ライラ
ご高覧いただきありがとうございます。
そろりそろりと研究室まで続く道を歩く。研究室まではまだそこそこあるけど、いつ死霊さんが姿を現すかわからない。気分はさながら和製ホラーゲームだ。死霊さん、私の言葉は理解できてたみたいだけど私が誰かはわかってなかった。見た目が変わったからぱっと見で私が変な奴だと思うのは仕方ないことだと思うけど、自分がいつ自我を失うかもわからない状態で私に頼んだことをそう簡単に忘れるとは思えない。
やっぱりもう死霊さんを倒すしかないのかな。短い付き合いとはいえそれなりにお世話になったからできれば物騒なことは避けたいけど、有無を言わさず私とヴィオに攻撃してきたから和解は無理だよねえ。というか和解って言ったって死霊さんがああなってる以上やっぱりあの核を壊す以外道はないのかな。
「あれ?いない?」
そのままうだうだ考えながら道を歩いていたら研究室の前まで着いたけど、死霊さんの影も形も見えない。どこかに隠れている様子もないし、研究室の扉は開きっぱなしだった。恐る恐る部屋の中を覗いてみたけど、中には誰もいない。
「お邪魔しまーす・・・」
「キュ~」
研究室の中は少し閑散としていて、前に訪れた時よりどこか寂れているように感じた。前は魔力しか見えなかったからキラキラして見えただけなのかもしれない。
とりあえず研究室には入れたことだし、目的のものを探さなくっちゃ。死霊さんもいつ戻ってくるかわかんないんだし。
しばらく探したけど、ほとんどの紙束は魔道具に関する研究資料で意味が1つも理解できないようなものだった。一応持っておくけど、果たして私がこれを活かせる日が来るんだろうか。
すると、私の背後でドサリと何かが落ちる音がした。
「何これ、『DIARY』・・・日記?」
本棚から本が落ちてきたみたいだ。こんなところで日記を書く人なんて死霊さんくらいだろうから死霊さんの日記だよねこれ。死霊さんには悪いけど、私の目的のために日記は読ませてもらう。どこにアンデッドに関する資料を置いたとか書いてあるかもしれないし。
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?/? 不明
気が付いたら何処かわからない場所にいた。薄暗く、冷たく、視界の悪い場所だった。まずはこうなる直前、何が起きていたか、そして私に関して覚えていることを書いていこうと思う。
まず、私の名はライラ。ミズガルズ帝国に仕える宮廷魔導士だ。自分で言うのもなんだが、そこそこに強いと自負している。ここに来る前は、帝国内で部下と作戦を練っていた。・・・何の作戦だ?
ああ、そうだ。外の大陸に攻め込む作戦を考えていたんだ。皇太子様の勅命で私が指揮官を務めることになったんだった。
作戦がもう少しで完成というところで、突然空が暗雲に包まれた。まだ正午過ぎだというのに空は暗く、日の光を一筋さえ通さない完全な夜と化していた。そして大地が唸るように揺れ、ミズガルズの南方から雲に届きそうな大きさの蛇の魔物が現れた。
そしてその魔物が我が国を文字通り飲み込んで、今に至る。
書いていて自分の頭がおかしくなってしまったのかと思うくらいには荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい話だが、これは実際に起こったことだ。
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?/? 不明
とんでもないことが判明した。何となく視界が悪いなと思ってはいたが、この体は人間の物ではなくなっていた。『鑑定』のスキルを持っていないため自分の種族はわからないが、おそらくアンデッドのものだろう。食事が必要ないのもアンデッドになってしまったためと考えられる。アンデッドの研究をしていた身としてはすぐさま実験に移りたいところではあるが、まずは現状の把握が必要不可欠だ。
あれからこの建物?の中をしばらく探索してわかったことがいくつかある。まずはここがアンデッドの住処だということ。次にここは洞窟などではなく、人為的に作られた建造物であること。そして・・・ここに湧いているアンデッドたちが、見覚えのある鎧や武器を装備していること。
最後の項目に関してはまだ確証を得ることができていない。だが、そういうことなの、かも・・・しれない。
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?/? 不明
よかった、あの子らしきアンデッドはここでは見当たらない。
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?/? 不明
謎の魔道具を手に入れた。どうやら任意の場所の壁に穴を開けて道を作ることができるらしい。自分がどこにいるのかわからない状況は勘弁願いたいため、適当な長い通路の真ん中あたりの壁に私の部屋を作ろうと思う。
少し失敗した、道が長すぎる。これでは不便極まりない。・・・だが、私には道を埋め立てる魔法なんざ使えない。仕方がないので、無駄に奥まで続く通路の最奥に部屋を作ることにした。
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?/? 不明
この場所の探索が完了した。無数の部屋と入り組んだ通路で無駄に時間がかかってしまった。
そしてかつての仲間たちを見つけることができた。・・・ただし、アンデッドの姿で。
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?/? 不明
何故か本が落ちていた。それも大量に。あのまま放置しておくのも忍びないため、全て私の部屋に運び込んだ。どれも帝国の言葉で書かれていて、読んだことのある本も中にはあった。
ふと目に付いた神話の本を読んでいると、見覚えのある怪物が登場していた。名は『ヨルムンガンド』。神々の時代から生きている蛇の魔物で、普段は大陸の周囲の海の底で暮らしているらしい。その体は大陸を一周して自分の尻尾を咥えることができる程に巨大だそうだ。
そしてその蛇の魔物は、栄えすぎた文明を亡ぼすだとか、世の安寧を乱す者を食うとかいうなんとも神話らしいことが書かれていた。だが、これは馬鹿にできない。事実、帝国が巨大な蛇に食われたからだ。理由はまるでわからないが、私たちは神々の怒りを買ってしまったとでもいうのだろうか。
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?/? 不明
・・・いったいあれからどれだけの時が過ぎたのか。私は未だに生きている。生きてしまっている。かつての仲間たちは皆、意思疎通も取れないただのアンデッドとなっていたにも関わらず、私だけが意識を保ったまま果てしない年月が流れている。
皆の意識がどうなっているのかわからないが、眠らせてしまった方がいいのではないだろうか。幸いなことに私は神聖魔法が最も得意なのだ。これなら仲間たちを眠らせてやることも可能だろう。
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?/? 不明
神聖魔法を使いだしてから体がおかしい。意識が飛んで、気が付いたら変な場所に立っていた。なんてことがよくある。夢遊病のようなものだろうか。よく考えたらアンデッドが自身の弱点である光の系統の魔法を使っているのだ、どこかおかしくなっても不思議ではない。まさかアンデッドの研究をしていた人間が自分を被検体にして実験しているとは笑い話にもならないな。
特に使い道のなくなったこの外套をしまっておこうと思う。あの子との最初で最後の合作だし、このままアンデッドとの戦闘で破れたり燃えたりするのも忍びない。何かあってもすぐに回収できるように、私の研究室の近くに置いておくことにした。研究室の中には私の意識がない間に何かしていたらと思うと怖くて置けなかった。
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?/? 不明
この日記を手に取るのも久々だ。体感では数十年ぶりといったところだろうか。最近では意識を保つことさえ苦労する。いつか私は知性のない化け物へとなってしまうのか。そうなってしまう前に最後に一度だけあの子の顔を見たかった。
今日は謎の骸骨に遭遇した。私がここ数百年の日課となっているアンデッドの消滅をしていると、突然現れた。明らかに知性のある動きで私とアンデッドを警戒していた。言葉も理解できるようで、私はその骸骨に1つの願いを託した。
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?/? 不明
体がいうことをきかない。 わたしはどうなる
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?/? 不明
ぺしゃす、あいたい
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その先からは白紙で、最後のページに紙束が挟まれていた。それには『屍人について』と書かれていて、その先には何のことやらさっぱりな難解な数式やら魔方陣のようなものが書いてあった。アンデッドの研究資料ってこれでいいのかな。
死霊さんにも遭遇しなかったし、運が良かった。とりあえずこの日記はペシャスさんに絶対届けないといけないから、いったんヘルヘイムに戻ってもいいかもしれない。
「そういえば死霊さんの言ってた核って・・・」
『やハリワたシヲほろぼスキか・・・』
「え!?」
めちゃくちゃびっくりした。死霊さんが研究室の扉の向こうに佇んでいた。
『さッキはニガしテしマッたガ・・・コンどこソメッシてクレヨう・・・!』
『ディばイんフぃールド』
死霊さんがそう唱えると、研究室の床に白い魔方陣が描かれた。というかディバインって確か神聖とかって意味じゃなかったっけ!?
ライラ回でした。
まあだいたいすでに語られていることだけですが、死霊さんの日記を暴露しました。後から読み返すとかゆうま日記みたいですね。
そして読み終わるまで待っててくれる優しい死霊さん。




