王の乱心‐13
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渦から出てきたスルトが右腕を空に掲げると、その手には見覚えのある大きな剣が握られていた。
「レルヴァル・・・」
スルトアバターが落とした岩を壊したら出てきたあの剣だった。
え、もしかしてあの岩を壊したことでスルトが強くなったor出てくるきっかけになったとかじゃないよね?いやでもあれ壊さないとどっちみち王都がとんでもないことになってただろうし・・・うーむ。
『やはり完全な姿ではないが・・・まあ十分だろう』
スルトが剣を横薙ぎに振るうと、エリア一帯に散らばっていたプレイヤーの過半数が消し炭になった。
・・・負けイベかな?いやだって無理でしょこれ。一撃で数百のプレイヤーが消し飛んだよ?いくらリスポーンがあるからってこれは無理すぎる。ほら周りのプレイヤーだって唖然としてるし、天目さんに至っては白目剥いてるよ。
『そら、これで終わりだ』
またスルトが剣を構えて残った私たちに狙いを定めてきた。絶対に無理なのは目に見えてるし、成功したところでほんのちょっとの時間稼ぎにしかならないけど一応抵抗はしてみる。
「『闇縛』!」
細剣を構えて『闇縛』を放つ。細剣から黒い蔦がニョキニョキと生えてスルトの腕に絡みついていく。・・・あれ、もしかしなくても私とスルトの綱引きみたいにならないかなこれ。
『ほう、我と力比べと洒落込もうというのか。面白い』
私の嫌な予感が当たったようで、スルトはニヤリと嫌な笑みを浮かべて『闇縛』の蔦が絡みついた腕をグイグイと引っ張ってきた。私の軽い体がそれに対抗できるはずもなく、スルトが腕を引くたびにそれに合わせて私の体も引きずられる。
一応他のプレイヤーたちがスルトの足元で攻撃してるのが見えるけど、スルトは歯牙にもかけない様子でニヤニヤとした笑みを崩さない。
「ディラさん!その魔法って剣を介さないと発動できないんですか!?」
依然引きずられっぱなしの私の元に天目さんがやってきてそう言った。
確かに、考えてみればこの剣を手に入れるまでは素手で魔法を撃ってたわけだし、この『闇縛』が剣を介さないと撃てないなんて道理はどこにもない。
まず細剣から出ている『闇縛』を・・・どうやって解除するんだろう。とりあえず細剣から手を放してみる。すると細剣から出ていた黒い蔦がふわりと靄になって霧散していった。
『闇縛』の蔦が消えたことで、私を引っ張るために後ろに若干傾いた姿勢を取っていたスルトは軽く体勢を崩した。崩したと言ってもあからさまに隙になるようなものでもないけども。
「『闇縛』!」
その小さな隙を逃さずに『闇縛』を発動する。今度は素手で発動してみたけど、これで掌から出ようものなら私の命はそこで尽きることになりそう。
黒い蔦は私の掌から出ることはなく、スルトの周りの地面からニョキニョキと勢いよく生えてきて今度はスルトの全身に巻き付いた。最初にこの『闇縛』を発動したのが細剣を介してだったから特に何も思わなかったけど、何もしない方が効果的な魔法らしい。
『ぬう、小賢しい真似を』
どうやらさっきよりも拘束力はあるようで、スルトが動きづらそうにしている。なんて思ったのも束の間、スルトが勢いよく腕を振るうと黒い蔦はブチブチを軽く切れていく。まあ2段階進化した魔法じゃこんなものだよね。
「ヴィオ?」
そういえばさっきからやけに静かだと思ってヴィオを呼んでみるも返事が無い。辺りを見回してもどこにも姿は見えない。
「あの、ドラゴンちゃんならさっきあの巨人の方へ向かって飛んでいきましたけど・・・」
未だに私の影に隠れ続けている天目さんからとんでもない情報が齎された。慌ててスルトの方を見ると、剣を持った右腕の近くに何か小さいのが飛んでるのが見えた。え、あれヴィオ?何してんの?
スルトも接近してきたヴィオに気付いたようで顔を顰めている。次々とスルトに絡まっていた黒い蔦が千切れていく中、ヴィオのいるであろう辺りにスルトの頭丸々1つ分はありそうなサイズの巨大な淡い水色の球体が現れた。さっきヴィオが撃ってた魔力の塊によく似てる・・・というか同じ物なんだろうな。
ヴィオが放ったであろう水色の球体はスルトの右肘に直撃したかと思うと、次の瞬間にはスルトの右腕が肩のあたりまで凍りついていた。
『貴様ァ!小娘に気圧されて記憶を失った恥知らずの分際で!』
スルトがそう言うと、剣から放たれる炎の熱量が一気に増して凍りついた右腕を溶かしていく。
そしてスルトに巻き付いていた『闇縛』の黒い蔦が全部無くなった頃、スルトが左足の膝を地面につけて片膝で跪いたような姿勢になる。
『・・・このッ!人間どもめがぁ!』
どうやらスルトに無視されても懸命に足に攻撃をし続けていたプレイヤーたちの努力が今になって実ったらしい。今度こそ大きく体勢を崩したスルトに向けてまた『闇縛』を放つ。
《プレイヤー『ディラ』のスキル『闇魔法Ⅲ』の熟練度が規定値に達したため、『闇魔法Ⅲ』が『闇魔法Ⅳ』へと進化します》
《スキル『闇魔法Ⅳ』を確認しました》
《『闇穿』が解放されました》
お?なんだか今回は進化が随分と早い気がする。
ペネトレイトだから貫通?貫く?そんな感じかな。ただ貫通系のスキルって物防も魔防もやたら高い敵に効いたりするイメージだから今回はあんまり出番はないかも。それこそゴーレムとか。
『おのれぇっ・・・!』
スルトは今度は体勢が悪いせいかなかなか『闇縛』の黒い蔦をうまく振り払えないでいる。
ここまでヴィオのおかげもあって上手く事が運べてるせいかはわからないけど、何と言うか、こう・・・
「なんだかあまり強くないですよね。一切戦ってない私がいうのもなんですが」
ああ、何とか言葉を濁そうとしたのに天目さんがバッサリと言ってしまった。
そう、端的に言えば弱い。プレイヤーが多いっていうのも要因の1つなんだろうけど、正直スルトアバターの方が数倍強かった気がする。今思えば最初このフィールドにプレイヤーを呼び込んですぐにスルト本体が出てこなかったのもよくわからなかったし、なんだか色々とちぐはぐなんだよね。
『おのれおのれおノれオのレェ!人間如きがァ!!!!!!!!!』
スルトが突然発狂するように叫ぶと、フィールドのあちこちで絶え間なく吹き出続けるマグマの勢いが増し、フィールド一帯に炎がまき散らされた。もれなく私と天目さんのところにも大きい炎が飛んでくる。ただ今回は魔法による炎だから問題なく『魔奪』でかき消すことができるはず・・・なんだけど、これまでの癖で間違えて『吸魔』を使ってしまった。違う、そうじゃない。
それはそうと、プレイヤー全員がそういった対策が出来ているわけでもないらしく、かなりの数のプレイヤーが減っていた。初見殺しみたいなものだったし、仕方ないかな。
「ふおぉ・・・ディラさん、こんなこともできるんですねぇ」
半ば興奮気味の天目さんはとりあえず置いておいて、周りの炎が消え切るのを待つことに。『魔奪』でゴリ押ししようかとも考えたんだけど、天目さんを巻き込むのはなんだか気が引けるからやめておいた。
炎が消えるのを待っていると、炎が消え切る前に空から火山弾が降ってきた。とりあえずまた『闇波』で防いで・・・待って待って何個来るの!?スルトが渦から出てくる時とは比べ物にならない数の火山弾が私たちの元に降り注いできた。
「天目さん!HPってどのくらいありますか!?」
「うえぇ!?え、えっと、400後半くらいだったと思います!」
そんなにあるのか・・・いいなぁ・・・じゃなくて、それだけあれば大丈夫・・・なのかな。とりあえず迷ってる暇はない。私の陰で縮こまる天目さんをお姫様抱っこの要領で抱きかかえて走り出す。
「え、ちょ、えぇ!恥ずかしいですぅ!それに目の前まだ燃えてますぅぅぅぅ!!!!」
「ちょっと我慢しててください!『魔奪』!」
そうして周りの炎を『魔奪』でかき消しながら、この炎と火山弾の雨の元凶のいる方へ向かった。
というわけでイベント回第13話目でした。
なんだか最後にちょっとイイ感じになってましたが今のところ理菜に百合属性を追加する予定はありません。今のところ。
それはそうと、イベントもいよいよ大詰めとなりました。戦闘前にあれだけ大口叩いていたスルトが弱いのではないかという疑惑も出始めましたが、真相は如何に。
前回の投稿者の質問にお答えいただいた方、ありがとうございます。色々考えた結果、一応作っておこうという結論に至りました。もしかしたらいいこと思いつくかもしれないですし。そのうちなろうとリンクさせておくので、アカウントを作成した際はあとがきか活動報告にでも書いておこうと思います。




