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07-25 お披露目会

(どうしてこうなった……)


 ゴローは心のなかでぼやいていた。

 隣に引きつった顔のアーレン・ブルー。


 ここは王城中庭にある練兵場。

 そう、『自動車』が王族に認められ、共同開発者として『お披露目』に立ち会っているのだ。

 ちなみに事前工作のおかげでハカセはこの場にいない。


「『足漕ぎ自動車』の量産化の前に、こんなものを作ってしまったか……」

「なんというか、ゴローさんですねえ」


 ローザンヌ王女とクリフォード王子も列席していて、感心するやら呆れるやら。


「それでは、走らせてご覧に入れます」


 ゴローが乗り込んで自動車を走らせ、アーレン・ブルーが解説をするという役割分担である。

 乗り込んだゴローは、まずエンジンを……というか、システムを起動した。


「スタートボタンを押し、ランプが点灯すればいつでも走り出せる状態になります」


 そしてゴローはゆっくりとアクセルを踏む。

 自動車はゆっくりと動き出した。


「おお、走った!」


 城内の練兵場はそれほど広くはなく、サッカーのグラウンドくらいなので、大したスピードは出せない。

 それでも時速20キル(km)くらいは出してみせるゴロー。


「おお、なかなか速いな」

「ここでは最高速度を出すことはできません。凹凸のない路面でしたら時速50キル(km)くらいまでは出せます」

「ほう、そんなに」

「とはいえ、今の道路事情ですと、時速30キル(km)くらいが上限でしょう」

「それでも高速馬車よりもずっと速いな」

「ええ、有益ですな」


 練兵場の端まで行ったゴローは、ぐるりと自動車をUターンさせて戻ってくる。

 その途中、ヘッドライトを点灯させてみせた。これはアーレン・ブルーとの打ち合わせで決めておいたことである。


「ほう、なかなか明るいではないか」

「カンテラの明かりよりも明るいな」

「ヘッドライトといいます。夜道でも運転が可能です」

「なるほど、これはいいな」


 そしてゴローはギャラリーの前に戻ってきて、自動車を停止させる。


「一時的に止まっている時は、サイドブレーキと言いまして、レバーを引いて止める方法もあります。もちろん長時間の駐車時にも有効です」


 と、ここでアーレン・ブルーは自動車の後部ドアを開けた。


「練兵場の向こう端まで行って戻ってくるだけですが、ご希望の方がいらっしゃいましたら、どうぞ」


 というと、


「では、私が」

「いえ姫様、ここは私が」

「いえいえ私が」


 ……と、試乗希望者が殺到したのである。

 結局、元近衛騎士隊長で現隠密騎士中隊長にしてローザンヌ王女の(非公式な)目付役、モーガン・ランド・トロングスと、魔法技術相ブレイトン・セルム・エリクソンが後部座席に乗ることになった。


「では行きます」

「よろしく頼む」


 ゴローはゆっくりと自動車を発進させる。


「うむ、馬車より発進時の振動が少ないな」


 モーガンが感想を言う。

 ゴローはさきほど同様の時速20キル(km)まで加速した。


「ほほう、馬車よりも座る位置が低いので、窓の外の見え方が変わるな」

「ですね、エリクソン閣下。見下ろす感はないものの、より周囲は見やすいかもしれません」

「そうだな。……見下ろしたければ、そうした背の高いものを作ればいいだけのことだろう。違うかな、ええと、ゴロー殿?」

「はい。大型のものも、車高が高いものも製作可能です」

「そうであろうな」


 そして自動車は練兵場の端に着き、ゴローはUターンを行う。


「おお、こんなに急角度で曲がれるのか」

「狭い道では有利ですな、閣下」


 そして戻っていく自動車。


「うむ、この『自動車』というものは素晴らしいな!」


 モーガンが褒めれば、


「さよう、馬がいなくとも走る。乗り心地も馬車より上だ」


 魔法技術相も高評価を行った。


「今度こそ私が乗るぞ! クリフも来い!」


 そんなわけで、ローザンヌ王女とクリフォード王子が乗り込んだ。

 ゴローは先程と同じように自動車を発進させ、練兵場の端でUターンする……そこまでは前回までと同じ。

 が。


「ゴロー、もっと速度は出るのだろう?」


 と、ローザンヌ王女が言い出したのだ。


「え、は、はあ、まあ」

「であるよな。先程もそう言っていたからな。……もう少しだけ速度を出してみてくれ。叱責されぬよう、責任は私が取る」

「……わかりました」


 ローザンヌ王女のたっての願いということで、ゴローはもう少しだけアクセルを踏み込んだ。


「お、おお!」


 時速30キル(km)。1.5倍の速度を出したので、速度感もアップ。


「これはよい!」


 だが、時速30キル(km)で走るには練兵場は狭い。

 すぐにゴローは速度を落とし、ギャラリーたちの前で停止したのだった。


「……ゴロー、私のわがままを聞いてくれて感謝する! いやあ、快適な乗り心地だったぞ! なあ、クリフ」

「は、はい、姉上」


 周囲が何か言う前に、ローザンヌ王女は自分の指示で速度を上げさせたことをはっきりさせてくれたので、ゴローに対するクレームは皆無であった。


 そしてこの後も、列席者全員が乗ってみたところで、『お披露目』は終了したのである。


*   *   *


「ブルー工房工房主アーレン・ブルー、並びに協力者ゴロー、大儀であった」

「光栄です」


 『お披露目』の後、列席者の中で最も身分の高いローザンヌ王女からお褒めの言葉をたまわった2人。

 同時に『奨励金』200万シクロ(およそ200万円)が下賜されたのだった。


 そしてそれとは別に、王族用の専用自動車が発注され、1000万シクロが前金で支払われた。

 仕様はコンバーチブル(屋根の開放ができるタイプ)で、最大10人乗り、というものであった。


 ちなみに、地球における歴史では、最初期の自動車は屋根がついていなかった。

 これはエンジン出力が低いので、できる限り車重を軽くするためである。

 その後、エンジン出力が上がったので、屋根付き自動車が主流になったのだ。


 蛇足ながら、コンバーチブルは英語であり、語源としては2とおりに変更できる、と言う意味だ。

 屋根がない、もしくは取り外しできる車種を日本ではオープンカーと呼び、フランスではカブリオレ、ドイツではカブリオレット。

 イギリスではロードスターなどとも呼ぶ。(それ以外にも条件があるが、ここでは割愛する)


 このタイプの車両は客室が開放されているため、馬車の場合にはパレードや式典などに使われている。

 王族が発注するのも当然であった。


*   *   *


「ゴローさん、大成功ですね!」


 工房に戻ったアーレン・ブルーは興奮気味である。


「俺は疲れたよ……」

「あ、運転、ご苦労さまでした。……奨励金は山分けでいいですか?」

「もちろんだよ。アーレンのほうが多くてもいいくらいだ」


 材料なんかは全部そろえてもらったんだから、とゴローは言ったが、


「いいえ、素材なんかよりも重要なアイデアをいただきましたからね、ゴローさんとハカセさんには」


 そんなこんなで、200万シクロの奨励金は山分けにされた。

 そして。


「発注を受けた自動車について、細かい仕様を決めるのを手伝っていただけますか?」

「ああ、もちろんさ」


 こうして、ゴローとアーレン・ブルーは次の作品について検討を始めたのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は都合により5月18日(火)14:00の予定です。


 20210513 修正

(誤)「いいえ、素材なんかよりも重要なアイデアをいただきましたからめ、ゴローさんとハカセさんには」

(正)「いいえ、素材なんかよりも重要なアイデアをいただきましたからね、ゴローさんとハカセさんには」


 20210519 修正

(旧)「それでも馬車と同等か、若干速いくらいだな」

(新)「それでも高速馬車よりもずっと速いな」


 20211222 修正

(誤)場内の練兵場はそれほど広くはなく、サッカーのグラウンドくらいなので、大したスピードは出せない。

(正)城内の練兵場はそれほど広くはなく、サッカーのグラウンドくらいなので、大したスピードは出せない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ごろたん、王族と面識がなかったら、今回は逃げ切れたかもしれないのに スローライフ目指すには、ちょっと交友関係に難があるよね 五「王族とかの車……米国大統領専用車みたいなもんかな?」 ジ「俺…
[一言] >>どうしてこうなった ロ・モ「感もあるが町中走ればすぐバレるぞ」 >>ハカセはこの場にいない 博「のんびり飲むお茶は美味しいねぇ」 >>いえいえ私が ?「なんで譲る方に行かないんだよ」…
[一言] 化石燃料とかも使いませんし実にクリーンですねー 量産のネックになるのは魔力庫の素材くらいですかね?
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