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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第3章 ~皇都アウガスティア~

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第26話 ~次の幕へと~

「どう?そっくりでしょん? あの子を理想の相手に選んだ冒険者は多かったから、再現度は中々のもののはずよん?」

「あ~えっと、たしかこうだったわねん……どないや? ウチの姿おかしくないやろか? 夜光っちにホーリィっち」


 ラスティリスの分身から分かたれもう一人の分身が変化した姿、ギルド総支配人アルフェリアの姿に僕は咄嗟に言葉が出ない。

 途中で口調も変えた分身は、まさしく記憶の中に在るアルフェリアそのモノだった。

 ああ、確かハイエルフの彼女はで実年齢は秘匿されているものの『Another Earth』の開始国である王国の初期の頃の訛りが言葉に残っているという設定だった。

 その結果、何故か関西風の語りになっているのだ。確か海外だとラテン語がたまに言葉に混ざるとかそんな感じであったと聞く。

 ハイエルフと言う生まれに対して、妙に冒険者には馴れ馴れしく接して来る彼女には、プレイヤーである僕達が振り回されていたものだ。

 ああ、でも一点本物と違う場所があるな。


「ラスちゃん、そのお胸はちょっと違うよ~?」

「ええっ? そうなん? 冒険者の願望で色んなサイズになってたさかい、一番多かったサイズにしたんやけど……」


 そのたわわに実った豊かな胸だ。

 本物のアルフェリアは、外見だけは古風なハイエルフ的姿を踏襲していて、スレンダーと言うかしなやかな所謂モデル体型をしていた。

 ただラスティリスの元にやってきて、イベントで性癖を読み取られたプレイヤーの願望は、色々好き勝手していたようだ。

 割と実際の本人も気にしている風だった胸を、豊かにした姿で再現されることが多かったらしい。

 そういえば、ファンアートでも段々巨乳化の流れになって居た気がする。

 いやまぁ、それは別に重要な問題じゃない。

 今優先すべきは、キャップ開放が本当に可能かどうかだ。


「まぁウチの胸の話は良いんや、夜光っちにホーリィっち。二人とも、今はえらい弱くなってるんやろ? 修行のやり直しは結構やけど、そうは言ってられんのは、今回の事でも身に染みた筈や」

「確かに位階が初期に戻ったのは、色々と不便で……でも、それは本当に可能?」

「出来るかできんかで言ったら、出来るんや。そもそも、魔王のウチの方もクエスト依頼は出せてるんやから、ウチの姿を取れば似たようなクエスト依頼も出せると思わへん?」


 確かに彼女の言うとおり、ラスティリスも彼女に認めてもらうための試練をクエストと言う形で僕達プレイヤーに発注していた。

 同様の形式をとるなら、確かに可能なのかもしれない。

 そして、実際に可能だと言うなら、受けない手はない。

 今回もそうだけど、中級位階ではあまりにできる事が限られる。

 襲撃されて殺されてしまったこともそうだけど、準上級位階になれば転移魔法や簡易障壁などの、今回欲しくてたまらなかった便利な魔法も開放できるし、とっさに召喚できるモンスターの枠も一気に増える。

 そして準上級になれると言うのなら、同じ依頼者と同じ場所で受けられる上級位階へのキャップ開放クエストも可能なはずだ。


「確かに……じゃぁ!」

「そやね。なら、はじめよか……コホン、もっと強くなりたいやて? ほなら、その資格が有るか証明してもらうで?」


 記憶の中に在るアルフェリアのセリフとともに、意識の中にメッセージが浮かぶ。


>>クエストが発注されました。

>><人の試練>を受注しますか?

>>(YES/NO)


 僕は迷わず受注する。

 かつての『Another Earth』でのクエスト受注と同様に、問題なく受けることが出来ていた。

 横を見ると、ホーリィさんも同様に無事クエストを受けられたようだ。


「……上手く行ったみたいやね。ほなら、何時ものお使いしてもらうで? 精々頑張ってウチに金目のモン貢ぐんやで!!」


 アルフェリアになり切ったラスティリスの分身が、彼女の定番のセリフを口にする。

 そうそう、アルフェリアが金にがめついと言われるのは、彼女からのクエストで納入するアイテムが、妙に希少で高額なモノばかりだったからなんだ。

 この<人の試練>で納入するのは、とある樹海の奥でしか産出されない香木だった。

 視界の効かない、更に獰猛な獣や毒虫等が襲ってくる樹海の踏破は中級では相応に難しく、実装当時は苦労したらしいと言う話を聞いている。

 僕もプレイヤーとして初めて<人の試練>に挑んだ時には、ちゃんと手順を踏んで入手した。

 とはいえその香木、実はプレイヤー間のアイテムをやり取りするマーケットでも入手が可能だったりした。

 このアイテムを原料にした制作アイテムが存在して、そこそこ良い性能をしていたために、キャップ開放する以外でも需要があったのだ。

 そもそも中級位階で踏破可能な場所である以上、それ以上の位階ならばレベル差のごり押しで余裕に行き来することも可能だった。

 そんなわけで割と手に入りやすいアイテムであり、クエスト以後はさして苦労せずに入手していたのだった。

 その制作アイテムが、自身のレベル以下の知性の無い野生モンスターを非アクティブにする、つまり向こうから襲ってこなくする効果だったこともあり、需要は常にあったのだ。

 もっとも、<人の試練>を受けている際には、少なくともマーケットで入手した香木は納入不可であったけれど。

 つまり、何が言いたいかと言えば。


「<獣除けの匂い袋>の状態だけど、これで納品大丈夫?」

「あ~、まぁおまけにおまけにしてOKや」


 直ぐにでも納品が可能だったという事。

 今回の皇都行きにしても、エッツァーの大河を遡るにしても、モンスターは居ないが代わりに河賊や気性の荒い野生の動物の遭遇を避けるお守りとしてこの匂い袋を持ち歩いていたのだ。

 特に皇国中央に向かう流域の一部では、野生の熊の生息域らしいから、念には念を入れて置いて正解だったと思う。

 ……これも襲撃者に一度取られていたのだから、本当に今回は下手を打ったなと思う。


「私も~、ちゃんと自分で取って来た香木から作ったのだから、大丈夫の筈よ~?」


 ホーリィさんも同様に納入する。

 そうそう、納入品を事前に入手してると、その場で渡せるんだよね。

 アルフェリアになった魔王の分身は、記憶の中の素振りそのままに受け取り、満面の笑みを浮かべた。

 プレイヤーから守銭奴の微笑と言われたあの笑顔だ。


「話が早いのはええことや。ほな、こっちにきいや。祝福したるさかいにな」


 そう言うと、彼女は両途を広げて手招きする。

 僕らは、それに従い近寄ると、アルフェリアは僕らを抱き寄せた。


「精霊よ、大いなる聖霊よ。ここに我らが子ら、夜光とホーリィに、新たなる道を示されたもう。子らの道行に祝福を……」


 アルフェリアは、ハイエルフ。それも精霊との交信を深く行える精霊使い系の伝説級位階の称号持ちだと公式設定にあった。

 彼女を模しているとはいえ、魔王の権能での再現は本物と寸分変わらず、本物と同様に周囲には呼び出された精霊の放つエフェクトが煌めいている。

 ……もっとも、ちょっとそちらに意識を向ける余裕が今の僕にはない。

 本来のアルフェリアには無かった、そもそもMMOとしての『Another Earth』はVRではなかったので未体験ゾーンな『感触』が、僕を包んでちょっと大変なのだ。

 ああ、何だコレ……妙に甘い匂いと全てを包む柔らかさ。

 これが天国と言う奴だろうか。

 多くのプレイヤーに魔改造された彼女の抱擁は、何と言うか柔らかな劇物だった。


「ふわぁ~何これ~ふかふか~」


 横から聞こえてくるのは、僕と同様に抱きかかえられているホーリィさんの解けている声だ。

 僕同様に、解け堕ちているらしい。


「……夜光っちにホーリィっち、もう終わったで? 位階、準上級に上がったんよ? なぁ、聞こえとるん?」

「多分、そのお胸と色欲の大魔王としてのワタシの力がちょっと混ざっちゃたのかもしれないわん」

「……ほんまや、二人とも<魅了>されてはる」


 そんな声が聞こえてくるものの、ちょっとまだ体は動かせない。

 僕達は二人して、ちょっと駄目にされてしまったのだった。

 そして、締まらないながらも、僕達は準上級の力を手に入れていたのだった。



 同時刻。

 本来の皇都、その港では、多く衛視と騎士団がとある一角を取り囲んでいた。


「一体、何が起きたらこんなことになりやがる」


 衛視と騎士たちの視線の先は、皇国でも有数の商家であり、法衣貴族のひとつ、ペリダヌス家の別宅があった場所だ。

 港の一角を占める広い敷地は、今は更地が広がるばかり。

 これがつい数刻まで相応の格を示した邸宅が立っていたとは思えない光景だった。


「直前に、敷地内で悲鳴が上がったとの証言もありますが…」

「俺は見たんだよ、何か訳わかんないデカイ代物が居たんだって!」

「何だか黒いモヤが飛んでいたって?」

「空に奇妙な膜が一瞬浮かんだというのは、どういう術だ?」


 野次馬や調査する衛視のやり取り、喧騒で、辺りは夜とも思えない騒ぎとなって居た。

 何かが起きたのは明らかだ。

 特にペリダヌス家からは、自家の重要な商家部分が一切失われかねない事態だけに、騎士団や衛視に強く原因究明の要請が届いていた。

 ただでさえ、この皇都は最近よからぬ噂が幾つか挙がってきているのだ。

 此処で何があったのか、その手掛かりでも掴まない限りは、皇都を守る衛視としても立場がなくなる。


「とはいえ、手掛かりに欠ける……屋敷の痕跡も無いのでは、何も探しようもないではないか」


 そもそも、屋敷どころか、ここに詰めていたという多くの使用人や家人、特にセザンネルという現ペリダヌス家当主の実の弟さえ行方不明になって居るのだ。

 これは決して見逃せる話ではない。

 だと言うのに、こうまで手掛かりがないとなると……


「……更地か。こんなことが出来るとしたら、精霊屋位か?」

「精霊屋?」


 そこでふと野次馬らしき傭兵が漏らした言葉を、衛視の一人が拾ったのだ。


「ああ、何でもカーティスって傭兵が土の精霊とやらを使うらしいって話だ。この家に雇われてたって話も聞いたことが有る。俺は精霊ってのに詳しくは無いが、土の精霊ってのなら、屋敷を全部土に埋めるのもできるんじゃねぇのか?」


 その傭兵の男は、流れの傭兵だと言うその精霊屋について語った。


「精霊屋の、カーティスか。手掛かりかもしれんな……おい、知らせを出せ。カーティスとやらを探すぞ」


 衛視の隊長格が、せめてもの手掛かりと指示を出す。

 彼らの夜はこれからも長くなるのだろう。

 皇都の夜は今だ慌ただしさに満ちていた。


 そして舞台は移っていく。

 広大なる皇都から、その中心たる皇城へと。

 御前会議の開催は、明日に迫っていた。



―――― 第3章 終わり ――――

これにて3章皇都編終了です。

舞台は皇都そのままに、4章御前会議編へ…


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回の皇都行きにしても、エッツァーの大河を遡るにしても、水棲のモンスターは存在するわけで、そういったモンスターとの遭遇を避けるお守りとしてこの匂い袋を持ち歩いていたのだ。 1章10話…
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