10-39 納品2回目
夕方。
ゴローとポチはテーブル台地の上へ戻ってきた。
「ポチ、ありがとうな」
「わふ」
ゴローは礼を言ってポチと別れた。
そして研究所内へ。
居間には全員が揃っていた。
「お帰り、ゴロー」
「おお、随分と採ってきたみたいだねえ」
「ええ、ポチのおかげで」
たくさんの『タモギ』を見たヴェルシアはゴローに提案する。
「まだ時間があるから、出汁を取ってみますか?」
「そうだな。やってみよう」
というわけでヴェルシアとゴローは、早速台所へ。
採ってきた『タモギ』を冷水できれいに洗い、4分の1を鍋に入れる。まずはお試しである。
タモギが浸かるほどの水を入れ、火に掛ける。
最初は中火、湯気が出てきたら弱火にしてじっくりと旨味を煮出すのだ。
「いい匂いがしてきましたね」
「だなあ」
「お出汁も出てきた感じです」
「うん」
煮汁が黄色みを帯びてきた。
それから30分程煮込んだ後、煮汁に『癒やしの水』を少し入れてみる。
「あ、明らかに色が澄んだみたいです」
「だなあ」
そしてさらに10分ほど煮詰めた後火を止め、自然に冷ます。
20分ほどで粗熱が取れたので目の細い布で濾してできあがり。
1リルに少し足りないほどの出汁ができた。
ガラス瓶に入れると、金色に澄んだ液体である。
「いい感じだなあ」
「これで煮物を作ってもらいましょう」
「そうしよう」
ということで、夕食の支度をしていたルナールに渡す。
「これを1人あたり小さじ1杯の分量で使ってみてくれ」
「わかりました」
煮出した後のタモギは、もったいないので醤油で味を付けて食べてみることにした。
* * *
そんなことをやっていたので、いつもより少しだけ遅めの夕食となる。
「ううん……美味しいねえ!」
「ですね。明らかに味がよくなってます」
作りたての『出汁』を使った野菜の煮物は、旨味が増していた。
「こっちの出し殻もいけますよ」
「そうだなあ。出汁を取った後とはいえ、けっこう美味い」
「タモギっていうのはいいキノコだねえ」
「明日、ミューにお礼を言っておきますよ」
「ポチにも」
「もちろんだ」
その夜は新たな調味料のおかげでいつも以上に楽しい夕食となったのだった。
* * *
ゴローとヴェルシアは、残ったタモギを煮出ししてしまうことにした。
マツォと違い、日が経つと香りが抜けそうな気がしたからだ。
「もっと煮込んで濃縮できないかな?」
「香りが飛んじゃいそうですけど」
「そうか……あ、なら『脱水』を使おう」
「でしたら、『癒やしの水』を加える前がいいと思います」
「そうだな」
そんな話し合いを経て、煮出した煮汁を濾してから『脱水』を掛けるゴロー。
「すごい、こんなに減りました……」
3リルほどもあった煮汁が1リルほどになった。3倍濃縮である。
「ここに『癒やしの水』を入れて、と」
「これで日持ちするようになるといいですね」
「うん。……これを小瓶に小分けして、一応冷蔵庫に入れておこう」
そしてこの『濃縮出汁』1本をサンプルとして今夜マッツァ商会へ持っていこうとゴローは決めた。
* * *
「今夜持っていけるのはこれだけだね」
ハカセとヴェルシア、サナ、そしてティルダが頑張ってくれた結果だ。
ガラス瓶……小瓶が50個、大瓶が10個。
解熱鎮痛剤4リル。
滋養強壮薬は15リル。
胃腸薬が1000錠。
冷蔵庫2台。
「なんとか積めるかな」
『レイブン改』は性能アップしているので、とりあえず全部を王都の屋敷に運んでしまおうとゴローは荷造りをしていく。
一番注意しなければならないのがガラス瓶である。
動かないよう隙間なくぎっちりと箱に詰め、それを一回り大きい箱に入れ、緩衝材として藁を詰める。
他の薬もそれに準じた梱包をし、『レイブン改』にそっと積み込む。
あとはゴローの操縦次第である。
* * *
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「気をおつけ、ゴロー、サナ」
午後8時、ゴローとサナを乗せた『レイブン改』は夜の闇の中、王都目指して飛び立った。
順調に飛行し、午後9時半に屋敷に到着。
ゴローはすぐにマッツァ商会へと向かう。
今回納品するのは在庫の1部とする。
解熱鎮痛剤は2リル。
滋養強壮薬は5リル。
胃腸薬は500錠。
薬瓶は販売用(0.1リル入り)は茶色が40、青が20。店頭用(1リル入り)が10。
加えて冷蔵庫1台。
そんな内訳である。
前回より若干少なめにしている。
売れ行きを聞いてから、改めて納品のことは考えるつもりだ。
さらに『白癬菌対策薬』についても相談するつもりである。
ゴロー自身が王家や貴族に納品するより、王家御用達のマッツァ商会に任せた方が後々面倒が少ないだろうと考えてのことである。
(数日あれば『トリコリヴォア』も増えてくれるだろうし)
要はカビであるから、環境が整えば一気に増えてくれるはずなのだ。
そんな事を考えているうちにマッツァ商会に到着した。
* * *
「ゴローさん、お待ちしてました」
商会主オズワルド・マッツァ自らゴローを出迎えた。
奥の商談室に通され、すぐに商談が始まる。
「おお、これが今日の分ですな」
「売れ行きはどうです?」
「好調ですよ。解熱鎮痛剤は全部売れました。滋養強壮薬も9割方。胃腸薬も大好評です」
「それはよかった」
「冷蔵庫も使い勝手がいいですな。……もう1台持ってきてくださったのですね。助かります」
今回の取引は……。
解熱鎮痛剤1リルが7000シクロ。2リルなので1万4000シクロ。
滋養強壮薬は1リルが3000シクロなので5リルで1万5000シクロ。
胃腸薬は1錠が100シクロ、それが500錠で5万シクロ。
……となった。
また、小瓶1つが200シクロ、60個なので1万2000シクロ。
大瓶1つが400シクロ、10個なので4000シクロ。
冷蔵庫が20万シクロ。
これで29万5000シクロとなる。
「それでですね」
当面の取引を終えたゴローは、別の話、つまり『出汁』の話をすることにした。
「薬ではないのですが、薬を作っていてこういう物ができました」
サンプルとして持ってきた『濃縮出汁』をテーブルに置くゴロー。
0.1リル入りの瓶である。
「これは、『旨味』を濃縮した液体調味料です」
「ほう?」
「煮物、汁物に、一人あたり小さじ半分を加えると旨味が増します」
「ほう……」
オズワルド・マッツァは興味を持ったようだ。
「ゴローさんは食にも詳しいですからな」
「それはサンプルとして置いておきます。試してみてください」
「おお、わかりましたぞ」
楽しみです、とオズワルド・マッツァは言った。
「それから、ローザンヌ王女殿下から依頼を受けまして……」
「もしかして、足のかゆみの件でしょうか?」
「そうです。ご存知でしたか」
「ええ。我が商会にも問い合わせが来ましたから」
「そうでしたか。……で、もしかするとその薬が用意できるかもしれません」
「なんと!」
驚くオズワルド・マッツァ。
「まだ不確かなので王女殿下には報告していませんが」
「それでも……朗報ですな」
「数日後くらいにサンプルが手に入るかと思います。そうしたらこちら経由で王城に納品していただきたく」
「おお、そういうことでしたら喜んで」
オズワルド・マッツァは快諾した。
そして薬の納品量に関して少し打ち合わせを行ったあと、ゴローはマッツァ商会を辞したのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は3月2日(木)14:00の予定です。
20230223 修正
(誤)そしてこの『濃縮出汁』1本をサンプルとして今夜マッツァ紹介へ持っていこうとゴローは決めた。
(正)そしてこの『濃縮出汁』1本をサンプルとして今夜マッツァ商会へ持っていこうとゴローは決めた。
20230225 修正
(誤)胃腸薬は1錠が300シクロ、それが500錠で1万5000シクロ。
(正)胃腸薬は1錠が100シクロ、それが500錠で5万シクロ。
(誤)冷蔵庫が10万シクロ。
(正)冷蔵庫が20万シクロ。
(誤)これで16万シクロとなる。
(正)これで29万5000シクロとなる。




