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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第3章 ~皇都アウガスティア~

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第09話 ~地下室での考察、そして~

「あ、足がしびれて……うぅ、まともに動かない……」

「不覚、これしきの事で足が使い物にならぬようになるとは…!」

「あら、面白そうねぇん。つついていいかしらん夜光ちゃん!」

「お願いだから止めて……」

「あら、そおん? ならゲーちゃんをつついてあげるわん」

「グオオオ!? な、何をするか!?」


 ずっと正座させられていたせいで、足も痺れて大変なことになっている。

 ほとんど感覚は無いのに、痛みのような不快感だけが痺れを伴って膝から下に居座っていた。

 何故か途中から一緒になって正座していたゼルも同じようで、なんだか楽し気なラスティリスに足をつつかれて悲鳴を上げている。

 槍が刺さろうが平然と前線で敵と切り結ぶ武人のゼルも、足の痺れには難儀するみたいだ。


 ああ、自業自得とは言え、酷い目にあってしまった。

 リム、マリィ、ここのに、ホーリィさんを加えた4人がかりのお説教とお叱りで、なんというか、僕はもうボロボロな気分だ。

 皆最後にはほとんど縋り付きながら、不用意な単独行動はしないようにと涙声で訴えてきたのだ。

 その何と言うか、関屋さんが復活できたことに高をくくっていたのは確かなので、僕にも非があるのは確かだった。

 ……まぁ実際、皆にはとても心配させてしまったので、コレは甘んじて受け入れるしかない。

 何故か、途中からゼルも一緒に正座していたのは、良く解らなかったけど……

 そのゼルも、今後は絶対に護衛をつける様にと告げてきたので、そうするよりほかない。

 護衛能力が高くて隠形に長けるモンスターも多いので、一人になるときは事前に召喚しておくよ、と応えたら、ゼルは額に手を当てて天を仰いでいた。

 何かおかしなことを言っただろうか?


 ともあれ、僕は無事蘇生されたわけで、ならばこれからどうするかと言う事になる。

 早朝に僕の首が見つかって、そこから慌てて身体を回収して、その流れでお説教に入って……多分、そろそろ正午に差し掛かるだろう。

 確か今夕にはフェルン候の一行が皇都に到着するはずで、本来なら明日以降の御前会議に向けて動く予定だった。

 だけど、状況は変わってしまった。


「何は無くとも、ミロードの敵討ちよ!」

「そうね。放置はできないわ」


 僕が反省したと納得した皆は、襲撃者に対して怒りをあらわにしているのだ。

 一安心したからこそ、怒りがぶり返していると言うべきだろうか?

 今朝がたのように、破壊衝動に任せて暴れるという風ではないけれど、逆に相手が定まっている分酷いことになりそうだった。

 実のところ僕としても、襲ってきたあの4人は放置できないと考えている。 


「僕と同じような被害者がこれだけいて、その手口が僕達の世界のアイテムを使ってだからね。下手をしたら、僕達が今後この世界で動きにくくなることだってあり得るよ」

「<殺戮劇場>とか、現実に使われたら笑えないわよね~……あれ、隠蔽性能が凄く高いのよねぇ」


 そう、真昼の人込みの中ですら一瞬で危険地帯に変わるあのアイテムは大問題だ。

 あのアイテム、<殺戮劇場>は、アナザーアースでPKが使用していた際には、あくまで共通マップで使用して、PvP用の空間を通常空間とは別個に用意するものだった。

 不意打ち気味に発動でき、強制的にPvPへ移行する為厄介であるのは確かだったけれど、都市部やマップ中の安全エリアでは発動できなかったりと制約もあったのだ。

 それが、現実のようになった世界では話が別になっているとしか思えない。

 少なくともアナザーアースの頃には、都市部の市場では使用できなかったのに、僕が被害にあったのは日中の人込み溢れる市場だ。

 発動の誓約は無くなっていると見た方がいいだろう。

 そして、僕が思い出す限りでは、襲撃者達は通常の空間とは別個に生成されるPvP用空間を駆使して身を隠しながら移動もしているようだった。

 僕達が構築している皇都の情報網にも引っかからなかったのはこのせいだろう。

 余りに厄介な相手だと思う。


 実際、僕が見た襲撃者のうち、槍使い以外の3人は直接戦う分には問題無い相手であったと思う。

 立ち振る舞いや言動、そして容姿からして、元々のこの世界の住人なのは間違いないと思う。

 あの時槍使いが居なかったら、そして慎重に追加のモンスターを呼ぼうとして居なければ、僕はあの3人を十分倒せたと思う。

 だけど、あの槍使いだけは別だ。

 魔術師だけに軽装備なのは確かとは言え、あの時僕が着ていた装備は、関屋さんの所で用意してもらった実戦用のモノだ。

 中級クラスの魔獣の皮を裏地に使用した<魔術師の守護服>は、並みの刺突なら貫くのも難しい筈だ。

 実際、盗賊風の男の投げた毒塗りのダーツは、僅かにのぞいた肌の部分にしか刺さっていなかった。

 だと言うのに、槍使いの一撃は、不意を突かれたとはいえ僕の身体を貫通し、致命傷を与えていたのだ。

 多分武器も、本人の腕も、この世界の人物とは思えない領域にあると思う。

 死亡した際の幽霊の状態では相手のデータを見ることはできなかったので、正確な力がどれほどか、位階がどれほどに至っているかはわからないけれど……

 <殺戮劇場>というAEのアイテムを既に持っている以上、それ以外の強力な装備は持っていると考えるべきだし、<成長促進薬>を飲んで超人の域に達している場合すらあり得るだろう。


(……更に考えるなら、あの槍使いは『プレイヤー』なのかもしれない)


 思い考えるうち、僕はその可能性にも思い至る。

 戦法と言い、実力と言い、手口はアナザーアースのPKじみていた。

 あのゴロツキめいた3人はともかく、兄貴と呼ばれていた槍使いが元PKのプレイヤーなら、僕を殺す事なんて造作もない事だろう。

 だけど、仮にそうだとしても疑問はある。


 僕は地下室の片隅に並べられた遺体を見る。

 誰も彼も、僕と同じように襲撃者達に殺されたのだろう。

 身ぐるみはがされ、僅かな服だけにされ、地下に埋められ隠蔽された同類たち。

 もし槍使いが僕と同じ『プレイヤー』だとして、ここまで多くの人を殺せるモノだろうか?


 僕自身、この世界に来た当初に山賊を殺している。

 あの時は関屋さんの商店街での虐殺を目の当たりにして、怒りが降り切った末で、今ではなぜああも簡単に人殺しに踏み切れたのか疑問に思うほどだ。

 改めてあの時の出来事を思い出すと、憤怒の大魔王に衝動を誘導されていたように思う。

 あの燃え滾るような感覚が無ければ、仮に今誰かを殺そうとしても躊躇いの方が強いのだ。

 そういえば、ライリーさんも自分の作り出した爆榴鎧兵が人を殺したことに耐え兼ねていたと言っていた。

 それほどにプレイヤーが現実で生殺に関わる際の精神的負荷は強いのだ。

 勿論、ゲームのアバターに身が置き換わるというような異常事態で、精神が平静を保てなくなった可能性はある。

 だけど、あんなにも多くの殺人を行えるのは、元PKだとしても難しいのではないかと思う。

 だとするなら、あの槍使いはやはり何らかの形で<成長促進薬>を飲んで限界を超えたこの世界の存在なのかもしれない。


 そういえば、改めて僕以外の遺体を確認すると、男女や体格差などはあるにしても、共通しているのはある程度鍛えられている様子と衣服から、彼らも傭兵なのだと予想できた。

 他には、僕のように首を斬られた者は居ないようだけれど、代わりに何体かは二の腕から下を失っているようだった。


(そういえば、判り易い墨がどうとか……何のために判り易さを求めたんだろう?)


 僕は他に特徴的な部分が見当たらず、だから首をはねる様にあの槍使いは言って居た気がする。

 そして、僕の首はグラメシェル商会に送り付けられた。


 なんのために?


 僕以外の被害者に、プレイヤーは居ないようだ。

 だとするなら、あの襲撃者達に殺された者の共通点は、傭兵であるという一点。

 もしその条件に、もう一つ『グラメシェル商会に雇われた』が付いて居たのだとしたら?

 これらはもしかして一つのラインで繋がっているのでは?


 護衛の依頼を受けた傭兵の首を送り付けると言うのは、明らかな脅しだ。

 今思えば、あのレオナルドの喜びようは、明らかに違和感があった。

 そもそも、グラメシェル商会は今皇都で最も勢いのある商会のはずだ。

 傭兵を雇うにしても引く手あまたでどうとでもなるはず……なのに傭兵の確保に苦労している様子だった。

 首以外でも、誰のモノなのかわかるような体の一部分をこれまでも商会に送り付けられ続けて居たのだとしたら、護衛の依頼を受ける傭兵も当然いなくなるだろう。

 襲撃者は、それを狙って居た?

 あの槍使い達は、商会相手に何かしようとしている?

 僕が殺された理由、そして僕を襲った者達の手掛かりは、グラメシェル商会にありそうだ。


 ここまでの事を一通り仲間たちに話すと、皆も僕の推論に概ね理解を示していた。


「そうですわね……そう言われると筋が通っている考えに思えますわ」

「妾も同感ゆえ、レオナルドなる会頭を問いただすべきだとおもいますえ」

「うん、少なくとも僕の推論が正しいなら、商会に関わる傭兵に関しての情報を渡さなかったことを交渉の材料にもできると思う」


 うん、皆も同意見みたいだ。

 なら早速商会に戻って……そう思った所で、ホーリィさんから待ったがかかった。


「あら~、やっくんは商会に行ったら駄目よぉ~」

「えっ!? 何でですか?」


 不思議に思って問いかければ、ホーリィさんは重々しくため息をついた。


「あのねぇ、やっくんは今朝生首だったのよぉ? そんな子がお店に行ったら、大騒ぎになるでしょう!」

「あっ」


 言われてみれば、その通りだ。

 僕は商会のカウンターに生首を置かれて居た身。

 だというのに五体満足な状態で戻ったらどうなるか?

 化け物扱いされるならまだましで、蘇生したとなったら……異端者扱いになる。


「この世界って蘇生魔法って認知されて無いのを忘れてました……AEの復活の奇跡は辛うじて『門』の中の情報としてあっても、この世界の宗教である唯一神教会からしたら異教の禁術扱いでしたっけ?」

「そうよぉ? 七曜神信仰の光の系統も、当然闇の七大魔王への祈りも駄目。だから、やっくんはちょっと身動きとれなくなっちゃうわねぇ」


 だから、今回のやっくんは大失敗してるのよ~、と再度ホーリィさんに僕は叱られてしまう。

 いやしかし、復活も隠しつつ、今後も皇都で活動する方法を考えなといけないとか、どうしたらいいモノか?

 何か良い手段を考えないと……そうおもった矢先、僕の目の端に、ある光景が飛び込んでくる。

 それは、何ともいい表情の色欲の大魔王が、指をワキワキとさせながら僕ににじり寄ってくる姿。


「~~~~~~~~~~っ!?」


 そして……直後、地下室に僕の声にならない悲鳴が響くのだった。

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