05-13 帰途 7日目 帰宅
王城で一夜を明かしたゴローたち。
午前7時、ゴローは起き上がって窓から外を見た。
東の空に若干の雲があるが、空全体は晴れ渡っている。まずまずの天気になりそうであった。
〈ゴロー、何してる?〉
サナから念話が届いた。
〈もう起きて、窓から空を見てた〉
〈そう。……私も、そっちへ行く〉
〈うん〉
念話が切れてから30秒ほどで、きちんと身支度をしたサナがやってきた。
「おはよう、サナ」
「おはよう、ゴロー」
「今日こそは家に帰れるんだろうな」
「大丈夫、だと思う」
2人の話し声にティルダも目を覚ましたらしく、目を擦りながら起きてきた。
「……おはようございますなのです……」
「おはよう」
「おはよう」
朝食は8時ごろのはず、とサナが言う。
「それを食べたら帰れるんだろうな……?」
長く王城にいれば、それだけトラブルに巻き込まれる可能性が高くなる、と考えているゴローである。
「……もしかすると叙爵式が、あるかも」
「えええ……」
昨日、国王は名誉士爵を約束してくれたわけで、そのための書類がまだまとまっていなかったのだ。
おそらく昼までには用意してもらえるだろうとは思えるが……。
「……はあ」
溜息が出てしまうゴローなのであった。
* * *
朝食は部屋に運ばれてきたので、のんびりと食べることができ、ゴローも少しはほっとしていた。
が、問題はこの後である。
勝手に部屋を出て帰る、というわけにはいかないのだ。
「考え方を変えて、王城でしかできないことを何か考えた方がいい」
そうサナに言われて、考え込むゴロー。
「うーん……そう言われてもなあ」
「……別に、軟禁されているわけじゃないから、ある程度は出歩ける、と思う」
ただ単独行動はやめておいたほうがいい、とサナは付け加えた。
「そうだな……じゃあ、ちょっと出てみようか。……ティルダだったら、何かデザインの参考になる物があるかもしれないし」
王城内なのだから、美術品が飾られているだろうからそれを見るだけでも多少は違うだろうとゴローは言った。
「はいなのです。お供するのですよ」
そういうわけで3人は部屋を出た。
そこには侍女が2人立っており、
「何かご用事でしょうか?」
と聞いてきた。
「いや、ちょっと部屋に籠もっているのも飽きたんで」
素直に理由を言うゴロー。
それを聞いた侍女は、ほんの少し微笑み、
「でございましたら、わたくしが城内をご案内させていただきます。立入禁止の場所もございますので」
と申し出てくれたので、ゴローたちはありがたくそれを受けることにした。
ただ、午前10時には宰相の執務室へ行かなくてはならない、という説明も受ける。
どうやら国王からではなく宰相から叙爵されるらしい、と、少しだけ、ほんの少しだけ肩の力が抜けたゴローであった。
* * *
まずは庭園を案内してもらう。
「こちらが庭園です。奥庭は王族の方しか入れませんが、ここはお客様でしたらどなたでもお入りになれます」
「へえ」
「綺麗なのです」
さすが王城の庭園だけあって、散歩道が整備され、芝生の上にはベンチが置かれている。
白い大理石でできた四阿もあって休憩したりお茶を飲んだりできるようになっていた。
そして花壇には今、秋の花が咲き乱れていた。
「こちらは秋バラですね。向こうはオータムカメリアです。あちらはベゴニア、そちらはサルビアです」
花の少なくなる季節であるが、きちんと手入れされているのでちゃんと見るべきものがある。
『木の精』のフロロが見たら何て言うかな、と思ったゴローであった。
* * *
「あちらが城内の練兵場ですね。主に近衛騎士の方たちが訓練されるところです」
「なるほど」
「あちらは馬場になります。騎士様方が馬術の訓練をなさるところです」
「ほう」
「向こうに見えますのは薬草園です。王城内での医療に使います」
「ふうん」
そして城内に戻ってきたゴローたち。
「こちらは美術品の間です」
「おお」
「素敵なのです!」
こここそ、ティルダが見たかった場所だろうとゴローは思った。
が、残念ながら時間があまりない。
「そろそろお時間です」
10分ほどで引き上げないわけにはいかなかったのであるが、それでもティルダはいろいろと得るものがあったようだ。
* * *
叙爵されるのはゴローとサナなので、ティルダは一旦部屋へ戻ってもらうことになった。
美術品の間にいるわけにはいかないのかと尋ねたのだが、それは叶わなかった。
どうやら他にも客人がいて、見学に来るらしい。
「それじゃあ、お部屋で待っているのです」
「ああ、悪いな」
そういう訳で、ゴローとサナは宰相の執務室へと向かったのである。
「ゴロー君、サナさん、ようこそ。昨夜は名乗らなかったな。私は宰相のエドウィン・アボットだ」
そして宰相は2枚の羊皮紙を差し出した。
「ゴロー君とサナさんを、我が国の名誉士爵に叙爵するという任命状だ。それにこれが……」
任命状に続けて、箱に入った徽章を2つ、差し出す宰相。
「……これは身分を表す印だ、襟に付けるなり、必要に応じて示すなりしてくれ」
「わかりました」
そして、名誉士爵というものがどういう身分なのかの説明がなされる。
「本当に名誉職でな。俸給も出なければ領地ももらえない。だが貴族としての義務もほとんど発生しない」
「……ほとんど、とは?」
「大きな式典には出席してもらうことになるだろうな。まあそれくらいだ」
「それなら、まあ……」
「その代わり、王城に出入りできる。自由に、とはいかんがな」
その時はその徽章を見せれば、非常事態でもない限り王城に入れるという。
「以上だ」
「え?」
比較的あっさり終わったので、少々面食らうゴロー。
「君たちはあまり仰々しいことを好まないと聞いているのでな」
どうやらローザンヌ王女か、モーガンあたりが一言言ってくれたらしい、とゴローはほっとしていた。
「それでは、失礼します」
「うむ、ご苦労だった」
宰相の執務室からは、先程の侍女が部屋まで案内してくれた。
そこでティルダと合流し、今度こそ帰路に就けることに。
* * *
侍女に案内され王城の通用口に出ると、馬車が用意されていた。
ゴローたちの荷物も全て積まれている。
そしてその傍らには……。
「ゴロー、サナ、いろいろと世話になったな。ティルダ、妹へのアクセサリー、頼んだぞ」
「ゴローさん、サナさん、ティルダさん、また遊びに行きますね」
ローザンヌ王女とクリフォード王子が見送りに来ていた。
そしてクリフォード王子は遊びに来る気満々のようだ。
「こちらこそ、王女殿下、王子殿下、お世話になりました。ご健勝で」
ちょっとだけそれっぽい挨拶をして馬車に乗り込むゴロー。
サナもカーテシーで挨拶をし、ティルダを押し上げるようにして馬車に乗り込んできた。
「それではな」
「はい、失礼いたします」
御者は行先を熟知していると見え、何も言わずに馬車を発進させた。
* * *
ゴトゴトと進む馬車。
程なくして止まれば、ゴローたちの家であった。
「お帰りなさいませ、ゴロー様、サナ様、ティルダ様」
『屋敷妖精』のマリーが出迎えてくれる。
「ただいま」
こうして、ゴローたちの長い旅も終わりを告げたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月22日(日)14:00の予定です。
20201120 修正
(誤)そこでティルダと合流し、今度こそ帰路に付けることに。
(正)そこでティルダと合流し、今度こそ帰路に就けることに。
20211221 修正
(旧)「君たちはあまり仰々しいことを好まないと言われているのでな」
(新)「君たちはあまり仰々しいことを好まないと聞いているのでな」




