第11話 ~血風を呼ぶキセキ~
ちょっと短め
後でセリフ等追加するかも
※追記しました。
「うふふ、とっても素敵だわん」
「あら~……これは意外に在りかもね~」
どうにも僕は、色欲の大魔王であるラスティリスとは相性が悪いのではないかと思う。
死からの復活が、この世界の主宗教で異端扱い必至な以上、蘇生した僕は偽装する必要があったのは確かだ。
だからと言って、この状況はどうかと僕は言いたい。
地下室で復活して、皆からのお説教が終わってしばらく後……とある出来事が起き、ラスティリスは僕の周りを小躍りしながら観察していた。
仲間たちからの、普段向けられるモノとは全く別のベクトルの視線が痛い。
じっとりと重たいため息を漏らしながら、僕は自分自身の姿を見下ろす。
ひらひらとした装飾多めの服が目に入る。
地下室に埋められた体は裸だったから、仕方なくラスティリスが何故か用意していた女性用の服を着ているけれど、違和感がとんでもない。
スカートを着るのは初めてだけど、妙に足元からスースーしてどうにも落ち着かないし、体のバランスもおかしい。
僕は少年のアバターだから手足は元々細かったけど、今はより一層頼りなく感じてしまう。
「あ~、うん。……やっぱり、ちょっと声が高いよね……」
普段よりも、明らかに声が高い。
少し不安に思って喉に手を当てる。普段あまり触る場所ではないけれど、普段とは明らかに感覚が違う気がする。
そこからこっそり下へ。
……しっかりとした、いやむしろ豊かと断言できる柔らかなふくらみを感じてしまった。
ええい、何で年齢に見合わないご立派な二つの山を作り上げたんだ、色欲の化身め!!
全力で非難の視線をラスティリスに向けると、得意げにサムズアップを返して来た。
「夜光ちゃん巨乳好きだったから、要望に応えてあげたわ!」
「違う、そうじゃない!!」
いや待って、止めるんだ皆。揃って『知ってた』って表情で頷くのは。
ホーリィさん待って、お願いだから、リアルの僕の画像ファイルコレクションについて語るの止めて下さい! というかいつの間に僕のPCの中身見たの!?
「これも心配させたお仕置よ~」
僕の静止もむなしく、暴露される諸々。
いたたまれないのは、今の僕の身体が大体語られる内容と合致していることだ。
つまり、女性化である。
どうしてこうなった。!?
ラスティリスは、彼女を仲間入りさせる際の試練において、プレイヤーへの質問と言う形でプレイヤーの理想のタイプを聞き取り、その姿へと変身してくる魔王だ。
更に試練が進むと配下の多くの淫魔や夢魔そして上位悪魔たちもまた、その理想の相手の姿に変化して襲ってくるというギミックがあった。
この際注目すべきは、本来変身能力など持たない悪魔種族でも姿が変わっていることだ。
ラスティリスは、自らのみならず他者の姿も操れるのだ。
こうした能力を駆使して、ラスティリスは普段は自身の領域である<蜜色の奈落>の名を持つ居城で、自他共に退廃的な快楽に満ちた日々を過ごしている。
そして、その能力で僕を女性へと変化させたのだ。
一応は、言い分は判る。
変に偽装しすぎて普段とはかけ離れた姿にしてしまうと、仲間とのやり取りにも支障を来たし兼ねないことも、理解はできる。
そして顔立ちを大きく変えずに、元の人物とは別人と言い張れるような偽装と言う面で、女体化と言うのは一つの答えだと言う事も。
だからと言って、別の方法もあったはずだと僕は主張したい!
大体、はやり女体化する必要があっただろうか?
いや、無い。絶対に無い。
これは完全に彼女の道楽の結果だと断言できる。
偽装だけなら、普段の少年の姿から年齢を変えるなりで大人の姿にするとかあったはずだ。
何より一番最悪なのは……
「で、彼をどうやって復活させて、それも性別を変えたのですか? やはり、かの世界の秘宝で? 良ければ買い取りますが?」
一番隠すべき相手に、全く隠せていなかったことだ。
グラメシェル商会の会頭は、僕が復活してその上で性別を変えられたことも、しっかりと見抜いていたのだ。
経緯としては、こうだ。
性転換させられて色々と言いたいことはあったけれど、僕は一旦それを飲み込んで、地下室で見つかった僕以外遺体の情報を求めて商会に向かったのだ。
そして、見つかった死体の見分が出来る人物を求めたのだけど、まだ商会の人々の多くが仲間たちの怒気に当てられた後遺症で殆ど使い物にならない状況だった。
そしてまともに動けて見分が可能な会頭のレオナルド本人が、死体のある地下室にやって来たのだった。
……ちなみに、商会への往復は単独ではなくゼルがしっかりとついてきてくれていた。
再度の襲撃が無いとも言えないし、もう一度あのお説教は受けたくなかったから。
まぁ、それはともかくとして、レオナルドを地下室に連れてきて、凡その状況だけ簡潔に説明した後、告げられたのが先ほどの言葉だった。
「……一応聞きますけれど、何時から気付いていました?」
「そんなもの、直ぐに判るに決まっているでしょう! 商人の目利きを舐めてもらっては困りますとも!」
どうも彼は僕の事を一目で見ぬいていたらしい。
他の店員の前ではその事を指摘しなかったのは、こちらへの配慮とみるべきだろうか?
この地下室に案内する間も、僕を値踏みするようにしていたので嫌な予感はしていたのだ。
彼が僕について追及したのは、地下室の死体について聞くために彼をここまで招いた直後。
僕が思わず頭を抱えたのは無理ない事だと思うんだ。
偽装とは言え無理やり女体化されて、効果があるからと無理に自分を納得していたところに、実際はまるで意味がなかったのだから。
むしろ性転換の方法に興味を持たれてしまった気配すらある。
確かにそんなアイテムが有れば高値で取引できそうに思うのは無理もない事だろう。
ともあれ、バレてしまったからには、もうある程度腹をくくる必要がある。
僕らも、彼方も、供に聞きたいことは多いのだ。
(とはいえ、どこまで話したモノか……)
何から話そうか迷う僕に先んじたのは、レオナルドの方だった。
「処で、彼であったお嬢さんの様子を見るに、皆さんは蘇生の手段をお持ちの様子。そこで依頼したいことが有りましてね」
「……それは?」
彼はおもむろに指差す。
指示したのは、並べられた無数の傭兵の遺体だ。
「彼らも蘇生は可能ですか? もし可能であり、全員を生き返らせていただけるのであれば、我が商会は今後皆さんに全力を以て協力するとお約束しましょう」
結局の所、僕達はレオナルドの申し出を受けることにした。
口ぶりと密かにリムに読ませた表層の意識から、彼は僕達を『門』の中のアイテムを得て実力をつけた傭兵だと考えているとわかったのだ。
幾ら目利きと言っても、門の中の住人と言う事までは思い至らなかったのだろう。
とはいえ、その認識はこちらにとっても都合がいい。
門の中に関しては、僕がこの世界に来た当初に衛兵のブリアンが語っていたように、密かに未踏破の門に潜って物品を漁る者が確かに居るのだ。
そしてそういった一団なら、密かに特異な能力を駆使する場合があるとこの世界でここまで得た情報で確認してある。
勿論そういった者達は皇国の法に反しているため、誰も彼も力を秘匿する。
その一例と思われた方が、異世界の住人そのものと思われるよりもやりやすいのは明らかだ。
勿論死者の蘇生と言うのは、そういった秘匿すべき力の中でも最たるもの。
既にこの情報を握ってしまったレオナルドを、本来であれば口封じするべきなのかもしれない。
しかしこれだけの大店の主人を殺せば大事件だし、以前ブリアンにやったような暗示は、前後で明らかに別人のような性格になってしまう結果になっていた為に、不自然過ぎて下手に扱えない。
だったら、共犯めいて彼と手を握るのも一つの手だとおもう。
商会にとっても、この雇って居た傭兵たちに関しては、頭を抱えていたらしい。
次々に行方不明になり、護衛の役を担うものが居なくなるというのは、異界の物品を扱う貴重品を扱う商会にとっても死活問題だったようだ。
この明らかに異常事態を、ライバルとなる他の商会に知られないように今まで隠蔽し切っていた手腕は見事だけれど、同時にそろそろ限界でもあったらしい。
だから、ここで姿を消した傭兵たちを蘇らせ得るのであれば、彼らが不在だった理由も含めて、どうとでも対応できるようになるのだとレオナルドは語っていた。
正直なところ、懸念はあった。
つまり、この世界の人間に蘇生の奇跡が通じるのかと言う事だ。
今までの例では、僕や関屋さんと言うプレイヤー、そして彼の商店街に居たNPCたちが、蘇生に成功している。
これらは、いずれもかつてアナザーアースに存在していた者達だ。
蘇生の詳しい理論は判らないけれど、かつてのMMOの世界に存在していたからこそ、蘇生と言う超常的な現象が可能だった可能性は否定できなかった。
念のため、損傷の激しい遺体を出来る限り欠損の無い状態にして、蘇生の成功を少しでも上げておく。
その上で蘇生の間は秘匿の情報だとレオナルドを地下室から追い出し、再度マリィに蘇生を頼んだ。
幸い信仰系の最上位の称号にもなると、大規模戦闘時に必要となる範囲蘇生の奇跡も使用可能になる。
蘇生時の体力の戻り具合が単独用の奇跡と比べて劣るモノの、マリィは高位の術者であるため経験値の減衰も無く、この場合なら十分だ。
そして、蘇生は全員見事に成功した。
懸念していた損傷の激しかった遺体も、今はみずみずしい肌を取り戻している。
「一体何が……ここは一体? お前たちは何だ……?」
「貴方たちと同じ傭兵よ? 同じ相手に雇われた、ね」
蘇ったばかりの混乱する傭兵たち。
無理もないとはいえ、変に騒がれると困る。
一応軽く話を聞いてみると、皆て襲撃されて意識を失うまでしか記憶がないらしい。
つまり、死んでいた自覚がないようだ。
「直ぐにレオナルド会頭を呼んでくるから、そこで待っていて下さい。詳しくは、彼から……」
そこでレオナルドを呼んで、彼から状況を説明させることにした。
ちなみに、蘇生方法は魔法薬を使用した事にしてある。
商人相手だけに、貴重とは言えアイテムを使用した扱いにした方が何かと処理しやすいからだ。
実際、蘇生薬はアナザーアースに存在していた。
効果的には品質によって各位階の術者が使う蘇生の奇跡と同等の効果がある。
つまり品質が低いと経験値現象が発生してレベルダウンも発生するけれど、今回は実際には使用していないので何の問題もない。
「ああ、君たち。良く無事だったね。全くとんでもないことをする相手だよ……意識を奪い仮死化させる毒でこんな地下に放置なんてね……それで、君たちを襲ってきた者たちに付いて聞きたいのだが」
更に言うなら、レオナルドは彼らの記憶が無いのをいいことに、死んでいた事実すら隠すようだ。
蘇生の情報を握る者は少ない方がいいとはいえ、何とも抜け目がない。
ともあれ、こうして僕達は、皇国最大の商会と縁を結ぶことになった。
同時によみがえった者達から、僕達は求めていた情報を得ることになる。
それは御前会議の前夜に巻き起こる血風を呼ぶかのようであった。




