04-09 旅行4日目夜その1
4日目の宿泊地、ファリサ村。
ここはもちろんジャンガル王国に所属している。
ジャンガル王国は獣人の国。そして獣人は横の繋がりが強いのだ。
ということは、である。
「今日は姫様が帰ってきたお祝いだー!」
「宴会、えんかい!!」
「うおー! 騒ぐぞー!」
……となるのである。
「凄い熱気だな」
この熱とは、温度ではなく村人たちの『情熱』の意味だ。
村の中央にある広場に人が集まり、ごった返していた。
そこにはテーブルがずらりと並べられている。
どうやらここで宴会をするらしいな、とゴローは見当を付けた。
「おおゴロー、ここにいたか」
との声に振り向けば、リラータ姫だった。
「今夜は宴会じゃ。ゴローたちももちろん出てもらうからの?」
「……え、あ、はい」
獣人たちの宴会というものに少々興味もあり、ゴローは頷いた。
「サナとティルダにも伝えておくのじゃぞ」
そう言ってリラータ姫は村の奥へと歩き去っていった。
「自国に戻ってきたせいか、生き生きとしてるな……」
そんな感想を持ったゴローである。
* * *
ゴロー、サナ、ティルダらは、宴会の準備が調うまで、割り当てられた宿舎で待っていた。
ここの宿舎は、リゾート地にある貸しバンガローによく似ている。
大部屋にベッドが4つ。応接セットとしてテーブルが1つに椅子が4つ。
ちゃんと魔法で処理されるトイレもある。
「風呂がないのが残念だ……」
「ふふ、ゴローさんは本当にお風呂が好きなのです」
「こう蒸し暑い気候だと汗でベタベタしないか?」
もちろん、ゴローとサナは汗をかかない……が、擬似的に体表面から水分を滲出させることはできる。
人間のフリをするだけではなく、偽の汗を使って水属性魔法を使うこともできるのだ。
「確かにベタベタするのです……」
「だろう? 水浴びでもいいんだが、やっぱり風呂は格別だよなあ」
その時。
「ご主人様、入浴なさりたいのですか?」
と言いながら、マリーが現れた。
「ああ、マリー。うん、そうなんだ」
「でしたら、湯船だけ調達したらいかがでしょう。ご主人様は魔法でお湯を出せますよね?」
魔法で出したお湯(水)は、一定時間が経つと消えてしまう。長時間にわたって『濡れる』ということがないわけだ。
「そうだなあ……何かないか、聞いてみるか」
そこにサナが一言。
「穴を掘ったら?」
「なるほど、穴か……」
土で汚れるのを何とかすれば、いい考えかもしれない、とゴローは思った。
サナが、
「火属性魔法で土を焼くとか?」
などと言っているが、
「元に戻せなくなるだろう……」
とゴローは却下した。
「まあ、宴会の時、誰かに聞いてみよう」
「うん、ゴローがいいなら」
「私も聞いてみるのです」
そういうことになった。
* * *
そして日が落ち、あたりが闇に包まれ始めると、村のあちこちに篝火が点された。
「……ふうん、篝火、かあ」
日が沈み姿を現した『木の精』のフロロがぽつりと言った。
「あれならきっと『光の精』がいるわね」
「……呼び出したら、どうなるかな?」
『光の精』がいると聞いて、サナもそんなことを言い出した。
「……何か聞くことがあったんでしょう?」
「うん。……妖精や精霊が、日の光をあまり好かない理由が知りたい、と思って」
サナの説明に、フロロも思い出したようだ。
「ああ、そうだったわね」
「でも、大勢がいる前で『光の精』を呼び出したら、大騒ぎにならないか?」
ゴローはそれを心配していた。
「それはそうかもね」
しれっと言うフロロ。彼女には、村人が大騒ぎしても気にはならないようだが、ゴローたちは違った。
「……宴会が終わってからにしよう」
「……うん」
睡眠の必要がないゴローとサナなら問題はないのである。
* * *
「おーいゴロー、サナちゃん、ティルダちゃん、まだ残っていたのか」
ゴローたちの宿舎に、モーガンがやってきた。
「もう宴会が始まるぞ」
「あ、はい。行きます」
ゴローが答え、立ち上がる。サナとティルダも続いた。
「マリー、留守を頼む」
「はい、お任せください」
「フロロ、行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい」
留守番は妖精と精霊に任せ、ゴローたちは宴会場……広場へと向かった。
「おお、来た来た」
主賓の1人であるリラータ姫がゴローたちを手招きする。
呼ばれるままに、リラータ姫のそばに座らされるゴローたち。
「お、ゴローたちも来たか」
「あ、王女殿下、王子殿下」
そこにはローザンヌ王女とクリフォード王子もいて、ゴローたちに微笑みかけた。
「これで全員揃ったようじゃな」
リラータ姫は、徐に立ち上がると、澄んだよく通る声で話し始めた。
「皆の者、よう集まってくれた。隣国であるルーペス王国との友好関係は上々じゃ。ローザンヌ王女殿下とクリフォード王子殿下が友好使節として同行してくださった」
おおー、と大歓声が上がった。
「……いろいろ言いたいこと、報告したいこともあるが、細かいことは後回しじゃ。今夜は楽しくやろうではないか!」
「うおー! 姫様、さすがだぜー!!」
「さすが姫様、わかってるじゃねーか!」
「宴会だ、宴会!!」
集まった人々は大はしゃぎ。先程以上の大歓声が広場に満ち満ちた。
ワインのような香りの酒が入った樽が開けられる。
豪快な焼き肉の塊が配られる。
「行き渡ったな?」
「おー!」
「おう!」
「では……王国の栄えを祝して、乾杯じゃ!」
「乾杯!」
「かんぱーい!」
ローザンヌ王女とクリフォード王子もコップを手にして掲げていた。
ちなみに、ルーペス王国では15歳から成人扱いで、社交界にも出、酒も飲むことができるという。
クリフォード王子は今年15歳なので飲酒も問題ない。
まあ、ジャンガル王国ではさらにそういった規制が緩く、飲酒の年齢制限はないそうだが。
「……凄い熱気」
「ああ。獣人ってのはノリがいいんだな」
サナは元々感情の起伏に乏しいし、ゴローは騒々しいのが苦手である。
そしてティルダはといえば、こういう宴会は経験したことがないようで、なんとなく居心地が悪そうだ。
それで、少しずつ移動をし、時間を掛けて広場の端まで逃げようと画策するゴローだったが……。
「おおゴロー、これを食べてみろ」
「サナ、これは美味しいのじゃぞ?」
「ティルダさん、これもどうぞ」
モーガンやリラータ姫、ネアらが入れ替わり立ち替わり世話を焼きに来るのでどうにもならないのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月5日(日)14:00の予定です。
20200402 修正
(誤) そして、火が落ち、あたりが闇に包まれ始めると、村のあちこちに篝火が点された。
(正) そして日が落ち、あたりが闇に包まれ始めると、村のあちこちに篝火が点された。
(誤)こういう宴会は経験したことがないようで、なんどなく居心地が悪そうだ。
(正)こういう宴会は経験したことがないようで、なんとなく居心地が悪そうだ。
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