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04-49 旅行13日目 その2

 大広間にて。


「サナ様、これで全員でございます」


 まとめ役をしているのはリラータ付きの女官、ラナ。

 集まったのは狐獣人が18人、狼獣人が2人、猫獣人が2人、計22人。全員女性である。

 これは、指導するサナが女性であることもあったが、魔力のある獣人(ビーストマン)はほとんどが女性だからというのが大きい。


「サナ、です。こちらは私の弟で助手のゴロー、です」

「ゴローです」


 大広間は畳敷き。集まった獣人(ビーストマン)は全員正座してサナの言葉を聞いていた。


「まずは、選別を行います。これは、体内の魔力をどれだけ動かし制御できるか、を見極めるためです」


 皆、黙ってその言葉を聞いている。


「では、まず、全員が手を繋いで、車座に……まるく座り直してください。……ゴロー、あなたも混じって」

「わかった」


 サナの指示で、22人+ゴローの23人が、隣同士手を繋いで車座となった。


「ではゴロー、魔力を手からゆっくりと放出して」

〈ゴロー、右手からそっと魔力を出して、左手で受け取るようにしてみて〉


 口頭で全員にわかるような指示を、そして念話で細かい指示を出すサナ。


〈こう……かな〉

〈いい感じ。少しずつ強くしていって〉

〈わかった〉


 ゴローは言われたとおり、右手から魔力を放出し、左手で受け取るようにする。

 間に22人が挟まっているので、少々コツがいったが、すぐに慣れた。


 イメージとしては、ゴローが電池で、22人が電球である。

 電気回路に例えればこれは直列繋ぎ。

 電流に相当するのが魔力流、そして電圧に相当するのが魔力圧。電力は魔力量、となる。

 直列なので魔力流は1人分と同じだが、魔力圧は22人分必要になる。

 ゴローの『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』は余裕……どころか、ほとんど駆動することなく必要な魔力流と魔力圧を生み出していた。


〈やっぱりゴローは規格外中の規格外。『ハカセ』の最高傑作〉


 念話で褒めるサナ。


〈おい、これくらいでいいのか?〉

〈上出来。そのまま維持していて〉

〈わかった〉


「今、ゴローが魔力を流しているのが分かる人は、手を……上げるのはできないだろうから、尻尾を動かしてほしい」


 サナが言った。

 その言葉に応じて尻尾が動いた。その数、5人。


「今尻尾を動かした人は輪から離れて。で、残った人はもう一度手を繋ぎ直して」


〈ゴロー、もう一度お願い〉

〈わかった〉


「もう一度、ゴローが魔力を流す。それを感じ取ってみて」


 今度は先程よりも『魔力圧』を上げてみるゴロー。


「感じたなら尻尾を動かして」


 4人が尻尾を動かし、その4人も輪から離れた。

 そしてもう一度同じように試し、2人が輪から離れたのである。

 つまり計11人が、魔力を感じ取ることができたわけだ。


 残ったのは狐獣人9人、狼獣人が1人、猫獣人が1人。見事に半数がふるい落とされた。

 サナは残った11人に向かって言った。


「残念ながらあなた方には、治癒魔法の習得は難しいと言わざるを得ない。でも、がっかりしないで。『難しい』だけで『できない』わけじゃない。それに、他の魔法ならもっと習得しやすい。そっちに適性がある人もいると、思う」

「……わかりました」


 適性なし、と判断された者の中にはラナの姿もあった。残念ながら彼女には適性がなかったのだ。


「それでも、これから『適性あり』の人にどういうやり方で教えるのか、見ていたい人はいてくれて構わない」


 勉強しておいて損はないから、とサナが言うと、全員が残ることを選んだのだった。


「それじゃあ、これから、魔力の動かし方を覚えてもらう」


 サナがやりやすいから、という理由で、適性ありの面々には車座になってもらった。もちろんゴローも参加している。


「今度は各自で、自分の中の魔力を感じ取ってもらう。まずは手を繋いで」


 11人+ゴローが手を繋いだ。


「ゴロー、さっきと同じように魔力を流して」

〈さっきより弱くていい〉

「わかった」

〈わかった〉


「魔力を感じていると思う。そうしたら、手を放して、自分の中の魔力を感じ取って。目は閉じていたほうがいいと思う」


 全員、一斉に手を放し、己の中の魔力を感じ取ろうと懸命になった。


「できた人は尻尾を動かして」


 サナがそう告げると、2名が即座に尻尾を動かした。2人とも狐獣人である。


「よろしい。続けて」


 そしてしばらくして、ほぼ全員が己の中の魔力を感じ取れるようになった。

 できないのは狼獣人の女性1人。心なしか尻尾と耳がしおれている。


「……身体の力を抜いて、気持ちを落ち着けて」


 見かねたサナが近付き、狼獣人の両肩に手を置いた。


「これから、私の魔力を流すから、それを感じ取って」

「は、はい」


 そしてサナはゆっくりと右手から魔力を放出し、狼獣人の右肩を通じて流し込み、身体の中を巡らせ、左肩から吸い出した。


「……どう?」

「あ、何か、感じます」

「うん、その感覚を覚えて。私の魔力を少しずつ、弱くしていくから」

「は、はい」


 サナは少しずつ魔力を絞っていく。


「どう?」

「なんとか、わかります」

「……これでは?」

「ええと……はい、わかります」

「うん、わかってきたみたい。もっと弱くする、から」

「は、はい」


 こうして狼獣人の女性も、サナの魔力を0にしても己の魔力を感じられるようになれたのである。


*   *   *


 全員が自分の中の魔力を感じ取れるようになったので、サナは一旦休憩とした。

 ラナが全員分のお茶を淹れてくれたので、それを飲みながら雑談する。


「少し休んだら、いよいよ治癒魔法を教える。何か質問、ある?」


 すると狐獣人の1人が手を上げ、発言した。


「え、ええと、本当に、治癒魔法って、私たちでも使えるんでしょうか?」

「うん。それは保証する。現にネアが使えるようになった」

「……なら、どうしてこれまで、治癒魔法が使える人って少なかったんですか?」

「それはわからない。教会が秘匿していたからじゃないかとは思うけど」

「……」


「あ、あの、私もいいですか?」


 今度は猫獣人の女性が手を上げた。真っ白な毛並みなので白猫のようだ。


「はい、何か?」

「ええと、治癒魔法が使える人って、他の魔法は使えないんですか?」

「うん、それは関係ない。適性によるから、他にもいろいろ使える人もいるし、治癒魔法しか使えない人もいる」

「それって、今回わかりますか?」

「うーん……だいたいなら。でも、私は治癒魔法しか教えられない」

「わかりました」


 サナはほとんどすべての属性の魔法を使うことができるが、それをここで言うわけにはいかない。さすがに常軌を逸しているからだ。

 それどころか、今の世界では禁忌となった魔法や、失伝した魔法も幾つか知っている。こちらもおおやけにするわけにはいかない。


「さ、お茶を飲み終わったら、続きを始める」


 もう質問は出なかったので、治癒魔法伝授の続きを始めることになった。


「一人一人に教えると、私の魔力がもたないから、また車座になって」


 実はそんなことはないのだが、そういう設定なのだ。


 サナの指示で、ゴローも含めた12人が車座になり、手を繋いだ。

 ゴローはブースター的な役割なのだが、それは公言しない。


「では」


 サナはゴローの両肩に手を置き、魔力を流した。ここまでは先程まで行っている。ここからが本番だ。


「身体の中を巡る魔力を感じ取れたと思う。では、この状態で簡単な魔法を使ってみる。まずは生活魔法」


 ネアのときと同じように、サナは『浄化(プルガシオン)』を使ってみせた。


「あ……」

「今、なにか……」

「魔力が動いたのを感じられたと思う。感じられなかった人は、いる? いたら尻尾を動かして」


 尻尾は動かなかった。

 そこでサナはもう一度『浄化(プルガシオン)』を使って見せ、魔法を使うときの魔力の動き方を覚えさせたのである。


「じゃあ、手を放して、各自、『浄化(プルガシオン)』を使ってみて。コツは、イメージ。『浄化(プルガシオン)』は綺麗にする魔法だから」


 人によって『綺麗にする』イメージは異なる。

 汚れた布が真っ白になるイメージだったり、部屋が綺麗になるイメージだったり。


 サナは各自に練習させ、できないと言う者には個別で指導するというやり方をしていったのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月27日(木)14:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば魔力を見える存在はどんな風に見えてるんだろ?(モヤモヤの大小だったり色がついてたり結構バラバラな記憶がある) [一言] 某異世界にて 師匠「おー懐かしい」魔力の初期講座を見…
[一言] >それってネアじゃ…… 完全に見間違えました。 失礼しました。
[一言] 魔力を感じた人は、尻尾をぽんぽんに膨らませているのでわかりやすいのです あと、正座して足がしびれた人は、まっすぐに伸びた尻尾が痙攣します 三〈ゴロー、足が痺れた子はさり気なくつついて〉 五…
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