14-24 不穏な予想
『呪具』を池に投げ入れようとした、謎の人物。
そのフードを解くと、正体が明らかになった。
「人形……?」
「ゴロー、これ、ガーゴイル」
「あ、ガーゴイルか。なるほど」
人間ではないようだと思ったら、まさかのガーゴイルであった。
「ガーゴイルなら、これで止まる、はず」
サナはそう言って、
「『エポケー』」
と、停止命令を出した。
「お、停まったみたいだ」
じたばたするような動きがなくなり、大人しくなった。
「……汎用命令で止まるということは、安物」
「そうなのか」
「ハカセのガーゴイルはパスワードも必要だから」
「なるほど」
納得したゴローは、横たわるガーゴイルを見つめた。
「……さて、どうしよう」
「……」
「屋敷に運ぶのも、なんか嫌だなあ」
「ここで、分解する?」
「できるのか?」
「ハカセの助手をしていたから、作るのは無理でも、ばらすことは」
「そうか……じゃあ、頼もうかな」
そこに『ルサルカ』の声が。
「なんか、てつだう?」
「あ、いや、いいよ。ルー、ありがとな」
「うん。それじゃ、いけに、もどる」
『ルサルカ』のルーは、池に戻ろうとする……が、それをサナが止めた。
「あ、待って」
「なに?」
「せっかく持ってきたから、あげる」
手提げ袋に入れてきた『癒やしの水』をルーに渡す。
「あり、がと」
受け取ったルーは、その場で4本とも飲み干す。
特に変わったようには見えなかったが、
「なんとなく、おちつく」
と、嬉しそうにしていた。
「そうか、よかったな」
「うん。ゴロー、……サナ、また」
そしてルーは池の中に戻っていった。
* * *
「さて、こいつをバラしてくれ」
「うん」
まずサナは、ガーゴイルの背中を探り、キーパーツを抜き取る。
そうすると、組木細工を解体するように、簡単にガーゴイルを部品にバラすことができるのだ。
「これが、こう」
サナは手際よくガーゴイルを分解していく。
そして。
「あった」
胸部から、ピンポン玉ほどの球体を抜き取ったサナ。
「『制御核』。これをハカセに調べてもらえば、黒幕がわかる、かも」
「よし!」
そして立ち去ろうとして……。
「このガーゴイルの部品、ここに置いておくのはまずいんじゃないか?」
「確かに、そう。……どうしよう?」
「面倒だけどざっと組み立てて、ハカセに見てもらうのは?」
「それしかない……。でも、ハカセ、喜ぶかも」
* * *
「おおお! 珍しいものを持って帰ってきたねえ!」
喜んだ。
なんだかんだで、もう時刻は朝の4時半、ハカセはもう起きていたのである。
「面白い作りだねえ……とはいえ、かなり簡素化されているよ」
「そうなんですか?」
「この腰の関節部分なんて、手抜きにしか見えないさね」
「ハカセ、自分と比べちゃ、いけない」
サナが注意する。
「そういうもんかねえ」
「そう」
ハカセに匹敵するような魔法技術者はそうそういるものじゃない、とサナが断じた。
そしてハカセは『制御核』の解析に取り掛かる。
魔法陣を刻んだプレートの上に乗せ、魔力を流すことで擬似的な動作をさせることができるのである。
「うーん……これも、大したものじゃないねえ……」
「そうなんですか?」
「『持たせた物……『呪具』だろうね……を池に投げ込んでこい』という命令だよ」
「それだけですか?」
「それだけさ」
「もちろん、『障害物を避けろ』とか、『倒れたら起き上がること』というような、言わずもがなの基礎命令も入っているけどね」
命令した者のことはまるでわからないわけだ。
「でも少しだけ手掛かりがみつかったよ」
「それは?」
「以前、『教会』の連中と揉めたろう?」
「そんなこともありましたね」
『プルス教会』は人族至上主義で、以前エルフ族が来訪しようとした際にトラブルを起こしかけ、ゴローが未然に防いだのである。
「その『教会』の仕業のような気がするのさ」
「えっ!?」
「纏っていたこの服、いろいろ手を加えてあるけど、元は教会の修道服のようだしねえ」
「なるほど……」
「ヴェルシアに見てもらえばよりはっきりわかるかもだけど」
ヴェルシアはかつて洗脳され、教会に属していたのである。
今では完全に洗脳は解け、ゴローたちの仲間になっているが。
「気になるんでしたら、今夜連れてきましょうか」
「そうだねえ……」
ハカセも、教会絡みということでなんとなく気になるようだった。
「それじゃあハカセ、朝ご飯にしましょう」
「ああ、それはいいね。お腹が空いたよ」
時刻は午前6時半、4時頃から起きていたハカセは空腹を感じていた。
* * *
「今朝は朝粥です」
「いいねえ、胃に優しいよ」
別にハカセは胃が悪いわけではないが、何日かにいっぺんは朝粥を食べたがるのだ。
副菜としてカブラの味噌汁、梅干し(フロロの)、カボチャの煮つけ、甘い卵焼き、お新香。
お茶はほうじ茶である。
お茶とお粥には『癒やしの水』を使っているので、健康にいいことこの上なし、である。
「美味しかったよ、ごちそうさま」
食事が済むと、お茶を飲みながらこれからのことを話し合う。
「ちょっと様子見に来たはずが、変な事件に巻き込まれてしまったねえ」
「本当ですね……」
しかも、その『穢れ』を引き寄せる『呪具』がどこから、なんのためにもたらされたか、がまだわからないのである。
「『教会』だと仮定して、何のためにこんなことをするのかねえ……」
「そうですね……」
「……」
ハカセ、ゴロー、サナの3人は考え込んだ……。
そしてサナが、
「復讐、って可能性は?」
と言い出した。
「復讐? ……そうか……」
王都における『教会』の壊滅には、王家とゴローが関わっている。
まずゴローの屋敷を、次いで王家もしくは王都を『穢れ』で覆おうと思っても不思議ではない。
「可能性はあるねえ……」
「しかしサナは、こういう推理が得意だな」
「そう?」
感心するゴローだが、当のサナはよくわからない、と首を傾げた。
「まあ、得意不得意、というものもあるんだろうねえ。あんたたちを作ったあたしが言うのも何だけどさ」
苦笑するハカセであった。
* * *
「さて、今日はどうするかねえ……世界一周の旅に出るための準備のつもりが、こんなことになってしまって……まったくもう……」
ぼやくハカセ。
「でも、もし最終的な狙いが王都だとしたら、今後も『呪具』を仕掛けに来るんじゃないでしょうか」
「来るだろうねえ……」
「というか、あの『ガーゴイル』が戻ってこなかったら、何か手を打つんじゃ、ない?」
「それはありえるな」
一番ありえそうなのが、別の『ガーゴイル』が様子を見に来ることである。
「今度来たら何もせず、そのまま返して後をつけるのがいいんじゃないかねえ?」
「そうですね……『ガーゴイル』なら追跡は楽そうですが」
「術者に近付くと追跡がばれるかもしれないよ?」
「それは困りますね」
なかなか悩ましい。
早くこの騒動にケリをつけ、世界一周の旅に出たい3人であった……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は9月25日(木)14:00の予定です。
20250918 修正
(誤)『呪具』を池に投げ入れようとした,謎の人物。
(正)『呪具』を池に投げ入れようとした、謎の人物。
(誤)「もちろん、『障害物を避けろ』とか、『倒れた起き上がること』というような、
(正)「もちろん、『障害物を避けろ』とか、『倒れたら起き上がること』というような、




