12-02 いろいろなアイデアと応用
溶かして固めた『竜の骨の粉』。
いろいろ調べた結果、まず第1に、元々の『竜の骨』よりも固くなることがわかった。
「これは朗報だねえ」
「樹脂みたいですね」
「工具や刃物はこれで作り直そうかねえ」
せっかく作った道具類だったが、より強靭な物ができるなら、作り直すこともやぶさかではない。
だが、それを聞いたゴローが待ったをかけた。
「あ、ハカセ、待ってください」
「うん? ゴロー、何か意見があるのかい?」
「はい。……まず、どうして強度が上がったのか考えてみませんか? それによっては、もっと強度を上げる方法やコストを下げる方法を思いつくかもしれませんし」
「ううん、なるほど、そうだねえ……で、ゴロー、何かアイデアがあるのかい?」
「ええ、一応は」
「ほう?」
「セメントとコンクリートというものがありまして」
「ほうほう」
セメントに砂と砂利を混ぜ水で練り、固めたものがコンクリートである。
セメント単体の方がより圧縮強度は高いのだが、セメントの価格が砂利・砂の10倍くらいあるため、建築物にはコンクリートが使われている。
セメントと砂を混ぜたものはモルタルといい、強度はコンクリートより落ちるが、見た目がいいため仕上げに使われている。
「つまり『竜の骨の粉』に何か粒子を混ぜることでかさ増しすれば、消費量が減るというんだね?」
「そういうことです。強度は多少落ちるでしょうけど」
「それでも、貴重な『竜の骨の粉』を無駄にすることなく、丈夫な物品を作れるのはいいかもねえ」
「そうですね、ハカセ。透明度が必要ないものならなおさらですよ」
「金属の粉か、鉱石の粉か……試してみようかねえ」
これで1つの目標ができた。
「強度を上げる方は……すぐには思い付かないねえ」
「ですね」
ハカセもアーレンも、そちらに関しては今のところお手上げのようである。
「前みたいに太陽熱で溶かしたり月の光に当てたりというのは駄目ですか?」
「ああ、うん。どうかねえ……この『竜』の属性がよくわからないと、そうした処理の仕方も思い付かないよ」
「そういうものですか……あれ? もしかして、『火の精』の火で溶かしたから強度が増した、って可能性は?」
「ああ……あるかもねえ」
「なら、もっと長い時間当てていたら、もっと強くなる?」
「試す価値はありそうですね」
「まずはこっちからやってみようかねえ」
ハカセとアーレンは再びティルダの工房へと向かったのである。
* * *
結論から言うと、強度が上がった。
『竜の骨』だけでなく、鉄や鋼、銀なども、だ。
「結晶構造が変わったとか、結合力が上がったとか……ですかね?」
「わからないねえ……今は結果が全てだよ」
「そうですね……」
とにかく、ティルダの工房の『火床』には神秘的な効果があることがわかったのである。
「ふえええ……お、恐れ多いのです……」
「まあ、『火の精』がそこに住まわせてやれと言ったんだから気にするな」
「そうだよ、ティルダちゃん」
「は、はいなのです……」
「それじゃあ次は、何か混ぜてみて、より硬くできるかどうかだねえ。……ゴロー、あてはあるかい?」
「うーん……リンとマグネシウムでしょうか」
「ほほう?」
ゴローの『謎知識』は、仮に骨がカルシウムだと仮定し、リン酸カルシウムにしたら硬くなりそうだ、というのである。
また、マグネシウムは。カルシウムの添加により燃焼しにくくなり、機械的性質が向上する、と『謎知識』は教えていた。
「まあ、やってみようじゃないかね。マグネシウム……ジュラルミンを作ったときの滑石でいいね」
「はい」
「リンは……以前手に入れたものがあったっけねえ」
「あるんですか?」
「錬金術師が使っていたっけね」
地球でも、尿を蒸発させて黄リンを得た錬金術師がいたという。
まあ、銀を金に変える物質が尿の中にあると考えたから(なぜ?)らしいが……。
黄リン(純粋なものは白リンという)は、空気中で緩やかに酸化し、『燐光』を発する(燐は『鬼火』の意)。
この光る物質が『賢者の石』だと考えたようだ……。
蛇足だが、今はほとんど見なくなったが、『マッチ』にもリン(安定した赤リン)が使われている。
ハカセはガラス瓶に入った黄リンを見せてくれた。
「どうやって作ったかは教えてくれなかったねえ……もしかすると、ゴローの言うように……ああ、やだやだ。考えたくもないよ」
「ですね」
とはいえ、とりあえず素材はあるので、実験してみることにしたのである。
* * *
結果を述べると、リンは大きな効果があった。
「リンを混ぜると、さらに硬くなるね。でも、脆くもなるから、使い所が限られるね」
「刃先だけとか、ヤスリの素材にするとか、でしょうか」
「そんなところだねえ」
マグネシウムはと言うと……。
「うーん、よくわからないねえ」
「ですね」
ほとんど変わらなかったのである。
「あ、そうだ、ハカセ、逆に考えましょうよ」
「うん?」
「例えば鉄とかアルミニウムとかに添加したら強くなるかどうか、も知っておいたほうがいいんじゃないでしょうか」
「ああ、なるほどね。ゴロー、今日は冴えてるね」
「えーと、ありがとうございます?」
むしろハカセとアーロンが『竜の骨』を前にして視野狭窄に陥っているのではとゴローは感じていたが口には出さなかった。
* * *
……ということで実験した結果、アルミニウムに0.1パーセント(重量比)で添加すると、『超々ジュラルミン並』(ゴローの謎知識談)の素材となることがわかったのである。
「これで航空機の製作がまた捗るねえ」
大喜びのハカセ。
残念ながら、鉄と銅に添加しても強度の大きな向上は見られなかった。
だが。
「これを使うと、『魔力庫』『魔力充填装置』『魔力変換機』『外魔素取得機』の効率が10倍くらいにアップしますね」
アーレン・ブルーが別の使い方を発見したのである。
これは彼ならではの視点であった。
「ゴローさんが発想の転換を示唆してくれたからですよ」
「いやいや、画期的な改良だよ」
もっとハイパワーな航空機や自動車を作れるということである。
「こうなると、もう一度『竜の骨』を採取に行きたいねえ」
「それは賛成なんですが、その前にあの霧の対策ができるといいですね」
「ああ、確かにね。どうしようかねえ」
「霧の中でも視界を確保できるような装置……うーん……」
ハカセとアーレンは早速考え始めた。が、そうそうすぐに思い付くものではない。
「ゴローの言っていた『赤外線』? で見る方法とかかねえ」
「要するに、霧というのは水の粒ですから。そうすると光は屈折したり反射したりして真っ直ぐ進まないんですよね」
ゴローが一言助言をする。
そしてその助言が、ハカセのひらめきを誘ったらしい。
「なるほど! それじゃあ、水の粒の影響を受けなければいいわけだね!」
「そういうことですね。……ハカセ?」
「ゴロー、ちょっと付き合っておくれ」
「はい?」
ハカセは、ゴローの肩を掴んで庭へと連れ出した。
「ええとね、『水の妖精』のクレーネーにちょっと話を聞きたいのさ」
「あ、『水の中』……というか『霧の中』で『見る』ためですね?」
「そうそう」
「わかりました……」
2人は池の畔にやって来た。
「おーい、クレーネー」
「はいですの」
ゴローが呼ぶと、クレーネーはすぐに姿を現した。
「ゴロー様、お呼びですの?」
「うん、そうなんだ。えっと、ハカセが何か聞きたいことがあるんだとさ」
「ハカセ様? 何ですの?」
「えっとだね、クレーネーは霧の中でものが見えるかい?」
「はい、見えますの」
「どうやっているんだい? 人間は霧の中だと霧の他は、なにも見えなくなるんだけどねえ」
「ええとですの……こう、目を見張って、ぐぐいっ、と……するんですの」
「ほうほう、なるほどねえ」
「え……」
クレーネーの説明を、ゴローは全然分からなかったが、ハカセは理解できたらしい。
「つまり水属性の魔力なら、霧の中でも水の中でも見通せるんだねえ」
「はいですの」
「ふうむ……ありがとうね、クレーネー」
「お役に立てましたら嬉しいですの」
ハカセは身を翻して工房へと戻っていった。
「クレーネー、ありがとうな」
「はいですの。ゴロー様、では、また」
そしてゴローもハカセの後を追った。
(ハカセはあれでわかるのか……)
果たして、ハカセが得たアイデアとは……?
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2024年1月11日(木)14:00の予定です。
今年1年、ご愛読ありがとうございました。
来る年もよろしくお願いいたします。
20240104 修正
(誤)『超々ジュラルミン並』(ゴローの謎知識段)の素材となることがわかったのである。
(正)『超々ジュラルミン並』(ゴローの謎知識談)の素材となることがわかったのである。




