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04-30 旅行9日目 王都巡り 3

 ティルダを『塗師ぬし』であるミユウのところに預けたゴローたち。

 再び喧騒の中へ戻りながら、ゴローがネアに尋ねた。


「あの人……ミユウさんとネアって知り合いなのか?」

「ええ。遠い遠い親戚になります」


 又従姉妹よりも遠い親戚なのだとネアは説明した。


「ということは、あの人もネアたちの一族ってことか」

「はい。耳も尻尾もありませんが、瞳が狐でしたでしょう?」

「ああ、確かに」


 金色の瞳は、瞳孔が縦に裂けており、確かに狐の眼であった。


「元々は下の町に住んでいたんですけど、こちらのほうが塗りにはいろいろ都合がいいらしんです」

「埃が少ないからかな?」


 漆塗りに限らないが、塗装関連に埃は厳禁である。塗った面に埃が付いてしまったら台無しになることだってままあるのだ。

 なので、舟の上で塗りをした、などという話も伝わっているくらいである。


「ゴローさんはお詳しいですね。やっぱり『天啓』ですか?」

「うん、まあ、そう……らしい」


 『天啓』と決まったわけでもないが、否定するほどのことでもないので頷いておくゴローだった。


*   *   *


 そしてゴローたちが立ち寄ったのは食事処、つまり食堂。名前は『煉瓦亭れんがてい』とあった。

 その名のとおりレンガ造りの建物である。


「ここは安くて美味しいんですよ」

「それは定番だな」

「楽しみ」


 そんな話をしながら中へ。


「おお」


 外見は洒落た喫茶店だが中は大衆食堂だな、とゴローは思った。


「おやネアちゃん、いらっしゃい」


 犬か狼の獣人(ビーストマン)が3人を迎えた。ネアとは顔馴染みのようだ。

 時刻は午後1時くらい、昼食には少し遅い頃なので他のお客はいないようだった。

 席はカウンターとテーブルがあり、ゴローたちは4人用のテーブル席に着いた。

 店長らしい料理人が水を持ってきてくれた。


「ルフさん、『おすすめ』、まだできます?」

「ああ、大丈夫だ」

「それじゃあ、それ3つお願いします」

「あいよ」


 ルフというのは料理人の名前らしい、とゴローは察した。

 厨房からいい匂いが漂ってくる。どうやら醤油で何かを煮込んでいるようだ。


「ルフさんは狼の獣人(ビーストマン)でして、王都で一、二をあらそう料理人なんですよ」


 ネアがそう言ってルフを紹介するが、当の本人は、

「おいネア、あまり持ち上げないでくれよ。おだてても何も出ないぜ」

 と、ある意味お決まりの文句を口にしたのだった。


「いえいえ、そんなことないですよ。少なくとも私の知る限り、ここって最も美味しいごはんを食べさせてくれますもん」

「……まったく」


 照れているような声で応じたあと、料理に専念しているのか、声は聞こえなくなった。


「町にいる時はよく来るんですよ。あ、姫様もお忍びで何度かいらしてます」


 と、ネアは小声でゴローとサナに教えてくれた。


「それは期待できそうだな」

「ええ、期待しててください!」

「楽しみ」


 そして10分後。


「はいよ、おすすめ定食3人前」

「おまちどおさまー」


 料理が運ばれてきたのだが、持ってきたのはルフと、10歳くらいの小さな男の子。


「ありがとう。フェン、お父さんのお手伝い?」

「うん!」

「偉いねー」


 男の子フェンは、ルフの息子であった。ネアがその頭を一撫でして褒めると、ニコニコ顔になるフェンであった。


 そして運ばれてきた定食は、ネアが褒めるだけあって、とても美味しいものだった。

 白米のご飯は固すぎず柔らかすぎずふっくらと炊けていたし、吸い物もよい出汁が出ていた。

 醤油の匂いをさせていたのは肉じゃがだったようで、ジャガイモ、カロット(にんじん)、タマネギも柔らかく煮られていた。

 ジャケ(シャケ)の切り身は甘塩で、脂もほどよくのっていた。

 付け合せのお新香はキュウリの浅漬けでさっぱり味。お茶はほうじ茶でほっとする味だった。


「おふくろの味……というか家庭の味だな」

「あ、それですよ。『けもなー様』もその『おふくろの味』が大好きだったそうです」

「なんとなくわかるな」


 高級料理は確かに美味い。が、美味いがゆえに飽きる。

 毎日食べ続けても飽きない、それが『おふくろの味』かもしれない。


「美味しい……」


 最近すっかり美食家になってきたサナも美味しいと言う味。


「うん、美味しい。これはネアに案内してもらって正解だったな」

「あ、ありがとうございます!」


 ゴローも美味しいと言ったので、ネアもホッとして満面の笑みを浮かべたのであった。


*   *   *


 少し遅い昼食の後、町めぐりを再開。

 さすがのサナも、食事後すぐにお菓子を食べたがることはなく、衣料品、日用品、雑貨などの店を見て回ることができた。


 そしてやって来た1つの店。


「……薬草店?」

「はい、そうですね。ここは私の実家なんです」


 なんと、ネアの実家は薬草店であった。


「王族じゃなかったんだっけ……」

「ですから、王配……が伯父なんですよ」

「ああ、そういうことだっけか」

「お話しませんでしたっけ?」

「聞いたような気もするし聞かなかったような気もする……」


 ゴローにしては珍しいことだが、おそらく聞いた際には何か他に気を取られることがあったのだろうと思い、ネアには詫びておくことにした。


「……ごめん」

「あ、いいえ、別に謝っていただくほどのことでは」


 ゴローが謝るとネアはわたわたと慌てた。


「わ、私もはっきりとは言っていなかった気がするので!」


「ネア、お帰り。……まったく、店の中で騒ぐんじゃないよ」

「あ、ご、ご、ごめんなさい」


 店番をしていた狐獣人(ビーストマン)たしなめられるネア。


「ええと、お客さん方は、姫様と一緒に見えた方ですよね?」

「あ、そうです。俺はゴローといいます」

「私は、サナ」

「これはどうも。私はジュールと申します。ネアの父です」


 ジュールと名乗ったその狐獣人(ビーストマン)はネアと同じ金色の目、赤茶色の髪色であった。


「ええと、ご一緒に来られた方はもうお一方いらしたのでは?」


 ティルダのことだ、と察したゴローは説明を行った。


「ええ、ティルダというドワーフの子なんですが、漆塗りに興味を持ちまして、ネアさんの紹介でミユウさんのところで教わっているんです」

「ああ、そうでしたか」

「そうなのよ、お父さん。で、ゴローさんとサナさんにこの町の商店を案内して回っているの」

「ほう、そうかい」

「それで、大分回ったから、一休みしてもらおうかと思ってお連れしたんです」

「そうかい、わかったよ。なら、店じゃなく、奥へ上がってもらえ」

「はい。……ゴローさん、サナさん、どうぞ」

「お邪魔します」

「……お邪魔します」


 そういうわけでゴローとサナは、ネアの実家で休憩していくことになったのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は6月18日(木)14:00の予定です。


 20200614 修正

(誤)「ええと、義一緒に来られた方はもうお一方いらしたのでは?」

(正)「ええと、ご一緒に来られた方はもうお一方いらしたのでは?」


 20200615 修正

(誤)「ですから、王配……女王配? が伯父なんですよ」

(正)「ですから、王配……が伯父なんですよ」


 20210729 修正

(誤)はとこや又従姉妹よりも遠い親戚なのだとネアは説明した。

(正)又従姉妹よりも遠い親戚なのだとネアは説明した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >はとこや又従姉妹 はとことまたいとこは同じ意味だわ
[気になる点] >「ですから、王配……が伯父なんですよ」 母の姉が王族と結婚したんじゃなかったの? 03-02でそう言ってるよ?
[一言] 生薬店か……料理と同様に匂いが重大な知らせをする仕事なので獣人には適性の高い仕事かもしれませんね 彼らの嗅覚における分解能なら大量にある生薬の中でも「入り混じった意味不明な臭さ」と言うもの…
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