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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第3章 ~皇都アウガスティア~

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第13話 ~足取りを追って~

 正直なところ、僕を襲った襲撃者達を探すのは、それなりに骨を折ったのだ。

 幸い僕自身は襲撃してきた男たちの顔を見ることができていた。

 そして、襲われた傭兵たちも、死んでいた間の記憶は無いにしても、襲撃の記憶は残っていたのだ。

 同時に、その素性も知る者も。


「連中はダインって奴がリーダーの流れの傭兵のチームだ。間違いない」


 そう語ってくれたのは、レオナルドも信を置いていたという長く商会で専属の護衛をしていたというフェリドというハルバード使いだ。

 話を聞くと、傭兵仕事の斡旋所で確かに顔を見た事があったらしい。

 チームの内訳も、精霊屋のカーティスに大剣使いのベンと元盗賊のアバルと、襲ってきた連中としっかり合致する。

 そこからは早かった。

 被害にあった傭兵たちも同業者の情報はある程度握っていたのだ。

 しばらく前からダインのチームは余り姿を見せなかったそうだけれど、これはグラメシェル商会の護衛が襲われ出したころと一致する。 

 そしてその姿を見せなくなる前に、彼らが専属で仕事を受けていた相手が浮かび上がって来た。


「なるほどなるほど、ペリダリス家と。いやはいや、これはこれで捻りがない」

「知っているんですか?」

「ええ、ペリダリス家は貴族なのですけどね、商売もしているのですよ。領地を持たない法衣貴族が俸給以外も家の力を増そうと商売に手を出すのはままあることなのですけどね。その中でも成功している家の一つです」


 何でも、南西の陸峡地域の先、中近東諸国との貿易で財を成したらしく、最近では新興のグラメシェル商会に追い抜かれたものの決して侮れない力を持っているとか。

 同時にグラメシェル商会が現在皇国に特に重用される現状に不満を持っているらしいとも。


「とはいえ、ペリダヌス家が黒幕である決定的な証拠は現状有りません! 仮にも貴族相手に証拠不十分の状況で逆撃するのは無謀! となると実行犯を先に押さえてそこから辿るのが筋と言う言うモノ! ……と言う事で、皆さんに依頼をしたいのですけどね?」


 そういえば、レオナルドに僕達は雇われたまま。

 昨日の段階ではまだ特に何をすると言うのは無く、仕事を受けると言う契約だけ結んでいた状態だった。


「実行犯の確保をお願いしましょう。できれば、五体満足で」


 とはいえ、その言葉は仲間たちにとっては少々受け入れがたい物だったようだ。

 僕を殺した襲撃者達を、ゼル達は決して許す気はないらしく、今朝僕の生首を見たときのような殺気が僅かに溢れている。

 だけど、レオナルドはそんな皆に対しても引かない。


「色々言いたいことはあると思いますが、ここはこちらの顔も立てていただきたい! 何しろ、恨みを晴らしたいのは貴方たちだけではなくこちらも同じ! ならば恨みを晴らす為の『元』を、『初めは』十全に確保するべきとは思いませんか?」


 彼の視線の先には、僕と同じくダインという傭兵チームに殺された商会に雇われた傭兵たち。

 彼らは死んでいる間の記憶はないけれど、襲撃された記憶は残っている。

 確かに、彼らも恨みは晴らしたいのは理解できる。


「それに、まだ正気の時点で色々話してもらわなければ、糸を引いていたであろうペリダヌス家を叩く証拠になりません! 資金のある貴族を相手取るには万全の状況と証拠が必要なのですよ!」


 そう言われてしまうと、仲間たちも思いとどまらざるを得ない。

 実行者だけに恨みを向けた結果が、裏で手引きした者の放置というのは、確かにいただけないと言える。

 勿論力づくでそのペリダヌス家を叩くこともできるけど、それはここまで極力僕達プレイヤーの力を隠してきたのが無駄になる。

 そうなると、取り得る手段は限られていて、レオナルドの言うとおりに襲撃者を捕縛するのが最適と言えるだろう。





 こうして、僕達はダインと言う槍使いを探すことになった。

 レオナルドと復活した傭兵たちは、そのまま商会本店に戻っていった。

 復活した傭兵は身ぐるみはがされていたので面倒を見なければいけないらしいのと、レオナルドもペリダヌス家を相手取るのに準備が必要だという事らしい。

 実際、一緒に行動されると僕達の動きや能力も制限されるから、これは有難かった。

 何しろ、この広い皇都で特定の人物を探すのに、普通の方法では時間がかかり過ぎるからだ。


 襲撃者達は、槍使い以外はさほど強くは無かったけれど、自分たちの痕跡を消すことにかけては優秀だったのだ。

 僕の血の匂いをよく知る吸血鬼のマリィが、襲撃後僕の後を追えなかったのだから。

 彼女の話に聞くと、血の匂いで僕を追おうとしても、皇都のあちこちで匂いが途絶えて追跡が難しかったそうだ。

 それは無理もないだろう。僕の首をあの槍使いに運ばれている間、幽体としてその行動を見ることができていたけれど、あの襲撃者達は巧みだった。

 移動中に何度もPvP用空間を展開して人込みや人目を避けたり、ときには精霊使いの力で地中を移動するなんてことを駆使していたのだ。

 かつてのMMORPG 『Another Earth』でのPvP用空間は、大規模戦闘専用空間のように周囲の状況を完全に再現した仮想空間を作り出すモノだった。

 そして、その中で移動した後通常の空間に出ると、通常の空間側でも移動した先に出現する仕様だったのだ。

 これでは聞き込みをしても行方が分かるはずもないし、血の匂いもあちこちで途切れてろくに追跡も出来ないだろう。

 だから僕を、そしてグラメシェル商会に雇われていた傭兵たちを襲った者達を探すには、別のアプローチが必要になる。



「さて、足取りを巧妙に消してる相手だけけど、だからこそ手掛かりはあるんだよね……ここの、精霊術の痕跡を辿れる?」

「無論ですえ、主様。仙術にて陰陽五行の気を辿るは基本でありますれば」


 あのダインたちは、足取りをPvP用空間と土の精霊術での移動で隠蔽していた。

 逆に言うと、精霊の働きが強く残る場所は、あの襲撃者達の移動経路に関わると言う事。

 九尾の狐である九乃葉は、その実陰陽術の系統の高位称号<仙術師>を修めた仙女でもある。

 土行の気もまた彼女の扱う五行術の中の一つだ。

 あの精霊屋と呼ばれた精霊術師は土の精霊を得意にしていた。

 この皇都は大規模な都市ではあるけれど、逆に言うと土の精霊が強く影響を残すと言うのは珍しい。

 つまり土の精霊の痕跡を追っていけば、足取りをいくらか辿れると思ったのだ。


 ただ、それだけでは完全に足取りを辿れない。

 皇都は都市である以上、主な道路は石畳で舗装されている。

 そしてそういう場所は人目も多く、襲撃者達は別空間であるPvP空間を展開して通り抜けたらしく、足取りが途絶えるのだ。

 これも、逆に言えば判り易い。

 現実に重なるような別の空間を展開するような強力な術である以上、何らかの魔力の痕跡は残る。

 僕の仲間には、その存在が魔力と強く結びついた悪魔であるリムが居るし、今は大魔王であるラスティリスまで同行して居るのだ。

 皇都全体に守護の魔法ががかっている関係上、痕跡もある程度の時間で消えてしまうらしいけれど、1日程度なら十分に追える。


ご主人様(マスター)、此処ですわ。ここでご主人様(マスター)の匂いが途絶えます!」


 そして、僕の血の匂いの痕跡が途絶える区間を別方法で補完できたリムは、皇都の片隅のとある一軒家にまでたどり着いていた。

 彼女が言うには、この家の手前で最後の痕跡が途絶えているのだと。

 実際、その家は少々怪しい。

 ぱっと見は何の変哲もない家なのだけれど、入り口が無いのだ。

 何処か別の家と地下で繋がっているのかと思う所だけれど、これは違うのだろう。


「確かに土の気が大きく変化した名残がありますえ。主様、件の土の式使いの仕業かと」


 ここのが言うのは、この家の出入りには精霊を使って地下を行き来する必要があるのだとか。

 用心深いと言うかなんというか……

 ただ、この家には入り口がないだけで、小ぶりな窓や僅かな隙間などはあるようだ。

 なら、もう少し確かめてみよう。

 僕はグラメシェル商会に設置した<魔法の目>をここでも作り出す。

 ピンポン玉程度のこの魔法の目なら、僅かな隙間からこの家の中に入り込めるだろう。

 実際三角屋根の端に僅かに隙間があって、目はそこから中に入ることができた。

 ずっと視点を動かしていくと……居た。

 何とも嬉し気に僕の着ていた杖や服を振り回す精霊使いと、そんな男を呆れたように見る剣使いと盗賊崩れ。

 あの槍使いはそんな3人には我関せずと、愛用にしているらしき槍を手入れしている。

 特に目を引くのはあの槍だ。 

 槍使い本人は目がギラついている以外は特に特徴は無いのだけれど、槍だけは改めてみても異様な雰囲気を放っている。

 変な言い方をすると、槍使いはあの槍に奉仕しているような、そんな印象まで持ってしまう。

 実際、そういう持ち主を操るような魔剣の話はかつてのアナザーアースでもクエストの種として存在していたし、最近ではナスルロンのフェルン侵攻で妙な指輪が持ち主を変貌させた話もある。

 あれは、持ち主よりも槍そのものを警戒するべきかもしれない。


 そこまで見たところで、僕は魔法の目を消した。

 もう、必要なものは見た。

 今は槍使い達は休んでいるけれど、何時動き出すか判らない。

 なら先制するなら今だ。


「今なら、不意を打てる。足止め役を作って壁抜きするから、みんなは各自で捕縛を頼むね? ホーリィさんは<見果てぬ戦場>を最小範囲で」

「了解よ~」


 仲間たちに告げると、僕はとある魔法を詠唱する。

 同時に、ホーリィさんは念のために持ってきていた<見果てぬ戦場>で、大規模戦闘専用空間を展開する。

 これは、向こうが<殺戮劇場>の展開するのを妨害するためだ。

 同じ系統で別空間を展開する<見果てぬ戦場>と<殺戮劇場>だけど、同じエリアに別空間は両立しないと言う制限があった。

 つまり、先に大規模戦闘専用空間を展開してしまえば、ダインたちはPvP用空間を展開して離脱するのが困難になるのだ。

 <見果てぬ戦場>も、最小範囲なら家一軒程度のエリアに設定できるし、戦闘の影響を他に及ぼさずに済む。

 そろそろ辺りも暗くなってきたので、天界の発動と消滅時のエフェクトも目立たない筈だ。


 そして僕は、創造魔術系の魔法を唱える。

 この魔法を僕はMMOの時代、何度も使ってきた。

 効果は、周囲の素材を元に1戦闘用の前衛を作り出す、簡易ゴーレム作成魔法。

 この場合の周囲の素材は、ダインたちがいる家の壁だ。

 見る間に外壁といくらかの周囲の地面を巻き込んで、レンガと石と土で出来た魔像が立ち上がる。


 その魔像の先、4人の襲撃者達を見つけて、僕の仲間たちは一気に殺気を放ち始めた。


 さぁ、お礼参りと行こうか!

昨日投稿するつもりが予約投稿忘れてました…

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