お騒がせな姉
ご高覧いただきありがとうございます。
なんと、総合評価が5桁を突破していました。ありがとうございます。ここで色々書いても邪魔だと思うので、近いうちに活動報告の方に書きたいと思います。
「え、な、なんで・・・」
何故かネリンさんに私の正体がバレてた。ついさっきバレたらまずいから勘づかれないようにしないとって考えてたのにこれだよ。いやでもこれは私は悪くないよね、だって私が何か馬鹿やらかしたわけじゃないし。自分の身分を確立させに来たら何故かバレただけだし。
「私はね、生前から『魔力視』ってスキルを持ってたの。そのスキルを使って他人を見るとね、その人の魔力の色や量がわかるのよ。昨日女王様が珍しく外に出てるって聞いたから見に行ったら、何処の馬の骨とも知れぬ赤黒い魔力を持った骸骨が女王様に手を引かれていたわ。あの女王様の手をよ?ここに数百年住んでる私だって触れたことのないあの高貴な体を、魔力の色以外に特に目立ったところもないただの骸骨が、アンデッド如きが触れているのよ!?」
淡々と話していたネリンさんの顔に、明らかに怒りの感情とわかる表情が浮かんでいた。最後の方はどんどん語気を強めて話している。
「あの骸骨は何なのか調べ上げたけど、ここにそんな情報はなかったわ。・・・けれど、幸運なことに今私の目の前にその骸骨がいるのよ。さあ吐きなさい、どんな手段を使って女王様に取り入ったのかを!!」
やばい、最初からお姉さんの狂信者らしき人を引いてしまった。人気があるってのも大変なんだなあ。
ネリンさんに肩を掴まれて前後にガクガクと揺らされる。酔っちゃうって。最初はまともそうな人に見えたんだけど、どうやらハズレだったらしい。だってこの人私を問いただしてる時の目がおかしいんだもん。目は私の方を向いてるんだけど、私を見てない。私を通して誰かを見ているような感じだ。狂気を感じる。
「そ、そんなこと言われたって・・・」
「どうしても口を割らないというのね。なら実力行使で・・・!」
ネリンさんがそう言うと、ネリンさんが左手の親指にはめている指輪を外して私の方に向けてきた。
「『自』・・・」
「何やってんだ馬鹿姉えええええええ!!!!!!!!」
ネリンさんが私に何かの魔法を使おうとした瞬間、部屋の扉が大きな音を立てながら開いて1人の女の人が入ってきてネリンさんの顔面にドロップキックを放った。顔面に綺麗にドロップキックが入ったネリンさんは、壁際の本棚にぶつかって落ちてきた本の下敷きになってしまった。なんだこれ、ギャグ漫画か何かの世界に迷い込んだのかな。
「あのねえ!いくらアンデッドとはいえ女王様が直々に連れてきた客人なのよ!?それなのに『自白』なんて魔法を冗談でも使おうとしないで!並みの人間なら廃人になるような魔法なのよ!?」
さっきネリンさんが私に使おうとしていた魔法をこの女の人がわざわざ説明してくれた。アニメによくいる解説キャラみたいだね。っていうかそんな危険な魔法私に使おうとしてたんだ。もしこの人が割って入ってこなかったら私はどうなっていたんだろう。これが過激派厄介オタクとかいうやつなんだろうか。
さっきの言い方からして一応私の存在は認知されてるはずなんだけど、完全に私を放ってネリンさんを正座させて説教を始めてしまった。どうしたものかなこれ。
「あの~大丈夫でしたか?」
私が止めれる雰囲気でもないしどうすることもできないからソファに座って部屋を見回していると、外に立っていた兵士っぽい人がいつの間にか部屋に入ってきていて声をかけられた。声的に若い男の人っぽい。
「あ、はい。私は大丈夫なんですけど、あの2人は放っておいていいんですか?」
「いいんですよ。女王様が絡むと副マスターが暴走してそれをシリティさんが止める。これはいつもと変わらない風景なんです」
どうやら特に気に留めることもないくらいにはいつも通りのことらしい。郷に入っては郷に従えとは言うけど、私は慣れそうにない。だって女王様が絡むとってことは基本私がトリガーになるわけじゃん。毎回私の目の前でこんなことされても困る。
「あの、それであなたは?」
「このような一介の兵士にも気を使ってくれるなんてお優しいのですね、僕はニュラルといいます。副マスターの護衛兼お茶汲みのようなことをしています」
この兵士さんはニュラルさんというらしい。兜を取るとそこには何とも綺麗な中性的な顔立ちの女の人・・・いや、男の人?ニュラルさん、細身かつ軽鎧を着ているせいで体つきもわからないから性別が断定できない。
「ふふ、僕は男ですよ。わかりにくいですよね」
「いや、あの、その、ごめんなさい」
「気にしなくていいですよ。生前から『お前は男なのか女なのかわからない』って言われていたので慣れてますよ」
そう言うニュラルさんは遠い目をしていた。ニュラルさんは地雷を自分で踏み抜いてダメージを受けてしまったようだ。そこで正座をしながら本を足の上に乗せられて説教されてる人に比べたら遥かに愛嬌があると思うんだけど、これを口に出すと追い打ちになってしまうからやめておこう。
「それで、シリティさんっていうのはそこでネリンさんに説教してる方でいいんですか?」
「ええ、このギルドの統括受付嬢のシリティさんです。シリティさんを失うとこのギルドの運営が怪しくなるくらいには重要な方です。あとそこで正座してる副マスターの双子の妹さんでもあります」
どうやらシリティさんはネリンさんの妹らしい。姉妹揃って狂信者じゃなくてよかった。漫画やアニメでもそうだけど、姉妹や兄弟はどっちかがまともでどっちかがポンコツなのはお決まりなんだろうか。
しかし統括受付嬢なんて聞いたことのない役職だ。ここのギルドは冒険者の相手だけじゃないらしいから、ここで受けれる仕事の管理をする感じのお仕事なのかな。なんにせよそんな重要なポストに就いてるなら変な人じゃなさそう。
「おや、そうこうしている間にお説教が終わったようですよ」
どうやらようやくシリティさんによるお説教が終わったらしい。あれは結婚したら旦那を尻に敷くタイプの恐妻になるね。私も怒らせないようにしないと。
「ごめんなさい、みっともないところを見せてしまって」
「いえ、気にしないでください」
改めてシリティさんと向き合う。ネリンさんとは対照的に活発そうな見た目をしてるけど、顔がほぼ一緒だ。髪型が違わなかったら正直見分けがつかない。ネリンさんは若干グラデーションのかかった赤い髪をロングのポニーテールにしていて、シリティさんは赤縁の眼鏡をかけて髪の毛は1本のおさげにまとめている。うーん、どっちも美人だ。AAOの登場キャラがみんな美形なのか、それともここの住人が美形揃いなのか。
「あなたがディラさん?話はこの馬鹿姉から耳に胼胝ができるくらい聞かされています。私もあなたに会いたかったんですよ。ああ、そんなに身構えなくても私は何もしないですよ」
シリティさんの言葉に思わず身構えてしまったけど、私をどうこうする気はないらしい。
「帰魂の門を通らずにヘルヘイムに来る人なんて初めてだからお話を聞きたかったんです」
「帰魂の門?」
「女王様のお城の真ん中にある大きい吹き抜けのことです。私たちヘルヘイムの住人は魂だけの状態でまずそこを通ってこの国まで来るんです」
お城を出るときにビュートさんに説明されたあれのことだ。帰魂の門っていうんだね。確かに言われてみれば、門をくぐらずにこの国に来てアイドル的存在のお姉さんと手を繋いでるところを見られたらそりゃあ騒ぎにもなる・・・のかなあ?他にもネリンさんみたいなタイプの人っているのかな、いたらヤダなあ。
「ほら、姉さんもいつまでも伸びてないで起きてください。ディラさんに頼みたいことがあるんじゃないんですか」
「ディラにしか頼めないことだけど、その骨に頼むのは負けた気がするのよ・・・!」
「何言ってるんですか、他の誰かに依頼するとしてもここには死人しかいません。そんな人たちがどうやってヘルヘイムから出るっていうんです」
「なんとか、気合で・・・」
「できたら何百年も地の底に住んだりしません」
「うぐぅ・・・」
まったく話が読めないけど、どうやら私にしかできないようなことがあるらしい。ネリンさんはものすごく嫌がってるけど、そんなに私のことが気に入らないかね。
「ほら、ディラさんが引き受けると決まったわけじゃないんですから、とりあえず依頼内容だけでも伝えたらどうですか。このまま何もしないよりは建設的です。それに私だって暇じゃないんですよ」
「わ、わかったわよ。えっとねえ・・・」
・・・
ネリンさんの話を要約すると、「地上に出て、魔物の状況を確認して欲しい」というものだった。
というわけで姉妹の痴話喧嘩回でした。
ネリンさんは若干敵対気味ですが、ただの強火オタクだったようです。よかった。
そして、遂に地上への足掛かりを手に入れられそうな理菜ですが、そう簡単にお日様の元にたどり着くことはできるんでしょうか。
1つのコンテンツに熱中するのは悪いことではないのですが、あまりにも熱中しすぎて周りが見えなくなることは控えましょう。ファンの態度が悪いと、それがコンテンツにとってのノイズになるのです。なので、まずは自分の行動を省みることから始めましょう。常に模範オタクであることを心がけることが大切です。




