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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第3章 ~皇都アウガスティア~

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プロローグ 中 ~皇都行きに向けて~

「ゼヌートに、帝都から使者が来たみたいです。例の御前会議が開催されるそうですよ」


 ユニオンルームに揃った同盟メンバーに、僕はそう切り出した。

 あのナスルロン連合軍のフェルン地方侵攻からおよそ三か月。

 中央の執り成しによる停戦と言う体を取った決着から、ずいぶん時間が経ったことになる。


「ってことは、皇王の親征は終わったって事か?」

「ええ、東方諸国で皇国に抵抗していた主要4国を、たった二ヶ月で全て征服したそうです」

「早いなぁオイ。国力に差があり過ぎだろ」


 あの戦いで同盟に加わったアルベルトさんやライリーさんも今ではすっかり馴染んでいる。

 そういえば、ライリーさんは実はいろいろと複雑な状況にあった。


 フェルン地方に侵攻したナスルロン地方の諸侯連合軍の主力は、ライリーさんの作り出した爆榴鎧兵だった。

 実際フェルン側の砦をいくつも爆榴鎧兵が落としていたわけで、先の紛争のフェルン側の被害はほぼライリーさんが生み出した戦力によるものだと言える。

 つまり、責任問題の中心にあるわけだ。

 一応、爆榴鎧兵に攻撃の指示をしたのはホッゴネル伯爵だったので、『殺人に使われたナイフを打った鍛冶屋を訴える』ような事態にはならないはず。

 しかし皇国の司法がそこを加味するかは何とも言えないところだ。

 フェルン側としては、異形と化したホッゴネル伯爵を止めた功労者がライリーさんであることは把握している。

 その上で食客であるアルベルトさんが監視兼保護をしていることで抑止されていると判断しているようだ。

 とはいえ、それらは御前会議の方針によって幾らでも変わってしまうだろう。



「ナスルロンの侵攻の裁定が御前会議とやらで決まるとなると、オレっちは行かないといかんのだろうなぁ」

「ええ、それは仕方ないかと。同時に、アルベルトさんやゼルグスも行くことになるでしょうね」

「御前会議って、〇HKで中継されてた国会みたいなやつなんだよな? うへぇ、気が重いぜ」


 ゼルと入れ替わったドッペルゲンガーと、アルベルトさんも戦争当事者として、そしてフェルン侯爵の側近として皇都に出向く必要がある。

 とはいえ、アルベルトさんはまだ気楽な立ち位置だろう。


「アルベルトさんは食客扱いですし、発言を求められることはほとんどないと思いますよ? ライリーさんの暴発を抑える役目としての同席位かと」

「オレッチはメルティにどうこうされない限り暴発なんぞせんが、貴族連中はそんなこと知らんだろうしなぁ」

「おそらく、僕たちをどう扱っていいのか分からないという面もあるのでしょうね」


 『門』の中の異邦者の扱いについては、この数か月調べた範囲でもはっきりとしていない。

 近年までに見つかった門の中には、『プレイヤー』がそもそも見つかっていなかったのだ。

 これまで門の中にいたのは、どうもマイルームに配置されたNPCやモンスターばかりだというのが、フェルン侯の内情を通じて得られた情報だ。

 つまり『プレイヤー』の出現は、僕達が現れた時期から始まったモノであり、更にかなり希少な事例だと分かって来たのだ。

 門自体の発生は皇国のほかの地方でも、そして他国でも見られているのに、プレイヤーの発見事例は極端に少ない。

 それはそもそもプレイヤーが来ていないのか、それとも門を早々に閉ざしているのか、それすらも分からないのだ。

 これについては、今後も情報を集める必要があるだろうと思う。


 明確に分かっているのは、この場に居る同盟メンバーと、そしてもう一人、この三か月で新たに加わったメンバーだ。


「それはまた大変ねぇ。アタシはついて行っても役に立てないし留守番してるけど、行く子たちは気を付けるんだよ?」

「任せてくれよ、オタマさん!」

「アルちゃんはそそっかしいから、心配なんだけどねえ」

「そんなことは、ない……と、思う」


 丘人種(ハーフリング)の幼い見た眼とは裏腹の、世話焼きな女将さんのような言動の彼女は、オタマ・ナタマさん。

 以前から話に上がっていた、フェルン領の農村部に出現した『門』の中、広大な農村系マイフィールドの主である農夫系の生産称号をメインのプレイヤーだ。

 前回の戦争以後、機会を見計らって接触したところ、快く同盟に加わってもらう事が出来た。

 本人が言うとおり、アバターとしての戦闘能力は低いのだが、広大なマイフィールドを農村特化にしているだけに生産能力は高かった。

 農作物は僕やホーリィさんの所のマイフィールドでも安定して収穫できるが、リアルでも農業をたしなんでいたというオタマさんの所の作物は品質が高いのだ。

 現状では関屋さんと同じく後方支援をお願いしている。



「会議自体には参加できませんが、僕らも皇都に別ルートで向かいますよ。サポートは必要でしょうし」

「今一番栄えてる都って、見てみたかったのよね~」


 皇都へ物資を移送する商人の護衛という名目で、僕のパーティーのメンバーとホーリィさんも皇都入りする。

 同行する商人は、僕らの同盟メンバーのマイフィールド内のNPC達だ。

 先のマイフィールドの確認時に気付いた事例は予想通りだった。

 つまり召喚魔法を介さずに、『門』を自らくぐったNPCやモンスターには召喚コストも維持コストも必要ないのだ。

 これにより僕らの同盟は、かなり手札が増えたことになった。

 NPCは素性を探られにくい行商人として、人化などができるモンスターはその護衛として、各地の情報を集めてもらっている。

 商業都市のガーゼルである程度地盤を築けていたのも、行商人の立ち位置を確保するのに有効だった。


「留守は任せろ。代わりにうちの商人の面倒はしっかり見てくれよ?」

「ええ、それはもちろん」

「……あ~、俺の相棒の事も、宜しく頼むな?」

「ええ、それももちろん」


 少々心配顔のアルベルトさんの隣には、赤と金の中間のような色合いの髪をなびかせる美少女がいた。


「なんだ我が友。我がこれらの面倒を見てやるのだぞ?」

「戦力としてはともかく、人間サイズだと色々まだ慣れてないだろ?」

「うむぅ、それはそうだが」

「……元を知ってるとギャップに眩暈がするな。まぁうちが提供した人化の護符の効果が確かってことでもあるんだが」


 そうこの美少女は、アルベルトさんの相棒の竜王ヴァレアスだ。

 関屋さん提供の人化の護符で、このような美少女の姿になっている。

 今回の皇都行きではフェルン側の判断として、彼女の元の姿では威圧感があり過ぎると、同行出来なくなったのだ。

 とはいえ竜王ヴァレアスも相方が心配であり、人化の護符で偽装してついてくることになったのだ。

 アリバイとして、アルベルトさんのマイルームに元の姿で眠る幻を配置してある。

 リムの配下の夢魔も詰めさせているので、余程の事がない限り偽装がバレる事はないだろう。

 ヴァレアスさんは、NPCの商人たちの娘という名目にしてある。

 

「まぁ、道中ヴァレアスさんの手を煩わせる事も無いでしょう。皇都まではエッツァーを溯る船旅ですし、川沿いの治安は良いと聞きますから」

「どうだかなぁ……中央の貴族はフェルンへのやっかみが強いとも聞くぜ?」

「河賊じみたやり方で商人を襲うってこと~?」

「あり得ない話じゃないってこった」


 一応、それらしき噂は聞かないでもない。

 フェルン侯は貴族内でも急速に領の力を増している。

 それを嫌って足を引っ張ろうとする勢力があっても不思議じゃない。


「面倒だ。そのような者たち我が全て打ち滅ぼしてもよいのだぞ?」


 ヴァレアスさんが無茶を言うが、僕は同盟のリーダーとして首を振る。


「可能かで言えば出来るでしょうし、召喚なしでモンスターを外に出せる以上、外の世界の殆どを武力で征服するのだって、多分簡単です。でも駄目です」

「何故だ? 征服したなら、お前達もわが友も好きにできるだろう?」

「いや、難しいですよ。仮に征服して支配は出来ても、統治が出来ませんし…」


 正直なところ、ヴァレアスさんの案を考えなかったわけじゃない。

 召喚コスト無しに門を通ってマイフィールド内のモンスターが外に出られるということは、強大な力を持つ七大魔王や七曜の神々さえ外に出て力を振るえるということだ。

 そうなれば、世界全てを手にすることさえ出来るだろう。

 支配にしても、マイフィールド内の町を任せているようなNPCの力を借りれば、ある程度可能だとも思う。

 だけどそれは、長期的に見れば負荷が高すぎるし、むしろ僕らを縛る鎖になると思う。


「僕たちが今自由に動けているのは、存在を極力隠しているからです。力を示してしまったアルベルトさんやライリーさんそれにゼルは、領主などとどうしても関わらなくてはいけなくなった。それは上に置くのも下に置くのも大して変わらないんですよ」


 一度力を示してしまうと、縁は結ばれて、権力の重力に縛られる。

 それは自由に立ち回るためには邪魔になると思う。


「どうして僕達がここにいるのか? 情報収集にしても結局そこに至ります。その上で、僕たちが生きていく道を決めていくんです。もし情報を集めた末に外の世界の支配が必要になったのなら、それから手掛ければ良いと思いますし」


 僕の物言いに、同盟の皆は苦笑交じりだ。 


「やれやれ、うちの同盟のリーダーは自信家だねぇ。世界征服を簡単に言いやがった」

「表向きは慎重っぽいのに、根っこはコレだからな。付き合っていくのも大変だ」

「俺は良いと思うぜ!」

「やっくんは、それでいいと思うよぉ?」


 その中でただ一人、オタマさんは僕を微笑みながら見つめていた。

 うん、まだ彼女と顔を合わせた時に判った事は、まだ皆に言うつもりはない。

 僕自身、飲み込め切れていないから。

 だから、オタマさんも皆には明かさないでいてくれる。

 本当にありがたい。


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 もっとハッキリと明言できるようになるまで、言えるはずもなかった。

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