お姫様のお遊び
ご高覧いただきありがとうございます。
お姫様の口からどんな『遊び』が飛び出すのか、一切予想がつかなくて無駄に体が強張ってしまう。
「私、生まれてこの方一度も市井に出たことが無いの。お父様は『平民との交流よりも研鑽を積め。お前は王女なのだから』って取り合ってくれなくて」
「はあ・・・」
まあ、一国のお姫様ともなるとそんなものなんだろう。お忍びとは言っても、護衛が付きまとってお姫様が思うようなことはできないだろうし。
「だから、ここでコウモリさんの出番なの」
「・・・へ?」
「私のお忍び視察の護衛をコウモリさんにお願いしたいの」
んん~?どうしてそうなった~????出会って数日、しかも名前も素性も知れない怪しい黒マントに何でそんな重要な仕事を任せようと思ったんだ~?
「あの、それって周りに控えてる方たちには・・・」
「言うわけないじゃない。絶対に止められるわ」
「じゃあ、どういう・・・?」
「コウモリさんは正規の手段でここへは来ていないでしょう?それもこの城の護衛の目を欺けるような。シンシアには見つかっていたけれど」
「え、えっと、それは」
「別に咎めようってわけじゃないわ。私にはそれが必要なの」
「どうしてそこまでして街に出たいんですか?」
「どうしても行きたい場所があるの」
お姫様がどうしても行きたい場所って何なんだろう。護衛付きじゃ入れないような場所があるってことなのかな。
「そうなんですね。えっと、それでお忍びっていうのはいつ行くんですか?」
「今からよ」
「え?」
私が気の抜けた声を聞いたお姫様はクスクスと笑いながら右手を頭上に伸ばした。
「『私は体調を崩して明日まで部屋に籠る』」
お姫様がそう言って指を鳴らすと、何色もの色のついた波紋がお姫様の指から発生して庭全体に広がっていく。周りに控えていたメイドさんや執事さんたちがガクンと項垂れたかと思うと、そのまま何事もなかったかのように同じ姿勢に戻った。そして私の目の前にメッセージウィンドウが表示される。
《スキル『支配』が使用されました》
《スキル『支配』に抵抗できます》
《抵抗しますか?》
▶YES
▷NO
え?なんだかよくわかんないけどとりあえずYESを選択しておく。状況的にお姫様がこの『支配』っていうスキルを使ったんだろうけど、これまた物騒なスキルで・・・
「さすがねコウモリさん。ここであっさり操られてしまうようじゃどうしようかと思ったわ」
「そりゃどうも・・・というか、この力があれば別に私の助力なんていらないんじゃ・・・」
王女付きの護衛や執事、メイドなんて並みの人間がなれる職じゃないだろうし、そんな人たちを指を鳴らすだけで操れるならお姫様だけでお城を抜け出せそうなものだけど。
「それが出来たら苦労していないわ。私の力は未熟で、複数回使うことはできないの。一度使うと解除をしないともう一度力を使うことはできない。精進が足りないわね」
「なるほど・・・」
「それに私一人で抜けだせても、城下で守ってくれる人がいないとあっという間に攫われてしまうわ。便利な力は持っていても非力であることには変わりないもの。じゃあ、早速城下町へ行きましょう?どんな方法で行くのか楽しみだわ!」
お姫様が目をキラキラさせていらっしゃる。お淑やかな雰囲気も様になってたけど、こうして年相応にはしゃいでいるところも可愛いもんだね。
「えーっと、驚いて大きな声を上げないようお願いします。ヴィオ、出てきていいよ」
「キュ?」
私の首元からのそのそとヴィオが顔を出す。いつものように勢いよく出てこないけど、目の前のお姫様に困惑してるのかな。
「ヴィオ、今からこのお姫様と一緒に私をこのお城の外の人気のない場所に飛ばしてほしいの。できる?」
「キュ~・・・キュウ!」
ヴィオは少し難しい顔をした後に、任せろと言わんばかりに鼻息を荒くしながら私に迫ってきた。
「えっと、それじゃあお姫様。私の手を・・・お姫様?」
お姫様は私とヴィオを見て唖然としていた。え、何か変なことしちゃったかな。
「コウモリさん、あなたドラゴンを従えているの・・・?」
「ええまあ、はい」
本当は従えているわけじゃないんだけど、話がややこしくなりそうだからとりあえず肯定しておく。
「・・・す」
「す?」
「すごい・・・ドラゴンを従える人間なんて御伽話のようだわ!」
お、おお・・・お姫様のテンションがおかしなことになっている。
「コウモリさん・・・いいえ、あなた名前は何と言うの!?コウモリさんなんて失礼な呼び方出来ないわ!」
「あ、えっと、ディラです」
「ディラね、そちらのドラゴンさんはヴィオって言ってたわね。改めて、トゥーリ王国第一王女、アリアーナ・ギュルヴィ・トゥーリよ。よろしくねディラ、ヴィオ」
お姫様はそれはそれは綺麗なカーテシーで私とヴィオに挨拶してくれた。えっと、こういう時ってどう返せばいいんだろう。とりあえずお辞儀でいいかな。
「さあ、ディラ。私を城の外まで連れていってくれる?」
「じゃあ私の手を掴んでもらって・・・ヴィオ、お願い」
「キュウ!」
お姫様のちっちゃい手が私の手をギュッと握りしめる。やわらかぷにぷにで癒される。
鼻の下を伸ばしていると、例のアレが襲ってくる。そういえば何の説明もしてないけど、お姫様はこれ大丈夫なんだろうか。もし体調崩してたら極刑じゃ済まされないと思うんだけど。
「ここは・・・路地裏?」
周りを見渡すと、大人の男が2人並んでギリギリ通れるかくらいの狭くて暗い道に出ていた。先の方には人が行き交う道が見えるから王都の中で問題なさそう。
お姫様の方を見ると俯いたままプルプル震えていた。あれ、やっちゃったかこれ。
「すっっっっっっっっごいのね!!!!転移魔法なんて御伽話でしか聞いたことが無いわ!ディラ、それにヴィオ!あなたたちは何者なの!?」
転移で酔ったのかと思っていたけど、どうやらそうではないらしい。それどころか目をパッチリ見開いて少女漫画ばりに目をキラキラさせている。圧がすごい。
「ちょ、落ち着いてください。こんなところで大声出したら目立ちますよ」
「そ、そうね。見つかったらディラがただじゃ済まないものね。ごめんなさい。でもでも、本当にあなたたちは何者なの?」
「それは~・・・秘密です」
「むぅ、ケチね。まあ、無理に聞き出そうとは思わないわ。けれど、教えてくれる気になったら是非教えてほしいわ。気にならないわけがないもの。」
「気が向いたら教えてあげます。それじゃあ、行き・・・その格好だと目立ちません?少なくともどこかのお嬢様だと思われると思うんですけど」
お姫様はそこら中に宝石を鏤めた死ぬほど高そうなドレスを身に纏っていた。首にかかっているネックレスも、親指の爪くらいのサイズのダイヤモンドっぽい宝石が埋め込まれていてとてもその辺に馴染めるような服装ではない。私とヴィオがいるとはいえ、さすがにこの状態のお姫様を連れ歩くのはリスキーすぎる。
「そこはしっかり考えてあるわ」
お姫様はそう言うと、ネックレスに付いているダイヤモンドらしき宝石を手に取って軽く口付けた。すると、お姫様の首から下が光に包まれた。おお、セーラ〇ムーンみたいだ。
「これで完璧ね」
お姫様を包んでいた光が収まると、お姫様の姿が見えた。そこには、さっきまで煌びやかなドレスに身を包んだお姫様じゃなくて、素朴なワンピースを着た水色髪の普通の女の子がいた。
「それって・・・」
「うふふ、私も秘密。さあ、行きましょう?」
お姫様はそう言って、私の手を取って街へ走り出した。
というわけでお姫様回でした。
理菜がやっていることが世間一般的にどう見られているのかがじわじわと明らかになってきましたね。この先理菜は目立たずに過ごすことはできるんでしょうか。
お久しぶりです。投稿者です。
実に10日ぶりの投稿となってしまいましたが、世紀の大スランプに陥っていました。6時間パソコンとにらめっこして1文字も書けずにその日が終わるとかマジ・・・?
投稿していない間に色々思いついたので『白骨少女が逝く』とは別に突然何か投稿しだすかもしれません。その時はよろしくお願いします。




