦ってみたりもしたが一度も勝てず仕舞いだった。


 「御影流『伊邪那岐(いざなぎ)』」

 明日香の剣閃が魔物を両断する。上下に分断され、魔物の身体はズレ落ち火口へと落下した。

 今、明日香が倒した魔物は『ヴォルケーノバジリスク』SSSランクの魔物だ。皮膚はあらゆる鉱物を取り込み、下手な業物の刀や剣等とは比べ物にならないほどの硬度を持っている。明日香には既にSSS+ランクを倒せるほどの実力をつけていた。

 だが、今の明日香にはそんなことよりも重要なことがあった。

 「あっっっっつぅぅぅいぃぃぃぃ!!なんなのこの暑さ!?前もここに来たけどやっぱりここの暑さおかしいよ!こんなとこに私の剣が本当にあるの!?」

 今、明日香とアリシアがいるのは火山の中だ。ここに来た理由は明日香が十分な実力をつけたということで、明日香のための剣を取りに行くと言うことでここに来たのだが、明日香にとってはただ暑い上に強力な魔物の出るだけの拷問場認識になっていた。

 「ありますよ。だけどもう少し火口の方に降りないといけませんけどね」

 「もう、服びしょびしょだし脱いでも良いんじゃないかな…」

 アリシアはどういうわけが終始涼しい顔で火山を下っているが、明日香はそういうわけもなく服は大量の汗により、服の下の下着なども見えてしまい既に意味をなさなくなっていた。

 「いくら私しか見ていなくても流石に、明日香さんに露出スキルをつけるわけにはいけませんからダメですよ」

 「そんなこと言わないでよ~お願いだから~脱がさせてくれたらアリシアに『ちゅう』してあげるから~」

 梓なら考える間もなく明日香が服を脱ぐ許可を出すだろうが、アリシアは苦笑いしながら昔、突然意味もなく翠にキスされてファーストキスを奪われたことを思い出して。

 「ダメですよ~それにもうすぐつきますから」

 そう言われしぶしぶ、脱ぐのを止めたがアリシアは真面目に明日香に露出スキルはつけてはいけないと心の中で誓った。

 (それこそ露出スキルがついたら梓さんがどうなるか分かりませんからね…)

 アリシアの頭のなかでは明日香の服を梓が脱がせて楽しんでいる映像が浮かんでいた。


 数分火山を下っていると、火口に近づいているのにも関わらず、今までの暑さが嘘のように引いていった。

 「ここ…全然暑くないけどどういうこと…?」

 「それはあの岩を見ればわかりますよ」

 アリシアが指差す先には、大岩に縛り付けられた二本の刀剣があった。何重にも厳重に縛られている様子はただ縛られている、というよりは封印されているというイメージを持たせる。

 「あの剣が、私の剣なの…?」

 明日香が近寄ってみると、頭の中に声が聞こえる。


 ───私達の名前を呼んでください


 「っ!?い、今の何…?」

 「どうかしましたか?」

 何かあったようで、明日香の様子が少しおかしい。明日香によると何かの声が聞こえたと言うが、アリシアにはそんな声は聞こえなかったし、周りには声を発する魔物は生息していないはずだ。念のためと思い、アリシアは周囲を警戒する。


 ───主よ私達の声が聞こえていないのですか?


 「あなた達の名前…?あなた達はいったい誰なの…?」

 ダメもとで空に向かって話しかけると。


 ───私達は主の目の前にいます。声が聞こえるなら、私達の名前もわかるはずです。


 明日香が前を見てもあるのは、岩に縛りつけられた二本の刀剣だけだ。そう言われても…と思っていると頭の中に何かの単語――名前と句が流れてきた。明日香は頭の中の声と共にその言葉をいい放つ。

 『我が前に姿を現せ、緋焔(ひえん)闢零(びゃくれい)

 瞬間、剣を縛る縄が千切れ、思わず目を覆うような閃光が辺りを包む。視界が戻ると目の前に緋色の髪と蒼色の髪をもった双子がいた。

 「「お呼び頂き有り難うございます。我が主よ(ご主人様)」」

 二人は明日香に恭しく頭を下げる。状況が全く読めずフリーズしている明日香を尻目にアリシアが驚いていた。

 「ちょ、ちょっと待ってください!あれ、『霊剣』だったんですか!?」

 「れ、霊剣?」

 明日香がおうむ返しに聞くとアリシアはかいつまんで説明してくれる。

 「『霊剣』というのは、魔剣や聖剣の一種で魔剣や聖剣は作られた後にそう言われるようになるけど、『霊剣』は作られた瞬間に、魔剣や聖剣クラスの力をもつ剣なんだけど…まさか二本とも何て…」

 明日香は二人の姿を見る、髪の色さえ同じなら違いを見つけることの方が難しいくらい似ている。身体つきも十分美少女と言って良いレベルで色白の肌に、美しい二色の髪整った顔に、アリシアや明日香とは違い『巨』とまではいかずとも十分に大きい胸に。

 「私より大きい…」

 明日香がそう呟いていると、緋色の髪の少女この少女は右側にポニーテールを結っている。

 「我が主よ。私達は貴女の剣、あらゆるものを斬り貴女の前に道を造ってご覧に入れましょう。私の銘が『閃刀・飛焔』、後ろにいるのが妹の『閃刀・闢零』です。緋焔、闢零とお呼びください」

 飛焔が自己紹介を済ます。あえて『名』ではなく『銘』と言ったのは自分達が剣だと分かっているからだろう。続いて後ろで小さくなって緊張している蒼髪の少女がこちらの少女は対称的に左側にポニーテールを結っている。

 「は…初めまして…ご主人様…私は闢零と申します…ご主人様の為なら…ど、どんなことだってやって見せます…!」

 軽く両手でガッツポーズするとポニーテールがピコピコと揺れ可愛らしいが、前に重心をかけるためどうしても胸の部分が強調されてしまう。明日香は悪意がないのが分かっているため、あ…う、うん…と曖昧な返事になってしまっていた。


 「えっと…二人が私の剣だっていうことは分かったけど…剣の状態にはどうすればなるの?」

 「そ…それはご主人様が『武装化アームド』と言っていただければ出来ます…」

 じゃあ、と明日香は『武装化』と唱えると二人の姿は一瞬のうちに先程見た刀剣の姿になっていた。戻す方法もそれほど難しくなく『解除(デザイア)』と唱えれば良いらしいので唱えるともとの姿に戻る。

 因みに何処かの妖刀とは違い、剣の状態から戻すと裸になっている何てことはない。

 一通り二人の扱い方を聞き、明日香は取り敢えず気になっていたことを話す。

 「ねえ、私が『主』とか『ご主人様』って二人に呼ばれているのは私が所有者だからだよね?」

 「はい、その通りですが…何か問題が有りますか?」

 飛焔が不思議そうな顔をする。明日香は、ええっと…と話を続ける。

 「正直、そういう言い方あんまり好きじゃないから明日香で私は良いんだけど…」

 「しかし、それでは主従の立場が曖昧になってしまいます」

 緋焔のもっともな反論に、明日香は頭を抱え少し考えると。


 「じゃあ、人がいるところでは『お嬢様』私達以外いないところでは『明日香』って呼ぶこと!これが私があなた達への最初のお願いよ」

 命令ではなくお願いというところが明日香らしいが、二人も納得したようで分かりました。と答えていた。

 「さあ、明日香さん今からが今回のメインイベントですよ」

 「ん?どういうこと?」

 アリシアの言い方から察するにあまり良い感じのイベントではないだろう。何より場所が場所だこんな火山の火口の近くで何をするかなんて考えるだけでやる気が喪われる。

 「戦うんですよ七天龍と」

 「はぁ!?今から!?」

 明日香がすっとんきょうな声を上げるのも無理はない。SSS+の魔物を斃せても七天龍は次元が違うと、アリシアが自分で言っていたのだ。

 「今のあなたの実力と緋焔と闢零がいれば勝機は十分あるわ」

 「そ、そんなこと言ったって…」

 明日香が悩んでいると、緋焔が

 「お嬢様は少し自分の実力を過小評価し過ぎです。お嬢様の実力なら必ずとは言い切れませんが、勝てない相手では決してありません」

 「そ…そうです…お嬢様なら…きっと勝てます…!」

 出会って間もない二人にもそう言われ、あ~もう!と若干投げ槍気味だが。

 「分かったわやってやろうじゃない。その代わり負けても知らないんだからね!」

 「その時は私がちゃんと助けますから安心してください」

 なんて軽口を言いながら、七天龍との最初の戦いの場所へと向かった。


 アリシアに連れてこられ、火口の前の小さな祠まで降りてきていた。

 「……で、何で火口の前まで来てるの?」

 明日香がうんざりした様子でアリシアに聞くと色々あるんですよ。と流されてしまった。因みに明日香の服は闢零が氷の属性を持つ剣なので回りの温度を操り、前のような汗だくになっての火口下りということにはなっていなかった。

 アリシアが何かを取り出しているとき緋焔達が明日香の頭の中に話しかける。霊剣の中でも自分の意思を持つ剣は所有者の脳に直接話しかけることができるのだ。

 (お嬢様、少しよろしいでしょうか?)

 (うん、良いけど…何の用事?)

 流れから緋焔が切り出すのかと思ったら、闢零が。

 (ええと……お、お嬢様は何故魔法を…無属性の魔法しか使わないんですか…?)

 明日香はその質問に疑問を覚えた。自分が所有者であるならば自分が無属性しか使えないことを知っているはずなのに、何故そんなことを今更聞いてくるのだろうと。

 (それは、私が無属性の魔法しか使えないから、って貴女達には分かるんじゃないの?)

 その言葉に対しての緋焔の答えは。

 (いいえ、お嬢様は7つ全ての属性魔法を使える素質を持っています)

 「ど、どういうこと!?」

 思わず、口に出して叫んでしまっていた。アリシアが明日香の叫び声を聞いて。

 「一体どうしたんですか?」

 アリシアが明日香に聞いてみると、緋焔達曰く明日香も全ての属性を使えるという。

 「なるほど…確かに明日香さんの魔力は無属性しか反応しなかった。でも、緋焔と闢零は明日香さんに無属性以外の魔力を持っていると言っている……私には分からないし…緋焔はそれを証明できる?」

 「ええ、今ここでしてあげるわ」

 そう言うと、緋焔は刀の姿に戻る。

 (お嬢様、私の身体…刀身の部分に触れながら燃えろと念じてください)

 (で…出来るかな…?)

 (…お嬢様ならできます…!自信を持ってください…!)


 闢零に応援され、明日香は刀身に触れ、燃えろと念じた。すると、明日香の属性は無属性しかないはずなのに刀身に炎が宿される。

 「…本当に出来ちゃった…」

 「どうして…私たちに明日香さんの属性が分からなかったの…?」

 アリシアが悩んでいると、緋焔がアリシアと明日香に説明する。

 「まず、何でお嬢様の属性が分からなかったのかを説明しますね。お嬢様は無属性の魔力が強いです、正確には他の6属性の最大の魔力量が普通の人に近い量しかなかったのでまず、ここで無属性が他の属性を隠します。次にお嬢様が無意識に自分で『隠蔽オーバーレイ』の魔法で6属性の魔力を隠していました。これで完全に無属性以外の魔力を感知できなくなります」

 緋焔の流れるような説明に、明日香は頭がパンクしているがアリシアは慣れているのか、平然と疑問を投げ掛ける。

 「じゃあ、何で明日香さんは6属性の魔法が使えなかったんですか?無意識とはいえ『隠蔽』を使った所で属性魔法が使えなくなるような事はないでしょう?」

 「ええ、確かにそうです。ですが、明日香さんは自分が属性魔法が使えないと思い込んでいたから使えなかったんです」

 「思い込み…?」

 アリシアが不思議そうに聞き返す。普通の反応ならそうだろう、たかが思い込みだけで自分の魔力を隠せるなら苦労はしない。

 「お嬢様の場合はその思い込みが『隠蔽』という形で現れたようですけど」

 ついていけない二人の話を明日香は聞いているうちに闢零と二人で何かを話していた。


 (ねえ、闢零って和服に近い服じゃない?)

 (…はい…そ、それが…どうかなさいましたか…?)

 (闢零って一応私の所有物だし……ふふ♪い~い事考えた!)

 闢零はこの時知らなかったが、今の明日香の笑顔は梓でさえも返答に戸惑うような事を考えたときの笑顔だ。勿論その顔は天使のように可愛らしい。

 (闢零…今度から今の服じゃなくて、メイド服を着ること!)

 (ふぇ!?そ、そんなの…は、恥ずかしいです……!)

 (い~じゃん、可愛いよ?メイド服言い方も『お嬢様』だしちょうど良いじゃない)

 闢零はうう…お嬢様、それだけは…と呻いている。明日香としては闢零がメイド服を着ている姿も可愛いと思っているから、余計に断りづらくなっていた。

 (だいじょーぶ♪一回だけ着てみて、それで似合わなかったら私も諦めるから)

 そうは言っているが、闢零は内気な性格だが、尽くすところには精一杯尽くすという精神が既にメイドのそれなので明日香としては、どんな手を使ってでも闢零にメイド服を着せたかった。

 (ノーマルの白か、それともゴスロリの黒か……う~ん迷うなぁ…)

 と、明日香はいじれることのできる剣を持つことができて、とても嬉しそうだった。


 アリシアと緋焔の話も終わり、明日香は緋焔にだいぶ端折った説明をしてもらい今の自分の状況を理解した。

 「ふ~ん私の思い込みで魔法が使えなかったんだ…」

 「念のために言っておきますけど、明日香さん。魔法っていうモノは理論の結晶の様なものです、そう簡単には扱える代物ではありません。ですから今回の―――」

 「七天龍戦では魔法を使うなってこと?」

 明日香の明るい声とは違う、戦いの時にみせる冷たく冷酷な声でアリシアに聞く。アリシアとて伊達に何百年と生きているわけではないのでその程度では屈しない。

 「はい…今、魔法を使うということを覚えた明日香さんでは荷が重すぎます!」

 アリシアの言った言葉は普通の人間にならば、至極正論であったと思う。だが、今回ばかりは言う相手が明日香であることだ。

 「そっか、アリシアには言ってなかったね、私が理論では全く覚えないタイプだってこと」

 「……それどういう意味ですか?」

 「つまり、私は理論で覚えず体で覚えるの。たまにいるでしょ?どんなものでも理論をすっ飛ばして覚えちゃう人、私はああいうタイプだってこと」

 アリシアとしては、魔法を体で覚えるなどというとんでもない事は聞いたことがないが、相手は明日香だその自信からすると本当に覚えかねない。

 「ッ…ですが明日香さんにもしもの事があっては遅いんです!」

 アリシアの穏やかな優しい言い方ではなく、力強い言い方だ。

 「そこまで言うならっ…アリシア!七天龍と戦う前に私は貴女と戦う!そして貴女に証明して見せる、私は…貴女が思うほど弱い存在じゃないって事を!」

 明日香が何時までも守られる存在ではないと言うことはアリシアも理解していた。ここに来て初めの頃でも十二分に強かったが、まだ無駄も多く勝てない魔物も山の数ほどいた。

 だが、今では戦っていない七天龍を除いて、全ての魔物を圧倒できるほどの力を明日香はつけていた。アリシアはため息をつくと槍を呼び出し。

 「そこまで言うなら…分かりました。貴女の力、どれ程のものか見せてもらいます!」


次の話は同じ日か次の日に投稿させていただきますm(_ _)m

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