流れるままに
ご高覧いただきありがとうございます。
なんとか生きてます。
唖然とする私をそのままに、ノルニルさんはまた語りだす。
「先ほども申しました通り、主はディラさんを自身の定めたルールに縛り付けました。まずはあなた方が強さの指標としている『レベル』という枷を消し去ることです」
「じゃあ、私のレベルがずっと『-』なのって…」
「ええ、主によって定められたルールによるものです」
「でも、そんなことしたら運営が…」
「そこで2つ目のルール、あなた方異界人がそう呼ぶ者たちから干渉をさせないというものです。この世界や私たちを生み出しただけあって、完全にシャットアウトすることは叶いませんでしたが。現にあなたの保護者代表がすぐそこにまで来ていますから」
「え?」
ノルニルさんはベッドの傍の窓を流し見た。
窓から見える鬱蒼とした木々は平時と何も変わりないと思ったが、ノルニルさんに「よく耳を澄ませてみるといいですよ」と言われ目を閉じて感覚を耳に集中させると、遠くの方からズン…ッと何かが倒れるような音が継続的に聞こえてきた。
「あの、これは…」
「じきにわかりますよ」
どんどん近づいてくる音に若干の不安を覚えながら窓の外を眺めていると、視界内の木が一瞬で燃え上がり、一瞬で灰になった。
空気中に舞い上がった灰が落ち着くと、ぼんやりと人のシルエットが浮かび上がった。
「エラさん?」
突然現れたエラさんは外からこちらに話しかけているようだけど、不思議なことに声は微塵も聞こえてこない。
私は状況が一切呑み込めずにエラさんとノルニルさんの間で視線を彷徨ませていた。エラさんは何かしゃべっているはずなのに声は聞こえないし、ノルニルさんは私を見て微笑んだまま何もしようとしない。と、とにかくこのままじゃ埒が明かない。
「エ、エラさん、お話ならこの家の中で…」
状況を進展させようとエラさんにそう提案すると、エラさんは手を前に突き出して宙をデコピンするように指ではじいた。
ギャリィン!!!
突然大きな金属音が鳴り響いた。この金属音の発生源であろう窓の外に目を向けると、エラさんの前の空間に幾何学模様が刻まれていた。さっきまでは見えなかったけど、エラさんのデコピンに反応して現れたように見える。
「あの、エラさんの声が聞こえてこないのって…」
「ええ、この家の周りに張り巡らせている結界の影響ですね」
ノルニルさんはそう答えただけだった。
え、終わり?結界を解いてあげようとはならない感じ?
「あの、その結界を解いたりは」
「結界を張ったのは私ではないのでそれはなんとも」
…うん、とりあえずノルニルさんにこの状況をどうにかしようという気が無いのはわかった!
じゃあもう私が外に出るしかないじゃない…と思って外に出ようとしたところで気が付いた。
「あの、私の外套…」
「着たままでは寝づらいかと思ったのでディラさんのインベントリに入れておきましたよ」
「へ」
インベントリを確認すると本当に外套が入っていた。
「…」
もう考えたら負けな気がして、何も言わずに外套を装備して外に出た。
「エラさ…うひぇぇぇぇぇぇ!?」
扉を開けた私を出迎えたのは視界いっぱいに広がるおどろおどろしい漆黒色の魔法だった。単純な魔法の玉などではなく、地面や草木を飲み込む漆黒の泥がゆっくりと浸食している。結界も例外ではなく、家を半円状に包んでいる結界を飲み込もうとしている。
「世界樹を枯らす気ですか」
いつの間にか私の横に立っていたノルニルさんが手をパンパンと打ち鳴らすと、ギシギシと音を立てていた結界と家の周囲の空間を埋め尽くしていた魔法が消え去った。
「なにをするんですか。世界樹に何かあるとアホウドリが飛んできますよ」
「あのくだらない結界のせいじゃろうが。そんなことよりもディラを返してもらうぞ。こんなところにまで連れ込みおって」
「ディラさんは堕ちた女神の迷宮の情報を求めて泉の賢者を訪ねてきたので私が連れ込んだ、というのはお門違いが過ぎます。ですよね、ディラさん」
「…そう、ですね」
また話していないはずの私の情報が…と若干遠い目をしていると、ワンちゃんズが扉から顔だけを出してこちらを伺ってい様子が目に入った。
「おいで、エラさんは怖くないよ」
「…ん?」
ワンちゃんズは少し姿勢を低くして、エラさんに対していかにも「あなたを警戒していますよ」という様子で私の足元まで足早に寄ってきた。しゃがんでふわふわの毛を撫でていると、エラさんが目を手で覆って大きなため息を吐いていた。
「あのトカゲといい…どうして面倒なものがお主に寄ってくるんじゃ…」
「仕方ありません。これも運命です」
「やかましい」
「…!そうだ!賢者って人はどこにいるんですか?!この子たちの親が大変なことになってて…」
危ない、大事なことが大森林に入ってから情報過多すぎて頭から吹っ飛んでいた。
インベントリから『神喰』さんの体に突き刺さっていたものの破片を取り出して2人に見せて、道中で起こったことを簡単に説明した。
「ふむ、これはまた…」
「もはや才能の域じゃな」
「賢者って人ならこのわけわからないものをどうにかしてくれるんじゃないかって」
「残念ですが、その賢者は今不在ですね」
「そんな…でも、場所は、どこにいるのかとかは」
「そもそもあ奴は数千年前から行方知らずじゃろう、そんな輩の所在なんぞ探るだけ無駄じゃ。それにこいつは別に賢者の関係者でも何でもないぞ」
ま、まじか、このままじゃ『神喰』さんを助けることも、古代遺跡の情報も何も得られないでとんぼ返りするハメに…
「賢者に関してはどうすることもできないですが、迷宮に関しては私から助言を出すことはできますよ」
「本当ですか!?」
「私の出す条件を達成出来たら、の話になりますが」
「おい貴様、何を」
エラさんがノルニルさんの肩につかみかかる前に、どこからともなく伸びてきた蔦にエラさんの体は巻き取られてしまった。エラさんがどれだけ身動ぎしても蔦はびくともしない。
「はい、それで話の続きですが」
「え、は、はい」
さすがにエラさんが大丈夫なのかを聞きたかったけど、有無を言わさぬような笑みに気圧された。
「条件と言っても難しいものではありません。スコルとハティの2匹を連れて世界樹の内部で2つの果実を探していただきたいのです」
「世界樹の中に…ですか?」
「ええ、詳しい場所は中に入ればその子たちが教えてくれますよ」
ノルニルさんの言う条件にはこのワンちゃんズが大事になってくるらしい。『神喰』さんの関係者な時点でただのワンちゃんではないだろうとは思っていたけど、まさかクエスト必須パーツだとは。
「拒否の意志は無いと見てよろしいですね?」
「はい」
「それでは参りましょう」
ノルニルさんの後を追って家を出る直前、蔦にギチギチに絡みつかれているエラさんが血走った目でこっちを睨みつけているのを見て嫌な予感がした。
《特殊イベント『月と太陽の果実』が発生しました》
《特殊依頼『陰陽蝕みし災厄』が更新されました》
のじゃロリ触手プレイ




