第20話 ~巨人激突 序~
轟音を立てて、落下して来る城を貫き吹き飛ばした飛行形態のギガイアスが、僕達を庇うように降下して来る。
巨大な怪鳥の様な形態から、巨人の形態へと。
あの瓦礫の巨人に匹敵する巨大な威容は、何とも頼りがいがあった。
「みんな、乗り込もう!」
さっきまでゼルとここのが戦ってくれていたけれど、同時にサイズ差で戦力にならない僕達をガードもしていたために、思うような戦い方にはなっていなかった。
実際近接戦闘に意識を向かせて、人間サイズの僕達では致命傷になりかねない瓦礫のブレスの操作へ負荷をかけてくれたり、ブレスを無力化するなど、防御寄りの立ち回りだった。
だけど、僕達が強固なギガイアスの中で守られるならば、二人も全力で戦えるはずだ。
僕達は、いつも利用する胸部上方の搭乗口からではなく、背中側にある入り口から乗り込んでいく。
この入り口は、正確には使用済みの精霊石の排出孔だ。
ギガイアスのような魔像に多彩な魔法装置を搭載する場合、そのエネルギー源として精霊石の中の力を消費する。
力を全部消費し切ったら、軽量化として使用済みの石を排出するのだけれど、これも場合によっては攻撃に転用できるのだが……今は横に置こう。
胸部の入口からなら指揮者用の空間に直結しているから直ぐに辿り着けるのに対して、背中からは本来の入り口では無いから少々手間がかかる。
具体的には内部に収められた多様な魔法装置の合間を無理やり体をねじ込むことになるのだ。
僕のこのアバターは少年……いや、今は少女体だから小柄だし、吸血鬼として体を霧化できるマリィや本性がスライムなラスティリスなら、問題なくたどり着ける。
リムも着こんでいた闇騎士装備さえストレージに収めれば苦労はしないし、ホーリィさんも手にしたメイスが時折通路に引っかかったが問題は無い。
一人酷い目にあったのは、未だにす巻き状態のカーティスだ。
荷物状態のために自分では動けす、<重さ軽減>の魔法で変に軽くなっているせいか、持ち運ぶ際に勢い余ってぶつかったりなどしたのだ。
(~~~~~~~~~~~っ!)
声にならない糾弾の叫びが聞こえるような気もするけれど、これも今は横に置く。
何しろ僕達がギガイアスの中に入った直後から、僅かな振動がひっきりなしに起きているのだ。
多分、<貪欲>もギガイアスが本格的に動き出す前に対処したいのだろう。
あの速射砲のような瓦礫の投射を、既に仕掛けているのだと予想できる。
事実今までのギガイアスなら、命令者の声が届かない限り動き出すことは無い。
だけど、それは今までそうだっただけの話だ。
「っ!? 動き出したみたいだ!」
急に発生した横殴りのGに、通路を行く皆の動きが一瞬止まる。
ゴン、と鈍い音を立てたカーティスの頭は放置だ。
今の横殴りのGは、側面噴射での急速回避だろう。
先のライリーさん達の魔像とやり合った時にも使った装備だ。
「初めに浴びせられた、瓦礫のブレスを避けたかな?」
例えばあの盾をより合わせて作った腕で殴られたなら、もっと違う衝撃のはずだ。
回避も上手く行ったようで、追加の衝撃は無い。
うん、中々に悪くない指示をしてくれてるみたいだね、彼女たちは。
「初実戦、上手く行ってるみたいね~」
ホーリィさんが告げる様に、ようやくたどり着いた搭乗用の空間に、彼女たちは居た。
「ハーニャ、回避はこちらが手動で噴射をかけますので、そのまま攻撃の指示を」
「判ってるわ、ターナ! ギガイアス様、<噴進鉄拳>を! 命中したら同時に<破軍衝>を!!」
主である僕専用の席ではなく、普段マリィやリムが座る補助用の席に座った二人の女性型モンスター。
一人はゴシックな本格的メイド服で首元から足元まで完全に着こなした妙齢の女性。
僅かに顔の輪郭部に漆黒の甲殻をのぞかせ、ホワイトブリムの陰から触覚を覗かせたのは、僕のマイルーム万魔殿のメイド長兼ギガイアス整備長の<蟻女女王>のターナ。
そしてもう一人は、黄色と黒のストライプ模様の甲殻鎧で身を包んだ、どこか怜悧な印象を漂わせる女騎士。
こちらも兜の陰から触覚を伸ばし、背には折りたたまれた翅をもっている。
彼女もまた万魔殿の衛視長である<蜂女女王>のハーニャ。
僕が不在の中、ギガイアスに指示を出していたのは、二人だった。
いまも外界表示に映る瓦礫の巨人の猛攻に対して、初陣ながら見事に戦えていた。
そもそも彼女たちがこうしてギガイアスの運用をしているのは幾つかの理由がある。
この世界に来てから、いまだギガイアスを直接僕の魔法で呼び出すことには成功していない。
自分の作成した魔像とは言え、今現在の僕の実力よりも強い存在の直接召喚は莫大な消費魔力と事前の召喚用魔法陣の準備が必要で、実用的ではないのだ。
そもそもサイズと重量が問題だ。
召喚用の魔法陣は、呼び出す対象がスムーズに通れるだけのサイズが必須になる。
ギガイアスの巨体が自由に通れるような魔法陣を用意するのは、どうしたって手間だった。
だからこそ、ギガイアスの力が必要な場合は、万魔殿で待機中の彼に乗り込んで直接乗って目的地に移動するという方法をとっていたのだ。
しかし最近、一つの抜け穴を発見したのだ。
ギガイアスのメンテナンスは、ターナを始めとする蟻女のメイド隊に一任してある。
その際、ギガイアスがターナの呼びかけに応じて態勢を変えたり、変形機構を作動させたりが可能だとわかったのだ。
ターナの協力が有れば、ギガイアスを遠方に居ながら発進体制を取らせて、地下の魔法陣で僕の元へ直接送り込むことが可能なのだと。
実際事前の実験で、簡易的にとは言えターナはギガイアスに乗り込みある程度の行動をとらせることができていた。
戦闘経験は一切無いために、攻撃の命令等は上手く出せなかったのだが、ギガイアスが搭載する各種の魔法装置は、むしろ全て整備していることもあり、巧みに操って見せたのだ。
更に、その実験を見ていたハーニャもまた、乗り込んでギガイアスに指示を出せることが判った。
こちらは魔法装置に関しては戦闘用の幾つかしか覚えられなかったようだけれど、その分限られた魔法装置を的確に指示が可能だった。
つまり、僕が乗り込む前でもターナとハーニャが指示して、ギガイアスはある程度戦えるようになったのだ。
「お待たせ、二人とも。よく持たせてくれたね?」
「夜光様、お待ちしておりました! ああ、でも早く指揮を代わってくださいまし! メイドには荷が重すぎますわ!?」
「貴方様!! アレは何ですか!? 私達は一体何と戦って居るんですか!?」
力を尽くしてくれている二人の女王に、僕は労いの言葉をかける。
しかし、振り向いた二人は必死の面持ちだ。
あ~うん、いきなり化け物中の化け物な滅びの獣と戦わせることになっったら、それは文句の一つも言いたくなるよね?
それは仕方ない。
昆虫系モンスターは人に近い姿の場合でも顔色とかが判り難いのに、真っ青になってるのが良く解る。
うん、これは無理強いできない。
「じゃあ、二人は魔法装置の制御でサポートを頼むね」
余程緊張していたのか、僕の声で戦闘中だと言うのにターナとハーニャは崩れ落ちそうだ。
いやまぁ、ゼルとここのが僕達を守る必要がなくなっている分、攻勢に出ていてこちらにはまだ本格的に攻撃を仕掛けていなかったみたいだけど……それは言わない方が良さそうだ。
ともあれ普段の定位置に僕とマリィとリムが着く。
今回はそれ以外にも搭乗者は多いけれど、幸いギガイアスは巨大なだけに座席には余裕がある。
だけどホーリィさんとラスティリス、ターナとハーニャが補助用の席に着けば、流石に一杯だ。
可哀そうだけれど、荷物として連れてきた精霊使いのカーティスと言う男には、荷物らしく床に転がって貰った。
さて、外界表示には、依然暴れまわる瓦礫の巨人が映っている。
今の状況は、先のカーティスたちが居た拠点で毒の短剣が見せた、無数の装備を旋回させて時折その範囲を広げる攻防一体の攻撃方法みたいだ。
横殴りに重機関砲じみた無数の瓦礫や装備を呼ばしてくるようなもので、これにはゼルやここのも苦しめられている様子。
先ほどの側面噴射での回避も、回転する装備の方向から斜めに大きくかわすための物だったようだ。
更には、瓦礫の巨人が振りかぶると、小屋程度の瓦礫の塊を投げつけて来た。
だが、これは僕にとっては願ってもない攻撃だ。
「ギガイアス、<破軍衝>で迎撃! 消し飛ばせ!!」
ギガイアスの両腕両膝に計4基据え付けられた衝撃波発生魔法装置、<破軍衝>。
これの威力はすさまじく、小屋程度の物体なら粉々に消し飛ばすほどの威力がある。
そして、うなりを上げて飛来する小屋ほどの瓦礫も、<拳聖>の称号を持つギガイアスの拳は、容易く貫いて続く衝撃波で一切を消し飛ばす。
「核がどこにあるにせよ、まずはその邪魔な瓦礫の鎧をはがすところから、だよね!」
あの瓦礫の巨人は、恐らく核であろう赤黒い光にたいして、防御をしっかりと固めている。
ここまでの戦いでも、ゼルの鋭い一撃や九乃葉の9条もの自在に操る尾でも、その守りを貫けていない。
ならば、その防御の由来である莫大な容積の瓦礫を削っていくまで。
ギガイアスが魔像故の疲れ知らずの拳の連撃すべてに<破軍衝>を乗せて暴れまわり、時折ゼルが既何本もになった瓦礫の巨人の腕を斬り飛ばす。
九乃葉は物品を燃やしつして消滅させるのを主眼に置き、9本の尾、その全てを炎に統一して巨大な炎の渦を生み出していた。
対する瓦礫の巨人もまた、天空にマイフィールド用家屋設営アイテムを呼び出し、落下による押しつぶしと自身の身体を構成する瓦礫の補充を狙う。
こうして、瓦礫の巨人の攻撃の合間を縫っての持久戦が始まることとなったのだ。




