閑話 とあるプレイヤー
ご高覧いただきありがとうございます。
このゲーム「Ancient Adventure Online」がリリースされてから早2週間が経過した。私たちは最前線攻略組として、正式リリースから常にこのゲームのトップを走り続けている・・・はずなのだけれど。
「あー!敵強すぎんだろ!βから正式リリースまでの間に何があったんだよ!」
「落ち着いて。もう少しでトルヴァに着くんだから」
敵の強さにぼやく双剣を腰に提げた男と、その男に回復魔法をかける女の子。男の方がアルスで女の方がルーナ、リアルでも親交がある私の友人だ。
「もー突っ込みすぎだよ!猪じゃないんだからちゃんと頭使ってよね!」
「それで苦労するのはサンディだからな」
ちょっと刺々しい言葉をアルスにぶつけているのがユーナとルート。どっちも狩人で、ルートは後方から火力を出すタイプでユーナは斥候だったり罠を仕掛けたりする支援タイプ。リアルでの友好はないけど、一緒にAAOをする仲間だ。
「まあ、そうか。すまねえな」
「そんなに気にしなくてもいいさ。どうせいつものことだし、慣れたよ。それに決めるところははしっかり決めてくれるからそんなに心配してない」
このまま変な空気になるのも嫌だし適当に茶化しつつ励ましておく。
「おう、ありがとな。・・・しかし、それにしたってここの敵は強くなりすぎてないか?βの時より敵のレベルが8は引きあがってるぞ」
「それについては同意。私、もうレベル22」
「僕も同じだ。βの時はここの平原はレベル10半ばで楽に通過できたんだけどね」
そう、今のAAOは私たちが知ってるものではない。βの時はノーリのフィールドボスはレベル一桁でも楽に勝てるような相手だったというのに、正式リリースされていざ挑んでみるとあまりの強さに驚いた。ノーリ時点でのレベル上限15の騎士職でも一発でHPが4割減らされる圧倒的な攻撃力に、遠距離から攻撃してきたプレイヤーに対するヘイトの向き方、極めつけは体力が回復できなくなる「瘴気」というバッドステータス。まさか突破するのに1週間かかるとはだれも思っていなかっただろう。
そして今はノーリからアーチという2個目の町を通過して3つ目の町であるトルヴァを目指しているところだ。ここの道中も例に漏れず、雑魚敵たちが強化されていて私たちは牛歩の歩みを強いられているというわけだ。
「トルヴァに着く前からこんなのだと、トルヴァで起こるイベントが心配だね」
「そうね、確かアンデッドが墓地から這い出てくるのよね」
βとシナリオが変わっていなければ、トルヴァでは王都へ進むために通行証を手に入れるための依頼を達成する必要があり、その依頼の中でトルヴァの外れにある墓地からアンデッドの群れが出てくる。そしてアンデッドを倒しきると依頼報酬で王都への通行証が貰える。というものなのだけど、このアンデッドたちがどこまで強化されているかであたしたちの進退が決まる。手も足も出ないようならば、レベリングしてまたノーリの時のように上限いっぱいまで上げるしかない。
転職は王都で解放されるから現時点では白魔導士は光魔法を撃てないし、ここのアンデッドイベントは力技でゴリ押すしかないはずなんだけど、果たしてそれが通用するのか心配になる。
苦戦しつつもなんとかトルヴァに到着したあたしたちは、宿で回復してからβの時と同じ流れで村長から依頼を受ける。
「別にストーリーは変わってないのね」
「ここまでは一緒みたいね。まあ夜からが本番といっても過言じゃないんだけどさ・・・」
「βの時はただの骸骨が20体弱だったよな。どんな化け物が出てくるか想像しただけで武者震いが止まんねぇ」
「口は勇ましいけどアルスあんた、腰が引けてるわよ」
「うるせぇ!」
・・・
そして夜になった。私たちは村長に案内されて例の墓地に来たんだけど・・・
「なんか広くね?」
「明らかに面積が増してるね。これは骸骨が増えてるのは間違いなさそうだ」
βの時よりも、明らかに墓地が広くなっていた。βの時は教室くらいの広さだったものが小さめのスーパーの駐車場くらい広くなっていた。何が出てくるってんだまったく。
「来た!」
ユーナが声を上げると、地面が盛り上がってまさに骸骨という風貌のモンスターが出てきた。見た目はβの時はそんなに変わらないようだ。何体かの骸骨が防具を装備してるくらいだろうか。数は23体、こちらもそこまで変わってないらしい。
それぞれが武器を構えて戦闘態勢に入る。ルートが射った矢と同時にアルスが骸骨に駆けていき、狙いをつけた骸骨の胴体を砕く。あたしはすかさず前に出て『挑発』を使って骸骨たちのヘイトを集める。
「『鑑定』終わった!どいつもただの骸骨よ!でもレベルが20はあるから油断しないで!」
「ああ、了解だ」
ユーナが持つスキル『鑑定』で骸骨のステータスを見てもらったが、どうやらレベルが少々高いだけらしい。何かのスキルを持っているわけでもないらしいから、ちゃんと立ち回れば今のあたしたちの脅威にはならない。そのあとも迫りくる骸骨たちを蹴散らし続け、最後の骸骨を倒した。
「なんだ?もう終わりか?」
「ここのイベントが終わったら村長がまたここに来るはずだからまだ終わってはないわね。もしかしてウェーブ制になったのかしら」
近場の岩場に腰かけて次の骸骨たちを待っていると、また墓地の地面が盛り上がって骸骨たちが出てきた。さっきより数は多くなってるけど、こんなものなんだろうか。だとしたら拍子抜けというかなんというか。いや、平和に終わって悪いことはない。余計なことを考えるのはやめておこう。
「・・・なにあれ」
「なんだ?何かあったのか?」
「あれよあれ。なんか大きくない?」
ルーナが指をさした先では3体の骸骨が地面から這い出ていた。周りの骸骨たちと比べると明らかに体躯がいいし、装備してる鎧もどことなく上質なもののように見える。中でも真ん中の骸骨は特にいい装備をつけている。
「『鑑定』はどう?・・・ユーナ?」
「えっと、驚かないでほしいんだけど、まず左右の2体は『骸骨騎士』って種族で、レベルは27、HPは3000近くあってスキルも3つ持ってる・・・」
「なんだそりゃ!?サンディよりHPあんのかよ!」
「それでね、真ん中の奴なんだけど・・・種族は『骸骨隊長』って種族で、レベルは34、HPは6000超えててスキルは5個も持ってる・・・」
なんだそれは。思わず頬がひきつる。左右に控えてる骸骨騎士とやらでも胃もたれがするのにそれの倍以上強いモンスターがさらにいるだと?なんだそれは、運営は私たちを王都へ行かせる気がないんじゃないだろうかと疑ってしまう。
「それは・・・」
「無理、ね」
「どうせ逃げれないんだし、アイテムの消耗を抑えながら戦うしかない。不幸中の幸いか、格上だからデスペナも軽いもので済むだろうしね」
そうするのが最善だろう。覚悟を決めてあたしの身長の1.5倍はあるように見える骸骨騎士の前に立ちはだかる。攻撃を受け止めきれる自信はないけど、『挑発』を使って骸骨騎士たちのヘイトをあたし1人に向ける。すると骸骨隊長が真っ先にあたしの前まで躍り出てきて、巨大な剣を振るう。いつものように大楯を構えて攻撃を迎え撃つ。
「カハッ・・・」
大楯で受け止めたはずの剣は、あたしの左肩に深い傷をつけていた。構えていた大楯は一撃で耐久値を0にされ、破損状態になってインベントリに入っていた。嘘だろ?これでもAAOで1番のタンカーだと自負してたんだけど。
「サンディ!今回復を・・・えっ」
あたしの回復をしようとしていたルーナは、いつの間にか背後に迫っていた骸骨騎士の1体に胸を貫かれていた。霞む目で周りを見ると既にルートもユーナもやられていて、残ったのはあたしとアルスだけだった。アルスはなんとか骸骨騎士の1体と斬り合っているけど、あっちも時間の問題だろう。なんとか立ち上がろうとするあたしのもとに骸骨隊長がやってきて、首を飛ばされて意識が暗くなった。
そしてあたしたちは、アーチの宿で目を覚ました。
「アルスが戻ってきたら対策会議とレベリングだね」
というわけで初の別プレイヤー視点でした。
一気に5人も出してしまって誰が話してるのか分かりづらいと思うので一応こちらで補足を加えておきます。一人称が「俺」=アルス、「私」=ルーナとユーナ、「僕」=ルート、「あたし」=サンディとなっております。書き分けが難しすぎる・・・




