06-03 畳ラッシュ
翌日は、部屋の改造で1日が終わった。
結局畳敷きにしたのは……。
ゴローの部屋・・・・寝室3畳 居間8畳
サナの部屋・・・・・寝室3畳 居間8畳
ティルダの部屋・・・寝室3畳 居間6畳
第2応接間・・・・・8畳
である。
寝室は4畳ほどの広さがあるが、一部を土足エリアに残しているので使ったのは3畳というわけだ。
居間も同じである。
ティルダの部屋は少し小さいので居間部分は6畳となる。
余った1枚の畳は予備としてとっておくことにした。
* * *
「あああ、青畳はいいなあ」
真新しいイグサの香りのする畳のうえに寝転がりながら、ゴローが呟いた。
「うん、わかる」
その隣にはサナも同じように寝転んでいる。
サナの部屋とゴローの部屋は2階にあって、居間の部分で繋がっている。
だからいつの間にかサナが来ている、ということもできるのだ。
「サナも畳のよさがわかるか」
「うん。直接床に寝転べるのは素敵。香りもいい」
「そっか」
自分と感性が似ているなあと、ゴローは少し嬉しくなったのである。
* * *
「ふわあああ、懐かしいのです! ゴローさん、ありがとうございますです!」
「いや、なに」
ティルダもまた、ジャンガル王国で漆塗りの修業をしていた際にお世話になったミユウ工房ではずっと畳の上での生活だったという。
そして彼女もまた、畳の魅力に取り憑かれた1人であったのだ。
* * *
「残った1枚は予備にしようと思ったんだが……」
せっかくなので、執事見習いの修業をしているルナールの寝台に敷いてやることにした。
彼もまた、実家では畳の上で寝起きしていたというので、これは喜んだのである。
「ゴロー……様、ありがとうございます」
「いや、1枚しか残らなかったので悪いんだが」
「いえ、それでも嬉しいです」
妖精や精霊の棲み着くこの屋敷に来てからのルナールは、すっかり素直になった。
マリーの薫陶の賜物かもな、とゴローはほっとしている。
スローライフを目指す暮らしの中で、ゴタゴタの種は少ないほうがいいからだ。
* * *
そして、これで終わりではなかった。
翌日にはもう40枚の畳が、女王ゾラ名義で送られてきたのである。
「これは……」
嬉しい悲鳴であった。
これにより、ルナールの部屋に4枚、そして客間2間に10枚ずつ敷くことができたのである。
さすがにそれ以上の用途はちょっと見つからなかったので、今度こそ残りは予備として保管することにした。
「ゴロー様、保管はお任せください」
『屋敷妖精』のマリーが受けあってくれたのは、青畳としての保存である。
さすがに永久に、とはいかないが、5年くらいは今の状態を保ったまま保管できるという。
有能なマリーなのであった。
* * *
「ああ、ようやくのんびりできる」
ゴローは畳の上で大の字になって寝転んでいた。
ここのところ部屋の改装で大忙しだったからだ。
「……落ち着いたら『ハカセ』のところへ行ってみるかな……」
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
「行くならサナと2人で行くか……」
ゴローとサナが本気になって走れば、1日で500キルを踏破できる。
『ハカセ』の研究所まではおおよそ350キルから400キルくらい。
途中、ジメハーストの町でディアラとライナに会っていくにしても、2日あれば着ける計算だ。
ただ、それだけの速さで往復した場合、説明に困るというデメリットがあるが、その点は『ハカセ』のところに長くいればいい。
〈サナ、どう思う?〉
〈うん、いいんじゃない?〉
〈だな。……俺も、行商人らしく、宝石の原石を仕入れてくるということにすれば……〉
ローザンヌ王女からティルダが受けた注文のこともある。
〈よし、近いうちに『ハカセ』のところに帰るか〉
〈うん〉
そういうことになった。
* * *
「北の山へ、宝石を仕入れに、なのです?」
「うん。お金はまだあるけれど、やっぱり稼がないとな」
ティルダには『ハカセ』のことは言っていないので、仕入れ、とだけ説明しておく。
「今回、ティルダは留守番だな」
「……はいなのです」
ティルダは残ってアクセサリー作りに励むことになる。
「何か、欲しい石はあるかい? ああ、ラピスラズリは言われなくても探してくるからな」
「でしたら、緑色の石が欲しいのです」
「緑か……種類は?」
「問わないのですが、翡翠みたいな不透明な石ではなく、透明なものが欲しいのです」
つまりはエメラルドやペリドット、ヒッデナイト(緑色のリチア輝石)などのことである。
「わかった。任せとけ」
ゴローは請け合った。
「そういうわけだから、明日出発する。マリー、後のことは頼むよ」
「はい、お任せください」
『屋敷妖精』のマリーが家を守ってくれるのだから、心強いことこの上ない。
ゴローたちは安心して家を空けられる。
今回はレンガ片はなし、つまり分体は連れて行かない。
というのも、分体を出すと本体であるマリーのコミュニケーション能力が落ちるので、ティルダとルナールという住人がいる今回はそれではまずいというわけだ。
* * *
「さて、それじゃあ、支度を整えないとな」
「甘味」
「……わかってるよ」
今回はそれに加えて、『ハカセ』へのお土産として蜂蜜を持っていこうと思っているのだ。
「あとは何かないかな?」
「畳……は無理?」
「無理だなあ……」
背中に担いで運べないこともないが、誰かに見られたら説明に窮してしまいそうである。
「馬車で行くならいいんだけどな」
それでは時間が掛かりすぎるので、ゴローとしては使いたくないのである。
「なら、仕方ない」
サナも納得してくれたので、ゴローは荷造りをまとめていくのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月3日(木)14:00の予定です。
20201129 修正
(誤)ゴローは受けあった。
(正)ゴローは請け合った。




