第03話 ~皇都の宿にて~
皇都に到着し数日後の夜、皇都のとある宿。
各自それぞれに部屋を取った中、僕は一人この数日で分かったことを整理していた。
この数日皇都を歩き回り、また積み荷に紛れて潜入した諜報向きのモンスターから知らされた情報は多岐にわたる。
そのいくつかはじっくり精査する必要があり、僕は一人でゆっくり考えたかったのだ。
本来なら調べながら考えればいいのだけれど、日中はその……ラスティリス主催のデート名目でいろいろ振り回されて、落ち着いて考えるのが難しい。
到着から毎日、別のメンバーと二人っきりで皇都を廻らされていて、目まで回りそうだ。
元々、皇都行きの目的の一つに仲間たちと行く観光旅行の面もあったので、仲間を労うと思って付き合ったのだけれど、どうにも疲れるのだ。
そもそも今の外見的に、皇都でのデートは傍から見たら美女たちに振り回される子供にしか見えなかったのではないだろうか?
そもそも、僕はリアルの女性との付き合いと言うのに慣れていない。
男女関係と言うモノをあまり考えなかったし、性欲も排泄感覚で適当に自分で処理していたため、いわゆる淡泊な方に分類されたのだと思う。
ホーリィさん…堀内先輩は例外的に親しかったけれど、昔馴染みすぎたのとリアル側の体格差が逆に酷いことになっていたのもあり、そういう対象としては正直に言って見ていなかった。
更に言うなら今のこの身体は少年の年代の為か、そういう衝動もまだ無いようなのだ。
ラスティリスが言う世継ぎ云々も、そう言った行いが可能かどうかもまだ怪しい。
いやまぁ、色欲の大魔王が権能を振るったらそういう事も可能かもしれないけれど、現状他に色々気になることが多すぎて、そういう事柄に耽溺できる状況に無いのだ。
何しろ、この数日調べただけでも気になる情報はいくらでもあったのだから。
まず一つ。
皇都がかつてのアナザーアースの王都に酷似している理由、その一端はおおよそつかめたのだ。
「一夜城ならぬ一夜都とはね……」
ガイセルリッツ皇国は元々王国を名乗っていたが、近年急成長し皇国を名乗るに至った国だ。
その名乗るきっかけが、かつての王都から皇都への遷都であり、この皇都は皇王自ら一夜にして作り上げたとか。
うん、どう考えても『門』の中の案件だ。
仮に一年がかりで建造したなら、門の中で見つけた資料を基に建造したという仮説も成立するだろうけど、流石に一夜でとはいかないだろう。
例の王都再現パックを使ったなら一夜で都の建造は可能だし、逆に言うとそれ以外の手段が全く思いつかない。
だけど、仮にそうだと仮定したとき、別の疑惑も持ち上がる。
一夜で皇都を作り上げたと言われる皇王は、どうやって王都再現パックを使用したんだ?
王都再現パックは、あくまでマイルームやマイフィールド用の拡張セットだ。
つまりプレイヤーでなければ扱えないし、そもそも『外』で使用できるはずもない。
そう考えていくと、別の考えも浮かぶ。
皇王は、いったいどんな存在なのかと言う事だ。
皇王に関して、まだ僕達が得ている情報は少ない。
10年前まだ王子であった頃に王宮に現れた『門』に入り、中の技術を手にしてガイセルリッツ王国を強大な皇国へと躍進させた立役者。
『門』の中で手に入れた力で人を超えた力を持つとされる絶対者。
皇都に浸透させるモンスターの情報網は、まだまだ不完全で得られる情報も限られているから、現状ではこの程度しかわからない。
皇城にも情報網を張り巡らせたいけど、あそこは魔術的な保護により中々モンスターを送り込めないでいるのだ。
それに皇都に来て気付いたけれど、皇国は闇も深いみたいだ。
モンスターからの情報で、密偵らしき存在が無数に潜んでいるのが判ってきている。
それもかなりの腕利きだ。
透明化で姿を消しているモンスターの事を察知されたりもしたらしい。
リムやマリィ達配下の夢魔や吸血鬼達の得意とする魅了や精神魔術でその辺りは対応したそうだけれど、そちらでも効きが悪い相手がいたとか。
流石の皇都と言う事だろうか?
幸いフェルン侯のように伝説級の力まで至っているのは、限られているようだけれど。
そしてその情報網を構築している途中で、いくつか気になる情報も聞こえてきている。
「まぁ、居るよね。こっちにもプレイヤーは」
そう、この皇国中央部でもプレイヤーらしき存在が居るらしいのだ。
ただまだはっきりと何人いるとかどんな人物かと言うのは判らない。
アルベルトさんやライリーさんのような派手に姿を見せたわけではなく、それらしき存在が手放したらしい物品が市場に出回ったとしかわからなかったのだ。
「それを買い占めたのが、グラメシェル商会、か」
アナザーアース世界では冒険者ギルド本部であった建物に収まるグラメシェル商会。
彼らが早々にそれらを買い占めた為、市場に出回った物品がいかなるものであったのかはっきりとは分からなかった。
この世界に居るプレイヤーの情報が得られそうなだけに、気になる案件だ。
潜入が得意なモンスターを呼んで、どんなものを買い占めたのか、確認させた方がいいかもしれない。
こちらの地方にある『門』についても、幾つかは所在がわかっている。
皇都には『門』は今の所確認されていないらしいけれど、数日で行ける範囲に数個あるらしいのだ。
皇国の中心だけに、この付近の門は中を調べられ尽されているらしいけれど、それでも気になるモノはある。
特に一番初めに現れたとされる、かつての王宮に存在するという『門』は確認しておきたい。
僕達がこの世界に来る大本に関わっている可能性も、もしかしたらあるかもしれないからだ。
元々の王都は現皇都の湖の対岸にあるらしいので、皇都の調査が終わったらそちらに足を延ばしてみよう。
フェルン侵攻に関しての御前会議については、余り状況がつかめていない。
会議が行われる皇城には潜入向きのモンスターでも中々入れないし、参加する上位貴族はまだ皇都入りしていない者も多いのだ。
上位貴族の屋敷は警備もしっかりしていて、見つからず痕跡を残さないように調べるのは難しいのもある。
無理に調べようとして僕達のことが明らかになったら、元も子もない。
こちらは慎重に進める必要があると思う。
一応、貴族の動向として急成長し続けるフェルン候への牽制があるらしいくらいは判っている。
まぁ、この辺りは最悪どうとでもなるとは思っている。
フェルン候周囲の情報源は惜しいけれど、いざとなればゼルグスやアルベルトさんも含めて撤収してしまうことっだってできるのだから。
「後は…滅びの獣がらみか」
今のところ、皇都近辺で滅びの獣に関わるような情報は得られていない。
これは、何もないと言うよりもまだ動きが無いだけと言う気がする。
外の世界の中心になろうとしている皇都に、滅びの獣が一切関わらない筈がないと思うからだ。
ゼヌートで接触を図ってきた傲慢と名乗った存在や羨望と呼ばれた指輪の行方は今も分からない。
それらが皇都に流れ着いている可能性はあるし、全く別の獣が居るかもしれない。
少なくとも、大地喰らいやフェルン侵攻で姿を見せた異形が皇都で暴れたのなら被害は深刻となるだろうし、結果として『門』の中に関わる存在が忌避される流れになりかねない。
それを避けるためにも、僅かな予兆も見逃せ無いと僕は思う。
「…ああ、何と言うか、少し考えただけでも色々気が重くなることが多すぎるなぁ」
周りに誰も居ないから、思わず弱音が漏れる。
どうにも、元はただの1大学生には荷が重すぎる事ばかりだ。
僕はただ生きて、できれば皆と共に生きて、出来るなら元の世界で生きたいだけなのに。
それを願うためには行動の指針となる情報収集他、やらなければいけないことがひたすらに積みあがっていく。
多くのモンスターの主で、同盟のリーダーであることの重さが、時折こうして酷く圧し掛かって来るように感じてしまう。
思わず零れたため息は、重く重く床に落ちて広がっていった。
同じ頃、同じ宿の別室にて、とある会合が行われようとしていた。
参加者はリムスティア、マリアベル、九乃葉の夜光の仲魔、それも女性陣と、ホーリィ、そしてラスティリス。
夜光一行は、帝都でも相応の格の宿に部屋を人数分取っている。
会合はラスティリスの部屋で行われており、女性陣で会合に参加していないのは人化した竜王ヴァレアスのみであった。
ヴァレアスは声を潜めて車座になった他の女性陣を胡乱なものを見る目つきでひとしきり眺めた後興味を失い、宿までの道中で手に入れた屋台料理を楽しむことに専念している。
会合を主導するのは色欲の大魔王ラスティリスだ。
男女別に部屋に入るまでは気楽な調子で振る舞っていたのだが、部屋に入るなり上記メンバーを集めたのである。
「夜光ちゃんの認識が、ちょ~っと問題なのよねん」
そう切り出した。
色欲の大魔王であるラスティリスは、権能として精神に関わる魔術を自在に操るほか、相手の深層心理さえ見通す能力を持っていた。
これは、アナザーアースがMMOとしてあった際に彼女との対決前にされる質問が、その権能によると言うフレーバーテキストから来ているものだ。
相手の理想の存在を問い、その姿を再現するという力が、読心という表現をされていたがために起きた現象と言える。
尚、この権能、男女間の感情や思考等にしか効かない面もあり、これもフレーバーテキストの影響であった。
そしてその力を持ってこの数日、夜光達の帝都に関しての情報収集と言う名目のデートにて、ラスティリスは夜光のメンタルをずっとチェックしていたのだ。
「結論から言うわよん。夜光ちゃんにとって、貴女達は女として見てもらえてないわん」
「「「えっ!?」」」
そしてリムスティア、マリアベル、九乃葉に突き付けたのだった。
年末年始のアレコレと帰省で間が空きましたが、再開です。
デートシーンが難しくて結局避けてしまった…




