10-05 謁見
『フロロ通信機』を完成させたハカセは、まだ心配そうである。
「あいつらは傲慢だからねえ」
ゴローはそんなハカセに質問だ。
「何か注意点ってありますか?」
「いっぱいあるよ。……まずあいつらの目を見て話さないこと」
「何でですか?」
「それだけで気分を害する奴がいるんだよ」
「…………」
「それから必ず敬語をお使いよ。面倒くさいだろうけどさ」
「はあ」
「それにあいつらは魔法技術を自慢気に語るからね。逆らわずにハイハイと言っておきな。その方が面倒がないから」
「はい……」
「あとはねえ……あんたの魔法の腕前は隠しておくといいよ。利用されたくないならね」
「……わかりました」
聞けば聞くほど行きたくなくなってきたゴローである。
「大丈夫、ゴローならなんとかできる」
「そうかなあ」
サナからの根拠のない励ましに苦笑するゴローであった。
「あ、あと1つ」
「なんですか?」
「あいつらって、基本的に調理が単純だからね」
「え?」
「つまり、複雑な料理をしないのさね」
「……メシマズってことですか?」
「メシマズか、うまいこと言うね。まあそこまでは行かないだろうけどね。味覚は普通だろうから」
ただ、植物性の食材が中心で、肉や魚はほとんど食べないという。
「そうだ、『純糖』を持っていくとなにかの役に立つかもねえ」
「準備してみます」
『純糖』は現代日本でいう『和三盆糖』のことだ。
完全に『純粋』ではないのだが、そういう呼び名が定着している。
ゴローは厨房で『純糖』を作り始めた。
「あ、メープルシュガーもいいかもですね」
「そうだねえ」
「うん、賛成」
サナもやってきてハカセに同意した。
ゴローは苦笑しながらサナにできたての『純糖』を渡す。
味見、と称してサナはそれを口に入れ、
「うん、甘い」
と、正直な感想を口にしたのであった。
* * *
一夜明け、ゴローは服を着替え、準備万端整えて、迎えを待つ。
そんなゴローを迎えに、予告どおり王城から馬車がやって来た。
ちなみにモーガンはいない。代わりにモーガンからの手紙が添えられていた。
馬車の中でその手紙を読んでみると……。
「モーガンさんらしいな」
手紙には面倒事に巻き込んだ謝罪と、エルフの使者たちと話をする際の心得が書かれていた。
そのほとんどは前夜にハカセから聞いたものばかりだったが、1点、役立ちそうなものを見つける。
「……『護衛のペトロセリナ・パセは一番若く、一番偏見が少ない』か……」
偏見が少ない、であって偏見がないわけじゃないんだろうし、と思い直すゴロー。
天気は曇り。今のゴローの心境を表すような空模様であった。
* * *
王城に着いたゴローは、官僚と思われる若い男に出迎えられ、そのまま奥へと案内された。
男は途中、ゴローに忠告してくれる。
「とにかく、口が悪い相手ですので、腹を立てないことです」
「……わかりました」
どれだけ警戒されているんだ、と内心で思いながら、ゴローは王城奥へ。
「こちらです」
案内されたのは貴賓室のある階。
「ゴロー殿をお連れしました」
「入れ」
「失礼いたします」
重厚な扉を開け、中に。そこには『バラージュ国』のエルフたち8名が揃っていた。
顔を見ることはせず、足元だけを見てゴローは跪いた。
もう1人跪いている者がいるので、ちらと見ればアーレン・ブルーであった。
(ゴローさん)
アーレン・ブルーが、小声でゴローに声を掛けてきた。
(やあ、アーレン)
ゴローも小声でそれに答える。
さらに話をしようと思ったが、私語をしていると文句を言われそうなので自粛する。
「ご苦労だったな、ゴローとやら」
「……」
ゴローに声を掛けたのは正使イポメアー・サガ。
ゴローもアーレンも頭を下げ、『まだ』返事はしない。
「よい。顔を上げよ」
そう言われても、すぐに言うことを聞いてはいけないのだ。
「直答を許す」
ここまで言われてはじめて、顔を上げることができる。
「そなたらが『自動車』と『ヘリコプター』を作った技術者か」
「はっ」
「はい」
「ふむ、興味深い。……いったい、どういう発想があると、あのようなものを作ろうという気になるものなのだ?」
これに応えたのはゴロー。
「お答えします」
「うむ」
「まず『自動車』ですが、馬が必要ない馬車を作れないか、という発想で始まりました」
「それは至極真っ当な考えであるな」
「最初期は足漕ぎ、などというものもあったのです」
「ほほう」
「それが『エンジン』を積んだ自動車にまで昇華させたのは間違いなくこのアーレンの苦労あってのことです」
「なるほどな。では、そのエンジンとやらはどうして思いついたのだ?」
「そうですね……」
どう説明したものかと悩むゴローに代わり、アーレン・ブルーが引き継ぐ。
「最初は『水車』のようなものでした」
「ふむ、なるほど」
「水属性魔法の他にも『風属性』や『土属性』の魔法が使えるようでした。そういうわけで実験を繰り返し、今のエンジンとなったのです」
「なんとなくは分かったがな。まあよしとしよう。……では、『ヘリコプター』はどうなのだ?」
「ええと、『空を飛びたい』という夢を実現したくて作りました」
「ふむ、それはわかるぞ」
「ちょうど『木トンボ』という玩具を目にする機会がありまして、そこに発想のヒントを得ました」
「ほう、木トンボ?」
「はい。木切れを削って作る玩具ですが」
ゴローは『木トンボ』について少し説明をする。
「ほほう、そんな玩具があるとはな」
「これだから蛮族は侮れないのですよ」
人族を蛮族呼ばわりとは本当に傲慢だなとゴローは思ったがおくびにも出さず、ヘリコプターについて説明を行う。
「二重反転にしたのは、反動を打ち消すためです」
「そこに気が付いたのだな」
「実験の最中でしたけどね」
と、そんなふうに説明していったゴロー。
一応、エルフたちはその説明で満足したようであった……。
* * *
「説明ご苦労だった。では今度は私からだ」
そう切り出したのは副使のブラシカム・ラナ。
「はい」
「うむ。……ではゴロー、聞いていた限りでは、その方の発想は非凡である」
「はあ、ありがとうございます?」
「それでだ、その方には『天啓』という固有スキルがあるそうではないか」
「は、はい」
「うむ。……我らが国へ来ぬか? いや、来い」
「それは……」
ゴローも答えに窮する。そんな時。
「それは困る、使者殿」
見れば、ローザンヌ王女がモーガンを従えて部屋に入ってきたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は都合により6月30日(木)14:00の予定です。
20220623 修正
(誤)人族を蛮族呼ばわりとは本当に傲慢だなとゴーローは思ったがおくびにも出さず、
(正)人族を蛮族呼ばわりとは本当に傲慢だなとゴローは思ったがおくびにも出さず、




