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02-26 献上刀

 そこに、珍しく『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーが口を挟んだ。

「ええと、フロロさんが言ってましたが、『地の精(グノメ)』を見つければ、どうにかなるんじゃないかということです」

「『地の精(グノメ)』!?」

「『地の精(グノメ)』なのです!?」

 ゴローとティルダが驚いた声を上げた。

「ティルダは知っているのか?」

「はいなのです。『地の精(グノメ)』は土や鉱石をつかさどる精霊なので、ドワーフはあがめているのです」

「ほう」


 地の精(グノメ)

 英語読みではノームとなり、こちらの方が一般に知られているかもしれない。

 四大(地水火風)の1つ、地の精霊といわれる。

 ちなみに水はウンディーネ(オンディーヌ)、火はサラマンドラ(サラマンダー)、風はシルフィード(シルフ)。

 四大に次ぐ高位精霊の1つが『木の精(ドリュアス)』なので、フロロが助言したということなのだろう。


「……だけど、そんな高位精霊、そんじょそこらで見つかるものでもないんだろう?」

「それはそうなのです。ドワーフの伝承によると、古い鉱山の奥で出会ったとか、落盤に遭ったが地の精(グノメ)に助けられたとか、あるいは稀少な鉱石の鉱床を教えてもらったとか……」

 ティルダはゴローに説明した。

「なーるほど。確かに、出会えたら稀少鉱石のありかを教えてもらえそうだが……」

 そこで言葉を切ったゴローは、ちょっと考えてから続けた。

「……稀少鉱石を見つけるのと、地の精(グノメ)に出会うのと、どっちが易しいんだ?」

「あ」

 ティルダが間抜けな声を上げた。

「……た、確かにそうなのです……」

 この屋敷にいると、『屋敷妖精(キキモラ)』やら『木の精(ドリュアス)』やら『エサソン』やら『ピクシー』やらが日常的にそばにいるので、つい……ということらしい。


「……で、『地の精(グノメ)』ってどこに行けば会えるんだ?」

「うーん……」

 ティルダに聞いたが、どうもわからないようで、考え込んでしまった。

「フロロは知っているのかな?」

 ゴローがサナに尋ねると、サナはフロロを呼んだ。

「フロロ、知ってる?」

「……それが、よくわからないのよ」

 サナの呼びかけに応えて、フロロが現れた。

「『地の精(グノメ)』がいるのはだいたいにおいて土の中。あたしも土の中に根を張っているから、多少の情報共有はできるんだけど……」

 今のところ、自分の影響範囲内にはいないようだ、とフロロは説明した。

「じゃあ、いそうなところって、わかる?」

「うーん……ドワーフの国には間違いなくいるわね。あと、獣人ビーストマンの国にもいる可能性が高いわ」

 逆に、エルフの国にはいないだろう、とフロロは言った。

「そっちにいるとすれば『風の精(シルフ)』でしょうからね」

「ふうん……じゃあ、残る二大精霊はどこにいるんだ?」

 興味があったので、ついでとばかりにゴローが聞くと、

「『火の精(サラマンドラ)』は火山ね。『水の精(ウンディーネ)』は湖にいるはずよ。それしか知らないわ」

「そっか、ありがとう」


 いずれにしても、この辺にはいないのだろうなあと、がっかりしたゴローであった。


*   *   *


「で、だ。刀の話に戻すぞ」

 結局、長い刀はゴロー。短い刀はサナが。そして中くらいの刀を、マッツァ商会に卸すことにしたのである。

「このままで、いいの?」

 サナが言うのは、刀の『こしらえ』は、ゴローの指示どおりに質実剛健。つまり『地味』なのである。

 王女殿下に献上するには見劣りするのではないかとサナは心配したのである。

「うーん……」

 ゴローも、それは少し気になっていた。

 だが、ゴローの『謎知識』は、そうした華美な装飾は逆に下品になりがち、と訴えかけているのである。


 しかし、その『謎知識』が、いい解決策を提示してくれる。

「そうか、『こしらえ』だけ別に作ってもらえばいいんだ」

 実際の日本刀も、長期保存には『白鞘しらさや』という、ホオノキで作った簡単な鞘と柄に納めて保管する。

 使う際には、好みのこしらえに取り付けるわけだ。

 目釘のみで取り外せるがゆえの『模様替え』である。


「儀礼用には、飾り立てたこしらえ。それに、実戦用のこしらえと、保管用のこしらえをセットするんだ」

「あ、それ、いいのです!」

 ティルダも賛成してくれたので、この方向性で行くことにした。


*   *   *


 ホオノキはこの世界にあるのかないのかわからないので、性質が似た軟らかめの木で『白鞘』を用意した。

 こちらは簡単なので『ブルー工房』に行く必要はない。ティルダが半日で仕上げてくれた。

「さすがだな」

 ゴローが褒めると、ティルダは照れた。

「こ、このくらいできなければドワーフの名折れなのです!」


 そして儀礼用の『こしらえ』については、ティルダに任せることにした。

 この世界の装飾に関しては、ティルダはゴローより数段詳しいからだ。


「そちらもお任せくださいなのです!」

「よし、頼むぞ」

 最近のティルダは、作ったアクセサリーが好評で、仕事も増えてきているので少し自信がついてきたようだな、とゴローは微笑ましく思ったのだった。


「お昼の用意ができました」

 そこへマリーから声が掛かった。

 ゴローたちは連れだって食堂へと向かったのである。


*   *   *


 昼食を終え、ゴローは庭に出てみた。

「……今日も暑いな」

 季節は真夏。太陽はほとんど真上から照りつけてくるので、影も足下に小さくできているだけだ。

 『暑い』と言ってはいるが、ゴローとサナは汗もかいていない。

 汗をかいたように見せることもできるが、今はそれはやっていない。

「……こういう陽気って、獣人(ビーストマン)つらいだろうな」

 誰にともなく呟いた言葉だったが、そばにいたサナが聞きつけた。

「うん。獣人(ビーストマン)はあまり汗をかかないから、体温調節が苦手ときいたことがある」

「あ、やっぱりな」

「だから『サーカス』のテント内は空調がされていたんだと、思う」

「あ、そうだな」

 そして思うのは工房内の暑さだ。

 一応、空調……というより、換気はしているが、それでも暑いだろうと、ゴローはティルダを思った。

「火も使うしな」

「冷房の魔導具、買う?」

 ゴローの考えを察したサナが提案する。

「うーん、どうしようか」

 おそらくだが、そういう魔導具は高い。そして、この暑さなので品薄が予想された。

「……作れないかな?」

 とゴローが言うと、サナは『作るの?』という顔をした。

「いや、さすがに1からは難しいから、『ブルー工房』に頼もうと思う」

「それが無難。でも、ゴローのことだから、何か考えがあるの?」

「漠然とはあるんだが、こっちの空調の魔導具の仕組みを知らないから、今のところは何ともな……」

 ゴローとしては『足漕ぎ自動車』にも設置したいと思っているのだ。

 この暑い最中、自動車を漕いでいて暑くないというのははたから見たら異常だろうから。


*   *   *


 と、そういうわけでゴローは単身『ブルー工房』にやってきた。

「ゴローさん、今日は何ですか?」

 アーレン・ブルーが上機嫌でゴローを出迎えた。

「ゴローさんはいつも、面白い依頼を持ってきてくれますからね」

「ええとな、『空調』についての相談なんだ」

「空調ですか。最近暑いですからね」

 ゴローは1つ頷いて、話を進める。

「まず大前提として、今使われている空調の仕組み……いや、原理でいいから教えてもらえないかな?」

 普通なら企業秘密と断られてもおかしくない質問だったが、アーレン・ブルーは、

「他でもないゴローさんですし、何か意図があるんでしょうからね」

 と言って、説明してくれることになった。

 絶大な信頼を寄せられているゴローである。


「ええとですね、まずは冷房からですが、この部分に『氷』を作り出しまして、そこに風を送り、冷たい風を作り出しています」

「なるほど」

「暖房は、火をおこすわけにいかないので、少々面倒ですが、『溶かす』魔法を使いまして、錫を溶かし、そこへ風を送っています」

 もちろん、溶けた氷や錫が外部へ滴ったりしないようにする構造や、外部の温度を検知する工夫などもあり、アーレン・ブルーはそれらを簡単にではあるがゴローに説明してくれたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は1月14日(火)14:00の予定です。


 20200112 修正

(誤)『大地の精(グノメ)

(正)『地の精(グノメ)

 2箇所修正。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなく地の精当たりハカセの個人鉱山に気づいたら居ついてそう……………(それなりにレア鉱石産出してるし)
[一言] さすがのフロロでも地の精を連れてくるなんてのは無理ですよねー 仮に連れてこられるとしても環境的に住み着いてはくれなさそうですし
[一言]  ホオノキはこの世界にあるのかないのかわからないので、性質が似た軟らかめの木で『白鞘』を用意した。 ↑ ホオノキってまな板にも使われてるのに代用に軟らかい木をというのは、宝石や武具を加工する…
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