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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
章間

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章間 第1話 ~万魔殿の蟻女達~

 夜光のマイフィールド内、その中でも本拠地として定められている万魔殿の内務を取り仕切るのは、蟻女のメイドたちだ。


 勤勉実直、生来の特徴として勤勉な働き者であるという特徴を持つ彼女たちは、肌の一部に甲殻が混ざった成人女性の姿をしている。

 彼女たちは群れの中心である女王種をまとめ役として、人間種に近しいNPCとしての立ち位置を、かつての『Another Earth』で確立していた。

 部族によって人間社会との距離感が違い、人里離れた地にてほぼ独立した社会生活を送る部族もあれば、人間社会に混じって共同生活を営む者達も居る。

 人里離れた部族の一部には敵対NPCとして戦闘することもあるが、そういった部族も物々交換で甘味を差し出せば和解できることが知られていた。


 そう、人間大の大きさの彼女たちは外見に見合わぬ怪力の持ち主ではあるが、その分消費カロリーは常に多いのか甘味に目が無いのだ。

 料理スキル持ちが腕によりをかけて菓子の類を作れば、彼女たちの集落で生み出される幾つかの貴重な品と交換が出来たほどだった。

 これは、プレイヤーが雇えるNPCとしての蟻女でも同様であった。

 召喚モンスターや拠点配置するモンスターには召喚時に消費されるコストや契約の維持コストが生じるのだが、それが甘味での支払いに設定すると幾分割安になったほどだ。


 必然、万魔殿で働く蟻女達も甘味に目がないと言う事になる。

 拠点配置NPCの維持コストが割安になる食堂では、料理番のメイドが自分も望む甘味を多彩に提供されているのだ。

 NPCやモンスターにも自意識が目覚めた後は、それらもさらに顕著になっており、料理番は日々甘味の研究に余念がないのだとか。


 尚、万魔殿には主に夜光のパーティーモンスターであるゲーゼルグらの配下の下位モンスターも住んでいるのだが、それらは竜に吸血鬼に魔獣と肉食のモノが多いと言う事実がある。

 したがってそれらの提供も多くされており、全般的に高カロリーなメニューが並んでいるのだった。


 そして今、その食堂では大量の甘味が生み出され、同時に消費されていた。

 何人もの料理担当の女中が洋風和風中華など様々なジャンルの菓子を作り上げ、焼き上げ、それが出来るや否や居並ぶ女中たちに配られていく。

 甘味を食べているのは、女中の中でも、ツナギを着た地下担当の者達だ。

 時間が惜しいとばかりに大急ぎで、それでいてしっかり甘みを堪能すると言う器用な真似をしながら、彼女たちが栄養補給を終えていく。

 食べ終わったら即地下へつながる通路へと姿を消していく。

 空いた席には即順番待ちの女中たちが収まっていく様は、奇妙な流れ作業めいていた。

 余りに奇妙な光景ながら、こうなっている理由は簡単だった。

 蟻女達は単純に激務に晒されて居るのだ。

 万魔殿の地下深くにある格納庫。

 そこでは、今まさにギガイアスの整備と言う大仕事が行われているのだった。


「ああ、もう! こんなところにも傷が! 修復材持ってきて!!」

「風の精霊石の積み込みは後回しよ! それよりも水の精霊石詰め込んで!! 魔術機関が熱持って冷却が追い付いていないの!」

「魔法回路の入れ替え終わったよー!」


 万魔殿の地下には、広大な空間が広がっている。

 此処は、万魔殿の主である夜光が作り上げた超合金魔像、ギガイアスの格納庫兼整備場が存在していた。

 高さは60m級のギガイアスが悠に収まる100mほど。

 ギガイアスは普段直立の状態でここで収まっているが、今は専用の巨大な整備台に横たわってオーバーホールの真っ最中だ。

 何しろ、先の滅びの獣の一柱である<貪欲>との戦いは激しく、異常が無いかを入念にチェックする必要がある。

 事実、巨体故に一見損傷個所は特に無いように見えて、細かな傷はいくつも発見されていたのだ。


 これらの傷は、戦闘中は各種スキルで修復された名残だ。

 スキルによる修復はあくまで応急的な処置であり、戦闘後は修復跡として顕在化する。

 人体の場合で言う傷跡のようなものだ。

 これらはダメージとしては回復している処理になるが、機体としての強度は微妙に落ちて、武器などのアイテムで言う耐久度が低下した状態にある。

 魔像や人形系のモンスターは、戦闘後の平時に、これらを回復させる必要があった。

 次にいつギガイアスを必要とする事態が来るか判らない状況では、修復は急務であるのと同時に、滅びの獣との戦闘が及ぼした影響を入念に確認する必要があり、こなさなければならないタスクは膨れ上がる一方。

 蟻女のなかでもギガイアスの整備を受け持つ者達は、この問題を人海戦術で対処しようとしていた。

 普段整備以外の仕事を担う女中たちでさえ借り出し、休みなしで作業の山に挑みかかっていく。 

 作業が途切れないように何チームかに分けて時間差で作業を途切れさせない。

 その結果が休憩時間のずれであり、ひっきりなしに消費されていく甘味の原因だった。


 実際作業は厳しいのか、ツナギを着た女中たちの目は重く沈んでいた。

 それが甘味を摂取すると『パアァァ!』と音が聞こえてきそうなほどに顔色が喜色に染められていくのだ。

 どうやら甘味は蟻女達にとってエナジードリンクに匹敵する効果があるようであった。


 同じころ、万魔殿の別の一角でも甘味を堪能する者が居た。


「あぁ甘くておいしい! 生き返るわぁ」


 思わず口に出たといった風なのは、蟻女達の中でも、まとめ役となる蟻女女王のターナだ。

 普段は冷静なハウスキーパー然としている彼女だが、今は他の者が居ないせいか随分とだらしなく脱力している。

 万魔殿の使用人専用区画、その中の一角。

 女中頭として働く蟻女女王のターナは、自らの自室でベッドに突っ伏していた。

 ベッドの上には、トレーに乗せられた甘味が幾つか。

 女中頭の特権として料理番に用意させ届けさせた特別製のモノだ。

 うつぶせのままだらだらと甘味を口に運ぶ姿はダメ人間の態である。

 普段万魔殿の家事の一切の指揮を執る有能な姿はそこにはない。


 余談ながら、蟻女の生態として総体としては勤勉な性質を持つが、その中で女王だけは奉仕される側として怠惰さも持ち合わせる場合もあるとか。

 ターナも蟻女の女王種であり、そういった性質はあるにはあるが、今回は少々趣は異なる。  


「初の実戦があんなことになるなんて、思いもよりませんでしたわ……」


 極度の緊張と精神的疲労の反動なのだ。

 彼女は、先刻まで初の実戦を体験してしまったのだから。


 本来、彼女と同僚のハーニャは、あくまで夜光にギガイアスを届ける役目だと考えていたのだ。

 しかし、<貪欲>を名乗る存在が作り出した瓦礫の巨人を前に彼女たちが離脱する余裕などなく、また夜光達が指揮席に至るまでの時間が長かったこともあり、なし崩し的に彼女たちも戦闘に参加することになってしまった。

 蜂女女王のハーニャは万魔殿の警邏を担当する役割を担っているだけに普段から戦闘訓練も欠かさず、心構えも出来ていたが、ターナはあくまでギガイアスの整備の指揮を担う非戦闘タイプのモンスターだ。

 いきなり戦闘に突入して負担にならない筈も無かったのだ。


「……夜光様のお役に立てたのは幸いでしたけど、これからもあんなことが起きるのかしら」


 実際先の<貪欲>との戦闘において、彼女はしっかりとした働きを示していた。

 彼女は夜光にギガイアスの整備を担うために創造術師系統の称号を与えられており、戦闘中そのスキルを行使してギガイアスの損傷を随時修復していたのだ。

 また、祭壇形態に移行してからは、魔力増幅効率を促進させる補助術師として夜光の力になって居た。

 その結果が、あの巨大な火球だったのである。


 ターナとしては、夜光の力になれるのは喜ばしいが、それはそれとしてもう少し手加減してもらいたいと言うのが本音だ。

 生まれて初めての戦闘が伝説に謡われるような化け物と言うのはいかがなものかと。

 夜光としても戦場にギガイアスを運んでもらうだけのつもりであったが、なってしまったものは仕方がない。

 そもそも、ギガイアスへの指示は、各形態への変形や細かなモノは夜光以外では現状ターナが行えるだけだ。

 戦場に向かうにあたって変形が必要である以上、彼女がギガイアスに搭乗して戦場へ運搬するのは今後も必須であろうと想定できた。


「夜光様はまだ皇都で何か起きるかもしれないから、準備だけは整えて置いてと仰られていましたね……ギガイアス様の整備の進捗を後で確認しないと」


 ギガイアスは夜光にとっての切り札だ。

 皇都に思いもよらない相手が出現した以上、最早どこで何と遭遇するかも分からない。

 ゲーゼルグなどの優秀な夜光の側近も居るが、最大戦力は動かせる状態にする必要がある。

 それはつまり、今後も蟻女達の整備と戦闘消費した各種精霊石の補給が急務だと言う事。

 実際ターナが休養している今この瞬間も、整備担当の蟻女達はフル稼働でギガイアスの各所を修復している。

 先に大まかな修復と補給の指示だけは出しているのでこうして休めているが、ある程度回復したら指揮に戻る必要があるだろう。

 とはいえ、それは十分に回復してからで十分だった。


「……今は、もう少し休息を……」


 疲労もさることながら、無事に帰って来たと言う安堵にターナの瞼が重く下がっていく。

 睡魔の誘惑など普段であれば耐えられるターナであるが、今この時はそれに抗う気に荒れなかった。

 内勤の自身が戦闘でも活躍できたという密かな喜びに、気が緩んでいたこともあり、女中頭のターナは、片手に甘味を手にしたままベッドの海に沈んでいった。


 尚、彼女が目覚めるのは丸一日後であり、その間働き続けた整備担当の蟻女達から相応に恨みがましい目で見られることになるのだが、それはまた別の話であった。

本業にてデスマーチ中なので更新スピード落ちています。

申し訳ない。

自分がデスマーチ中と言う事もあり、作中でもデスマーチっぽい状況を。

ギガイアスが戦闘を行うと、毎回このような状況になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] デカ物は動かすたびに整備が必要・・・実によくわかります!
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