14-20 モニター
日が改まった。
夜が明けると、さっそくゴローとサナは『木の精』のフロロのところへ行く。
「おはよう、フロロ」
「おはよう、ゴロちん、サナちん」
フロロも、昨日よりは大分力が戻ってきているようだ。
「『穢れ』の大元と思われる『呪具』が池から見つかったんだよ」
「あ、そうなんだ。………………うん、確かに、『気脈』の穢れがなくなったのを感じるわ」
「『呪具』は、ハカセが封印したよ」
「それが一番ね」
フロロもほっとしたような顔になった。
「それで、池に水妖がいたんだよ……」
「水妖?」
「ハカセが言うには『ルサルカ』じゃないか、っていうんだけど、『穢れ』に当てられていたからはっきりしないんだけどな」
「ルサルカねえ……そんなのいたかな?」
「やっぱり?」
「ええ。……ちなみに、どんな姿だった?」
「それはな……」
ゴローは、最初に見た姿と、『浄化』した後の姿を説明した。
「……うん、『ルサルカ』で間違いなさそうね。……だとしたら、どっから流れてきたんだろう……」
さすがに、フロロにもそこまではわからないようだった。
「あとは、あの『呪具』がどこから来たか、あるいは誰が投げ込んだか、だ」
「そうねえ……それこそ、『ルサルカ』が知っているかもよ?」
「あいつがか……」
あまり会いたい相手ではないので、さすがのゴローも渋い顔になった。
「……それともう1つ。……今回の事件の目的は何だと思う?」
「それをあたしに聞く?」
「フロロの意見も、聞いてみたい」
「うーん……サナちんにも言われちゃなあ……」
「お願い」
サナにも頼まれ、フロロは渋々頷いた。
「……じゃあ、言うけど、あっているかどうかははわからないわよ?」
「うん」
「えーとね、『実験』じゃないかと思うの」
「実験……」
「そう。あたしの感想だけどね」
「実験、って、『呪具』の?」
「そう。どのくらい効果があるか、を試したんじゃないかなって」
「……」
「そう判断した理由は?」
納得できず、ゴローが尋ねた。
「詰めが甘いから、かな?」
「詰め?」
「そう。何か、誰かを呪うなら、追加でもっと仕掛けてきてもいいと思うし」
「あ、そうか……」
実質被害が出ていないことからも、その説には納得できるものがあった。
「それは思わなかったな……」
被害を受けたのはゴローたちの屋敷だけ。
が、その当事者だけに、『詰めが甘い』という発想には至らなかったのだった。
「まあ、そういうことね。……それじゃあ、もういいかな? もう少し休みたいから」
「うん、ありがとう、フロロ」
「じゃあね、サナちん、ゴロちん」
そしてフロロは木の幹に吸い込まれるようにして消えていった。
* * *
「……と、いうわけなんです」
「なるほどねえ」
フロロのところから戻った2人は、ハカセに説明した。
「実験かい……確かにそれなら、辻褄は合うね……」
ハカセも、フロロの説に納得がいく、と言った。
「だけど、だとしたら……」
「ハカセ?」
「ゴロー、サナ、あんたたちだったらどうするね? 何かの実験をしたら、結果が知りたくならないかい?」
「あ」
ハカセに言われて、ゴローたちも気が付いた。
もしこれが実験だとしたら、犯人(?)はきっと、結果を確かめにやって来るだろう、ということを。
「そして『呪具』が消えていたらどうするだろうねえ?」
「……」
「ちょっと想像がつきません」
「私も」
「あたしもさね」
ハカセは小さく溜息をついた。
ゴローは、思い付くままに並べてみる。
「再度『呪具』を池に沈めるか、あるいは『呪具』を拾い上げた者を探すか……諦めて何もしない、ってことはないでしょうね」
「ちょっとわからないねえ」
「その、相手がどんな奴かわかりませんからね」
「それだよねえ」
ここでサナが意見を口にする。
「ハカセ、『ガーゴイル』で監視してみるのは、どう?」
「なるほど、『ガーゴイル』かい……」
『ガーゴイル』は、魔導人形のことである。
ゴーレムとは異なり、己の意思を持たず、命じられたことのみを行う。
今回の場合、『池に近づく者、あるいは物がいたら報告しろ』という命令を遂行させればいいだろうと思われた。
「報告は……この距離ですから、魔法で何か合図をさせればいいんじゃないでしょうか」
「『双方向夫婦石通信機』を使うまでもないかねえ」
「ゴロー、でも、目立つ合図をさせたら、相手に気付かれるんじゃない?」
「あ、そうか……」
サナの言う通り、閃光弾を上げる、というようなことをしたら相手に気付かれないはずがない。
「うーん……どうしようかねえ……」
「やっぱり『夫婦石通信機』?」
「その、ごく簡単なものにしておくかねえ……近距離だからクズ石で十分そうだし」
「ですね。何か信号を送るだけでいいです。あ、モールスにします?」
「モールス……前にゴローが言っていた、『トン』と『ツー』の組み合わせで通信するやつだね?」
「はい」
「それでいいか。それなら半日でできそうだよ」
ということでハカセは、『モールス式夫婦石通信機』の開発を始めてしまった。
* * *
既に『夫婦石通信機』があるので、ダウングレードとも言えるこちらは、2時間ほどで5機もできてしまったのである。
「構造は簡単だからね。送信側の接点がクローズすると受信側もクローズする、ってだけだよ」
「5つも作ったのはなんでですか?」
「ちょっとした呼び出しに使えるんじゃないかと思ってね。たとえばノッカーの代わりとか」
「ああ、離れた場所にいてもわかりますね」
「そういうことさね。5つというのは、ちょうど手頃な小さい石が5つあったからさ」
「わかりました」
続いてハカセは、監視用の『ガーゴイル』を作っていく。
こちらは監視用なのでごくごく小さい。高さ20セルほど、戦闘力は皆無だ。
見た目は『こけし』のようでもある。
それを3体、ハカセは1時間で作ってしまった。しかも『モールス式夫婦石通信機』内蔵である。
「さすがハカセですね」
「お世辞はいいから、これを池のそばに仕掛けてきておくれ」
「それはいいんですが、知らせが来たとして、駆けつけていっても間に合わないんじゃないでしょうか?」
「え……ああ、そうだね。……全く、そういうことはもっと早くお言いよ!」
「すいません」
ハカセに怒られてしまったゴローは、改めて知恵を出す。
「でしたら、画像を見ることができる魔導具がありましたよね? あれを仕掛けておきましょうよ」
「ああ、『魔導モニター』だね」
『魔導モニター』は『夫婦石通信機』ができるよりも前にハカセが開発したもの。
映像も送ることができるが双方向ではないため、『通話』ができない。
「以前ゴローに持たせたやつがあったから、それを使おうかね」
「それならいいですね」
「じゃあ、仕掛けてきておくれ」
「わかりました」
「気を付けるんだよ」
「はい」
こうして午後一番で、ゴローは再び『池』へと向かったのであった。
* * *
〈ゴロー、どこに仕掛ける?〉
〈まず、池が見えるところだな〉
サナは『屋敷』に残り、『念話』でゴローとやり取りしている。
〈木の上?〉
〈それがいいだろうな〉
そんなやり取りの後、ゴローは木を物色し、池を見渡せる場所を選定する。
そして、3方向から池に向けて『ガーゴイル』を木にくくりつけ、セットした。
〈これで、池に近付くモノがいたら信号が入るはずだ〉
〈うん〉
〈試しに、俺が池に近付いてみる〉
〈了解〉
ということで、ゴローは試しに池の畔に近付いて見た。
〈あ、信号が入った〉
〈よし、うまく動作してるな〉
〈うん、いい感じ〉
〈あとは、この『魔導モニター』をセットする、と〉
そちらは『ガーゴイル』よりも高い位置にセットしておく。
〈どうだ?〉
〈うん、池がよく見えてる〉
〈これでよし〉
モニター類をセットし終わったゴローは、そっと池を後にしたのであった。
さて、成果は……?
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8月28日(木)14:00の予定です。




