ダンジョンの主
ご高覧いただきありがとうございます。
さっきまでただの壁や床だった場所は、瓦礫となって次々と死霊さんの放った魔法陣に吸い込まれていく。少し厳かな雰囲気を醸し出していた研究室はもう原型をとどめていない。
私は地面に細剣を突き立ててそれでなんとか吸い込まれずに済んでいる。けどそれも時間の問題で、地面がドンドン剥がれて魔法陣に吸い込まれていく。きっとそのうち細剣を刺している地面ごと持っていかれるんじゃないかな。ちなみにヴィオは私の首にしがみついてる。絞まってる絞まってる、ギブギブ。
というかほんとにどうしようもない状況になってきている。魔法陣から発生してるとんでもない横方向の重力でまともに立ち上がることすらできないし、何より打つ手がない。
苦し紛れだ、まだ使ったことのなかった『呪法』とかいうスキルを使って魔法で嫌がらせくらいしてやる。『呪い』っていう状態異常がどういうものなのかまだ分からないけど、これ以上悪い状況にはならないはずだ。
細剣は支えになってて使えないから、空いてる方の手を死霊さんの方へ向ける。ちなみに『封魔剣』は死霊さんがぶっ壊してしまった。もったいない。
「『闇波』」
重力のせいでなかなか狙いが定まらない中、『呪法』を使って『闇波』を死霊さんに向けて放つ。私が放った魔法は死霊さんの方に真っすぐ飛んでいき、そのままあっさりと命中した。あれ、躱すくらい普通にしてくるもんだと思ったんだけどすんなり当たった。死霊さんは魔法が当たっても微動だにしていなかったけど、その後に私に反撃する様子はない。もしかしてと思ってもう一度よく狙って『闇波』を放つ。見事に命中したし、死霊さんに動きはない。
「この魔法使ってる間って動けなかったりするのかな・・・?」
まだ細剣を刺している地面は大丈夫そうだし、今度は『吸魔』を使ってみる。今度は15秒きっちり使うことができた。あれ、もしかしてこれって、この重力に耐えていれば死霊さんはサンドバッグになるってこと?30秒に1度MPを回復できる手段を持ってる私とは相性が最悪だね。
「うわ危なっ」
私の背後から飛んできた大きめの瓦礫が、体スレスレの場所を通って行った。死霊さんが出した魔法陣は今もドンドン瓦礫を吸い込んで大きくなっていて、勢いが収まる気配を感じられない。ただの瓦礫でも今の私からしたらとんでもない危険物だ。あんなのが直撃してしまえば文字通り私の体は粉々になってしまう。
あれからそこそこの時間『吸魔』と『闇波』を使って死霊さんのHPを削ってるんだけど、未だに死霊さんが倒れる様子はない。やっぱり核に攻撃しないとダメージが通んない仕様にでもなってるのかな。
◇◆◇◆◇
名前:■?■
種族:死霊
Lv:1?6
HP:17?9?/38?4?
MP:493??/911??
スキル:「獄炎魔法Ⅷ」「重力魔法Ⅸ」「逾櫁*鬲疲ウⅩ」「死霊術」「呪聖魔術」「杖術」「詠唱破棄」「逧?ク昴?螽」
◇◆◇◆◇
一応HPはしっかり減ってはいたんだけど、これが私が細剣を突き刺して『吸魔』を使った時のダメージなのか、ちまちま『吸魔』と『闇波』を使ったことによる削りなのかがわからない。「なら魔法当てた後に『看破』使えばいいじゃん」って思うでしょ?このゲームね、1度『鑑定』系のスキルを使うと同じ相手には最低1時間は時間を置かないと使えないっぽいんだよね。よくできてやがるぜ。それが果たしてこのゲームの仕様なのか死霊さんがそういうことになってるのかはわからない。
まあ減ってるなら減ってるでこのまま現状維持でいいやと思ってたんだけど、そろそろ細剣を刺してる場所がやばいんだよね。研究室の原型もとっくになくなって、ドーム型の洞窟みたいになってしまっている。
「ちょ、なに!?」
どうにかできないものかなと色々試行錯誤していると、急に魔法陣から発している重力が強くなった。体が重力の乱れのせいであっちこっちに暴れまわってまともな姿勢を取ることができない。
「キュウ・・・!」
なんとか私の首に摑まっていたヴィオが苦しそうに呻いている。さすがのヴィオといえど、ここまででたらめな力にはどうすることもできない。どうにかこの重力を少しでも軽くできないかという思いで、死霊さんに何度目かもわからない『闇波』を撃ちこむ。
「えっ」
その瞬間、ついに細剣が地面から離れてしまった。体が宙に浮いて、とんでもない勢いで魔法陣の方に吸い寄せられる。せめてヴィオだけでも守ろうと、首にしがみついているヴィオを剥がしてギュッと抱きかかえる。
「大丈夫だから、私が守るからね」
「キュ・・・」
なんてできもしないことをヴィオに囁く。ヴィオもどうしようもないことを悟ったのか、私に抱えられたまま大人しくなった。私とヴィオはそのまま魔法陣が作り出した小さな瓦礫の惑星に激突・・・
『我のダンジョンで何をしておるのだあああああ!!!!!!!!!』
・・・しなかった。急に重力が消え去って、扉があった方向から人がロケットみたいに飛んできて死霊さんに激突した。
『貴様、これまで面白そうだからという理由で見逃してやったにも関わらず、我の体内の一部ともいえるこのダンジョンを破壊しようとしたな!ご丁寧に転移防ぎの術まで仕込みおって!』
『ナンだ、キさマハ・・・!』
『貴様如きに教えてやる義理もないわ!』
「え、あの」
『ディラ!こいつは我が殺すぞ!いいな!』
えーっと。全く話についていけないんだけど、あの話し方と声的に王龍さん・・・なんだよね?ずいぶんとまあ、イケメンな男の人が出てきた。高身長で紫髪のオールバックをしていて、燕尾服のようなキッチリとした服を着た姿のお兄さんだ。これが王龍さんなのだとしたら、何かイメージと違うなあ。もっとこう、髭を蓄えた好々爺みたいなのをイメージしてたんだけど。
なんて考え事をしていると、王龍さんと思わしきお兄さんは私が返事をする前に死霊さんに突撃してしまった。おお、そんな細身で肉体派なんだ。
理を越えた強者同士、どんな戦いが始まるんだろうと思っていたんだけど2人が接触した瞬間、目にもとまらぬ速さで死霊さんが部屋の隅まで吹き飛ばされていた。
『貴様如きの実力で我をどうにかできると思ったか?』
当然王龍さんは強いんだろうなと思っていたけど、勝負にならない程とは思わなかった。
というわけで王龍さん参上回でした。
あの一族の関係者が戦闘するのは初めてですが、果たしてどれほどの実力を秘めているんでしょうね。
ちなみにですが惑星というのは少し誇張表現が混ざっています。あのまま放置したらどこまで大きくなるかは分かりませんが。




