昨日の敵は今日の糧
ご高覧いただきありがとうございます。
「死霊さん、私です!あなたから依頼を託されたあの骨です!」
『ホネ・・・キさマモヨルムんがンど二やラレタか・・・なラバキサまモラくにシテやロウ・・・』
死霊さんはまだなんとか言葉は話せているけど、完全に私のことがわかってない。
《特殊依頼『かつての友への鎮魂歌』が依頼主によって破棄されました》
《特殊依頼『在りし日の夢を追う亡霊』が発生しました》
《依頼を受理しますか?》
▶YES
▷NO
《特殊依頼『在りし日の夢を追う亡霊』を受理しました》
《この依頼は破棄することができません》
誰かに頼まれたわけでもないのに突然依頼が発生した。もしかして死霊さんがこうなると自然発生する系統の依頼なんだろうか。ということはさっき自動的に破棄された依頼をさっさと達成していればこうはならなかったのかな。ごめんよ死霊さん。
というわけで死霊さんと向き合ってるわけだけど、正直勝てる気がしない。死霊さんはレベルが100を超えてるとんでもない方なわけで、私がここでなんとか倒していた隊長さんとかとは次元が違う。あらかじめ死霊さんが弱点を教えてくれてはいるけど、果たして死霊さんの動きを止めて研究室に入れるかもわからない。とりあえず力量差をハッキリさせたいから『看破』を使わないことには始まらない。方向性はともかく、一応私だって進化して強くなったんだから全部見れるといいなあ。
◇◆◇◆◇
名前:■?■
種族:死霊
Lv:1?6
HP:38?4?/38?4?
MP:887??/911??
スキル:「獄炎魔法Ⅷ」「重力魔法Ⅸ」「逾櫁*鬲疲ウⅩ」「死霊術」「呪聖魔術」「杖術」「詠唱破棄」「逧?ク昴?螽」
◇◆◇◆◇
スキル名のところは相変わらずだけど、ステータスが少しだけ見えるようになっていた。だから何だって話なんだけどね!元から果てしなく強いのはわかってたし!アンデッドになってから鍛えたのか知らないけど、この人どんだけ強いのほんとに・・・
「キュウ!」
さっきまで大人しくしてたヴィオが突然死霊さんに向かって火球を吐き出した。それは見事な炎の塊で、明らかにヴィオ自身の体よりも大きいものだった。質量とかどうなってんのそれ。というか初めて肉眼で魔法を見た。骸骨時代の目で見える感じはそんなに変わんないんだね。
ヴィオの放った火球は死霊さんの元に届く前に地面に落下した。結構な速度で飛んでいるにもかかわらず、突然上から重力が加わったかのような動きで地面に落ちて消滅した。もしかしてこれが『重力魔法』なのかな。
『そノトカげ・・・タダのわイばーンデハなイナ・・・そノワカさでカエんまほウヲツかウトハ・・・』
死霊さんが静かに杖を振ると、自分の体重が何倍にもなったかのような感覚に襲われて立っていられなくなり、思わず片膝を地面につけてしまう。今度はこっちに向かって重力魔法を使ってきた。隣にいるヴィオも地面スレスレのところをフラフラ飛びながらも、頑張って羽を羽ばたかせて踏ん張っている。それ踏ん張ってるのやばくない?幼体とはいえさすがは龍ってことか。
なんて呑気に隣のヴィオを見ていると、ダンジョンの壁がじわじわと赤く染まっているのが視界の端に映った。『重力魔法』の影響で物理的に重たい頭をなんとか上げて死霊さんの方を見ると、死霊さんの周りの壁や床がドロドロに溶けてマグマみたいになっていた。ダンジョンの壁ってそんなに簡単に溶けていいものなんだろうか。
そんなことよりも、あれは絶対にやばい。見た感じ流体金属っぽいけど、そんなものに巻き込まれでもしたら確実に死ぬ。最悪私は死んでもいいとしても、ヴィオが死ぬことだけは避けたい。ヴィオが特殊な魔物だってことは重々承知の上だけど、プレイヤーみたいにリスポーンできるとは考えにくい。
「とは言ったもののどうしようかこの状況・・・!」
私とヴィオは死霊さんの重力魔法に囚われて全くと言っていいほど動けない。このままではどんどん溶ける壁と床に飲み込まれてしまう。
突然体が軽くなった。私たちにかけられていた重力魔法が解けたみたいだ。死霊さんの方を見ると、杖を地面に突き立てて何かを発動させようとしていた。なんで重力魔法が解けたのかはわからないけどこれはチャンスだ。
「ヴィオ、引くよ!」
「キュウ!」
死霊さんに背を向けて走り出し、研究室へと続く通路をひたすらに逆走する。もう死霊さんが追ってきている気配はないけど、こんな一本道だと油断もできない。
「・・・なにあれ」
必死に走っていると、後ろからマグマでできた竜みたいなものがけたたましい咆哮を上げていた。ただ、既に死霊さんからかなりの距離を取ってたから逃げることはそれほど難しくはなかった。なんとか通路を走り抜けた私たちは、逃げるように別の通路へ入っていった。まあ実際逃げてるわけなんだけど。
逃げ込んだ先の通路はところどころ崩落していて分かれ道が塞がっていた。あれ、なんか見覚えがある気がする。そのまま道なりに進むと、天井がかなり高い部屋に出た。間違いない、竜騎士さんが出てきた部屋だここ。少し警戒しつつ部屋の上の方を見渡してみたけどもう誰もいないようだ。
「なんとか逃げれたねぇ」
「キュ~」
「あれ、ヴィオ何それ」
私が魔物さんを警戒してる間にヴィオは部屋の中に入って何か拾っていた。ヴィオだからそんなに心配してないけど、さすがに警戒心が無さすぎじゃないかなあ。
「何これ・・・片手剣?」
それは刃こぼれしすぎてまともに使えなさそうな少しサイズの小さい剣だった。前来た時は何にもない部屋に魔物さんがいてそれを倒した後に竜騎士さんが出てきて・・・
「これって・・・」
ヴィオが拾ってきた剣は、竜騎士さんが持っていた剣と似たようなサイズだった。まさかと思って暗くてよく見えない足元に目を向けると、私たちの周りには骨や金属の残骸が散らばっていた。金属の残骸を1つ拾って『看破』を使ってみる。
◇◆◇◆◇
竜騎士の鎧(大破)
効果:なし
国に認められし竜騎士に与えられる鎧・・・だったもの。今は見る影もないほど壊れてしまっている。
◇◆◇◆◇
できれば当たっててほしくなかった予想が的中してしまった。王龍さんが気を付けろって言ってたレベルの竜騎士さんが粉々になってしまっていた。こんなことできるのってここじゃ王龍さんと死霊さんくらいしかいないよねぇ・・・
そのまま部屋の奥まで進むと、大きい竜の頭骨があった。このサイズ感、見覚えがある。
◇◆◇◆◇
氷竜骸の頭骨
効果:なし
氷を操る竜の頭骨。瘴気を浴びて少し性質が変化している。
◇◆◇◆◇
ですよねぇ~。どうやら私を圧倒的な力で死亡まで追いやった竜騎士さんとそのペットはここで何者かの手によって倒されてしまったらしい。まあ死霊さんなんだろうけどさ。竜騎士さんたちには申し訳ないけど、落ちてるアイテムは拾わせてもらう。今後役に立つかもしれないしね。
「さて、これからどうしよっか」
「キュウ~」
目的は死霊さんの研究室まで行って死霊さんの核を壊して、情報があったら持ち帰る・・・ってのは変わらないんだけど、どうやって研究室まで行くかが問題になってくる。死霊さんがあそこから離れてくれればそれで簡単に終わるんだけど、死霊さんからしたらまだ生きてる変な奴が現れたわけで、そんな状態で自分の弱点放り出してその辺徘徊するとは思えない。何か死霊さんを足止めできるアイテムでもあればいいんだけど。
王龍さんに頼ることも考えなくは無かったけど、どうせあの人は『我なら楽に止められるが、それでは面白くないだろう。もう少し頑張ってみろ』とか言いそうだもん。脳内再生余裕だね。
そのまましばらく部屋の中をウロウロして散らばっていたアイテムと金属や骨の残骸を集め終えてすべてに『看破』を使って死霊さんに対抗できるものがないか血眼になって探した。
「・・・お、これとかいいんじゃないかな」
というわけで死霊さんと戦闘&逃走回でした。
戦闘回とは書きましたが、果たしてこれは戦闘だったのでしょうか。いくら理菜が主人公とはいえ、あんなステータスの暴力に勝てるほど主人公補正は絶対ではありません。
そして竜騎士さんと愉快なペットたちが何者かの手によってバラバラになっていました。かわいそう(小並感)。
ちなみに重力魔法が解けた理由に関しては後々判明する予定です。




