表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
485/506

14-15 真相解明への1歩

 王家の配下が『古代遺物(アーティファクト)』を持ち帰った、その礼物。

 それが、貴重品倉庫に収納されているという。


 貴重品倉庫は、倉庫と呼んではいるが、屋敷の奥にしつらえた『ウォークイン・クローゼット』のようなものだ。

 場所は、誰も使っていない執務室の奥。頑丈な扉が付いている。


「こちらです」


 中は床も壁も天井も石造り。

 とはいえ壁には板が張られており、棚が置かれている。

 その棚の中段に『礼物』があった。


「これがその礼物です」


 ティッシュの箱よりもすこし大きいくらいの包みである。


「まだ開けておりませんが、危険物ではなさそうです」

「うーん……なんか気になるねえ……う——ん……」


 包みをひと目見て、ハカセがうなった。


「ハカセ、気になることでも?」

「いや、魔力はほとんど感じないんだけど、なんとなくぞわぞわするんだよ……」

「じゃあ、『単眼鏡』で見てみましょうか?」

「ああ、その手があったねえ」


 『単眼鏡』を使えば、包みをほどくことなく中身を確認できるはずである。


「どれどれ……ええと、何やら宝石のようなものが3個、入っています」

「宝石かい。色と大きさは?」

「色は、1つは緑、1つは赤、もう1つは黄色ですね。大きさは直径2セル(cm)くらい、真球です」

「うーん……特に怪しくはないねえ……魔力も感じないし……原因はこれじゃないのかねえ……」

「ハカセ、開けるのは後にして、可能性は小さいですがもう1つの納品物を見てみましょう」


 マッツァ商会から納品された小麦粉と砂糖である。


「はい、それは食料倉庫にあります」


 『屋敷妖精(キキモラ)』であるマリーの案内で地下にある食料倉庫に行ってみたが、こちらも何の変哲もない小麦粉と砂糖であった。


「うーん、振り出しに戻ったねえ」

「ですねえ」

「うーん……」


 今夜のハカセはうなってばかりである。


「ハカセ、ちょっとだけ休みましょう」


 ここらでゴローは、ちょっと休もうと提案した。


「そうだねえ……」

「マリー、紅茶を淹れてくれないか。すこし甘めにして」

「私のは、うんと甘く」

「はい、わかりました」


 というわけで、夜中(午後11時)の茶会となった。


 ハカセは2徹や3徹は平気(健康には悪い)だし、ゴローとサナは眠る必要はない。

 マリーは『屋敷妖精(キキモラ)』なので、むしろ夜のほうが調子がいい……。


「ああ、ほっとする味だねえ」

「ん、甘い……おいしい……」

「……」


 ようやく一息ついたなと、ゴローも肩の力を抜いた。


「そういえばハカセ、詠唱の前の呪文みたいな言葉はなんですか?」


 この機会に聞いてみよう、とゴローは思った。


「『καθαρση』かい? あれは古代語の詠唱だよ。使うのが久しぶりだったから、補助として唱えたのさ。もう慣れたから普通の詠唱だけで大丈夫だけどね」

「そういうものなんですね」

「そういう意味では、『浄化(カタルシス)』は古くからある魔法なんだろうねえ」

「今度教えて下さい」

「いいともさ」


 そんなのんびりしたひととき。

 だが……。


「………………あれ?」

「どうしたの、ゴロー?」

「どうしただい?」

「ゴロー様、お茶が不味かったでしょうか?」


 突然、何かに気付いて動きを止めたゴローに、ハカセたちは三者三様の反応をした。


「あ、いや、あの、ハカセ、この屋敷にたかっていた『黒ピクシー』は、何を狙って集まっていたんでしょう?」

「あ…………そうだねえ」

「確かに……」

「サナの魔力に集まってきたから、屋敷にある『何か』の魔力に惹かれて、なんだろうけど、それが何かなあって」

「……それらしい魔力はなかったねえ」

「……うん」


 さらに謎が増えてしまった。


「マリー、わかるかい?」

「いえ、見当もつきません」

「そうか……」


 屋敷内にある『何か』に惹かれたことは間違いなさそうだが、それがわからない。

 このままでは、時間が経つとまた『黒ピクシー』にたかられる可能性がある。


「……ハカセ、そもそも、『黒ピクシー』って、どうして生まれたの?」

「生まれたというか、普通の『ピクシー』が邪気とか瘴気しょうきに毒されたんだろうと思うよ」

「うん……」


 ハカセとサナは『黒ピクシー』の発生原因について話し合ったが、結論は出そうもない。

 一方、ゴローは、


「『(ドレイク)の骨』かな……?」

「ゴロー様、それでしたら、いただいた直後から取り憑かれるのではないかと愚考いたします」

「そうだよなあ……あまりにもタイムラグがありすぎる」


 ……などとマリーと検討しているが、こちらも進展しない。


「あ、でも、『黒ピクシー』が発生したのが3、4日前からだとしたら辻褄つじつまは合うぞ?」

「仰るとおりですね……」


 その可能性が高い、とゴローは考え、3、4日前に何があったのか、マリーに確認する。


「3日前がマッツァ商会様からの納品と王家から『礼物れいもつ』が届いたこと、ですね」

「うん、それはさっき聞いたな。4日前はどうだ?」

「『Celeste(セレスト)』が探検行から戻ってきた日ですね」

「それが何か関与している可能性もあるな……」


 考え込むゴロー。


「……だとしたら、王城にも『黒ピクシー』がたかっている可能性もあるな」

「他のお屋敷にも、ですね」

「そうだな……」


 ゴローは、ハカセとサナにもこの推測を聞いてもらおうと、横を向く。


「ハカセ、サナ……」

「ゴロー……」


 すると、同じ様にこちらを向いたサナと目が合った。


「ゴローから、どうぞ」

「う、うん。……『黒ピクシー』が発生したのと『Celeste(セレスト)』が『古代遺物(アーティファクト)』を見つけて戻ってきたこととは関係があるのかもしれない」

「同感。だとすると、ここ以外の場所にも……王城にも、『黒ピクシー』がたかっている可能性が、大」

「うーん……明日、調べてみるか……ハカセ、いいですよね?」

「いいともさ。……それじゃあ今夜はこっちに泊まりだね」

「そうなりますね」

「だったら『双方向夫婦石(カップルストーン)通信機』で、研究所に連絡を入れておいたほうがいいだろうねえ」


 あれきり音沙汰なしでは皆が心配するだろう、とハカセは言った。


「そうですね、早速連絡してきます」


 そう言ってゴローは席を立ち、3分ほどで戻ってきた。


「ルナールが出てくれましたので、状況をざっと説明してきました」

「ご苦労さん、ゴロー」


 これで当面の気掛かりはなくなったので、休むことにした(主にハカセのため)ゴローたちであった。


*   *   *


 翌朝、ゴローは6時に起きて庭へ出てみた。

 『単眼鏡』で確認してみたが、今のところ『黒ピクシー』は戻ってきていない。


「ゴロー、おはよう」

「ああサナ、おはよう」

「フロロの所に行ってみようと思う」

「そうだな、行こう」


 『木の精(ドリュアス)』のフロロの様子を見に行く2人。


「フロロ、おはよう」


 サナが声を掛けると、本体である梅の木からフロロが顔を出した。


「サナちん、おはよう。昨夜ゆうべはありがとね」

「もう大丈夫? 少し魔力、あげようか?」

「ああ、もらえるなら欲しいわ……」

「うん」


 そこでサナは『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』を5パーセント程度稼働させ、フロロに『マナ(外魔素)』を1分間ほどそそいだ。


「ああ、随分楽になったわ、ありがと」

「うん。……で、いくつか聞かせて」

「わかったわ。……あの……サナちんが『黒ピクシー』と呼んだ奴らはね、3日前に大挙して押し寄せてきたのよ」


 そのあたりはマリーに聞いた話と一致している。


「どうしてフロロにたかってたの?」

「うーん……説明しにくいけど、あたしの『精霊の力』を感じ取ったんだと思うわ」

「『精霊の力』? 魔力じゃなくて?」

「魔力とは別ね。うーん……あなたたち……というか人間に例えたら、魔力がご飯で精霊力は水、かしら?」

「よくわからない」

「でしょうね……サナちんたちのところにいるハカセ? だっけ? あの人なら少しは分かるかもね」

「戻ったら聞いてみる」

「うん、そうして。……あたしはもう少し休むわ……」


 そう言い残して、フロロは梅の木に吸い込まれるようにして消えてしまった。


「戻って、ハカセに聞いてみよう」

「うん」


 ゴローとサナは顔を見合わせた後、屋敷に戻ったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月24日(木)14:00の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アーティファクトには何の問題点が見られないという事で、謎が深まりましたね。 魔力と霊力は似て非なる物だとしたらハカセやグロー達が気付いていないダケで、アーティファクトには霊力を蓄えるまたは集める機能…
>>色は 仁「・・・・信号?」 明「黄色は惜しいな・・・」 56「信号でも三原色でも無いと思うぞ」 >>明日、調べてみるか 単眼鏡「・・・・・・・・」 >>魔力がご飯で精霊力は 仁「おかず?」 明…
パッと見で原因と分かる物はありませんでしたか 原因を特定できないと再発しかねないですから怖いですねえ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ