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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第3章 ~皇都アウガスティア~

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プロローグ 前 ~花咲く・欲望渦巻く・闇深き、皇都~

3章 皇都編開始します。

 ガイゼルリッツ皇国の首都、皇都アウガスティア。

 大陸中央から北部にかけて広がる広大な平原の中央部に位置するそこは、皇国のまさに中心部だ。

 南に広がるセムレス湖から流れ出る北と西への河川は、片方は北方平原の水源ナライム運河に、片方は西方フェルン地方の大河エッツァーとなる。

 北方平原と西方フェルン、そして東方諸国と南方内海諸国の交通の要所でもあるこの大陸中央地方は、古くから交通の要所として栄えてきた。

 特に近年、『門』発生からの隆盛は特筆に値する。

 フェルン地方こそ広大な食糧庫としてあるが、その他の地方は山岳などが多く版図の広さに比してガイゼルリッツ王国の国力はさほどではなかった。

 しかし門の中の秘宝や秘術をいち早く取り入れることで、飛躍的に伸張し始めたのだ。

 そもそも、今では北方平原のの水源であるナライム運河であるが、ほんの数年前には存在すらしていなかった。

 長大なナライム運河を生み出したのが門の中の秘術であり、それがほんの10日程度で作り上げられたという事実。

 特に中央部と北方山脈を隔てていたフーラント山脈の一部を文字通り『切りとった』経路は、一夜にして為されたのだ。

 これにより広大なれど水源に乏しかった北方平原が、肥沃な農地に変わったのは余りにも大きい変化であった。

 軍事面においてもそれは顕著だ。

 門の中の技術の有無は、根本的な兵の装備や戦術戦略そして兵站において決定的な差となって表れたのだ。

 門発生から10年程度の間に、東方の都市国家4つと南方内海沿いの都市国家3つ、更には近東大陸への足掛かりである陸峡地域の交易都市を支配下に置いたのである。

 恐るべき拡張速度であり、それは今も続いている。

 頑迷に抵抗を続けていた東方4国同盟が、皇王自ら率いた東方親征にて制圧されたのだ。

 その期間実に2か月。

 恐るべき速さであるとともに、皇国と皇王の名声威光は大陸全土に響き渡ったのである。




 ワァァァァァァァ! ワァァァァァァァ!


 華の皇都は歓喜に満ちていた。

 多くの民が、中央路の両脇に詰め寄せ、歓声を上げる。

 中央路を行くのは、凱旋する親征軍。

 長らく抵抗を続けていた東方4国同盟を討ち果たし、大陸北西部の統一を成し遂げた彼らを、都民は羨望の瞳で見つめる。

 一兵卒まで輝く鎧を身に付け、一糸乱れぬ行軍は皇国の民にとっての誇りだ。

 見よ、先発の兵に続くのは、鋼の馬車ではないか。

 いかなる荒れ地さえ踏破しうるであろう魔像馬が曳く車には、いかなる城門だろうと打ち破るであろう破城槌らしき兵器が据えられている。


 その上空を通り過ぎたのは、飛行騎獣の編隊だ。

 様々な種類の空飛ぶ騎士たちが、栄光を誇示するように皇都上空を飛び交い続ける。

 そしていよいよ、親征軍の本体が中央路を進み始めた。

 皇国正騎士団、魔法兵団、治癒兵団。

 それぞれが見た事もないような、そして素人目にも強大な力を秘めた鎧や装備に身を包んだ、皇国の誇る剣たち。

 彼らが跨る騎馬や騎獣も、伝説に語られるような幻獣だ。

 行軍の合間には、今回の親征で得られた戦利品を乗せた馬車が行くが、金銀財宝などより力を放つ騎士たちの装備品の方が価値があるように見えてしまうのは聊か難点であろうか?

 都民がうっすらそう思うほどに、騎士たちの装備は素晴らしかった。


 だがそれもすべて前座であった。

 近衛騎士団、親衛騎士団を周囲に置く、皇王その人がやって来たのだ。

 その姿を目にした都民は、一瞬言葉を失う。

 皇王その人が座するのは、豪華絢爛たる玉座を思わせる車。

 曳くのが竜であるならば、アレは竜車とでも呼ぶべきだろうか?

 だがそれも、皇王その人に比べればすべてが見劣りする。

 内から輝くような威光、一目したら決して忘れられぬ美貌、そして溢れんばかりの武威。

 配下の騎士の誰でもなく、騎士団を預かる将軍たちでもなく、皇国最強とは皇王を指す。

 竜車の後に続くモノがそれを証明している。

 東方4国同盟の切り札であった、かの地の門の中で見つかったであろう幻獣や魔像、そして戦士たちが、鎖に繋がれ引き回されているのだ。

 それは、これら強大なる者たちを、皇王自ら打ち破り従えた証。

 都民の歓声は再び、爆発的に広がった。


 皇国万歳! 皇王万歳! 大いなるガイゼルリッツに栄えあれ!


 大いなる繁栄。この数百年久しくなかった、大陸北西部の統一。

 皇国の栄光の形がここにあった。

 ……ただ一つ。

 栄光の中心である皇王その人の瞳。

 大陸北西部の覇者となった者の眼は、周囲の栄光とは裏腹な色を湛えていた。




 華やかな戦勝パレードの行く中央路から外れた商家区画。

 ここでは、既に別の戦いが始まっていた。

 戦争とは際限ない浪費であり、莫大な金が動くもの。

 それは騎士たちと同様に商人たちにとっても争いを引き起こす。

 それは戦場の勝敗で一旦のキリがつく騎士たちの戦いに比べ、終わりの見えない戦場と言えた。

 戦前の準備以前から状況を先読みし、物資の調達から荷運び人の手配に始まり、戦時中はどうしたって不足する物資の調達先をやりくりし、戦後は戦利品の買取や祝賀用の物資の確保。

 更には次に予想される戦争を見据えての布石など、為すべきことは多い。

 特に今の皇国ほどの巨大化した国家では、一人の商人ですべて賄うなど不可能。

 そこに商機を見出し、皇都に集まる商人商家は溢れんばかりだ。

 特に今は『門』の中の秘宝秘術こそ目玉。

 皇国は名目上全ての門の管理を国が一括して管理すると法で定めたが、いつどこで発生するかもわからない門をすべて把握するのは不可能だ。

 必然皇国の知らぬ『門』も生まれ、その中の秘宝秘術が世に零れる。

 そこをうまく手にし、皇国に献上したならば、商家として一気にのし上がることも可能なのだ。

 特に昨今急激に勢力を伸ばしているのが、グラメシェル商会だ。

 市場に流れていた強大な門の中の武具を買いあさり、皇国に献上したことから政商としての地位を確保したグラメシェル商会は、今も継続的に皇国へ門の中の物品を献上し続け、多大な褒章を得続けている。

 その献上量は膨大で、グラメシェル商会そのものが『門』そのものを抱えているのではないかと疑われるほど。

 しかし疑った商会が調べんとするも、グラメシェル商会が献上した物品は確かにかつて市場に流れていたものばかりと判明し、それらの疑惑は否定されることとなったのだった。

 そして一つの成功例は、さらなる欲望を煽る。

 かくして皇都は溢れんばかりの富そのもので斬りあう戦場ともなったのである。




 栄光を謳歌する皇国の象徴である皇城。

 ここは、華やかなる皇都の光の中心であり、諸侯や法衣貴族の舞台であった。

 煌びやかな衣装をまとう貴族たちの政治の場。

 年に数度行われる諸侯会議の場であり、御前会議の場でもある。

 戦勝パレードに沸く都民の歓声が遠く聞こえる中、そこに住まうモノたちは声を潜めていた。


「無事陛下は戦を終えられた。大陸北西の統一に、フェルンは関われなかった。予定通りだ」

「これで、やつの勢いも抑えられるだろう。クラネル侯爵の軍も軍功多大なると聞いている」

「だが陛下のお力無しではポルニア王国を落とせなんだ。配下の兵のみで2国落としたフェルンと比するにはいささか足らぬのではないか?」

「親征に参加させなかった事でやつの発言力は減ずるだろう。ナスルロンの連中に働きかけた甲斐はあったな」


 貴族間の闇は深い。いずれかが頭角を現せば、追従するものや対抗するものが必然的に現れる。

 これもまたその形の一つ。

 ナスルロン諸侯のフェルン地方侵攻は、確かにホッゴネル伯爵の主導の元行われたが、連合軍の体を取る以上、一伯爵のみで軍は動かせない。

 ある程度の諸侯の協力が無ければ成立しないのだ。


「御前会議ではそこを更に突く。都合よく面白い話も手に入れている。上手く行けばしばらく奴を領地に閉じ込めておけるだろう」

「来たる近東侵攻の武勲に権益は我らの閥主導に出来ると?」

「まだわからぬがな。追い詰め過ぎても不味い。北部からの糧秣が見込めるようになったとて、軍を動かすならばフェルンから仕入れねばならぬからな」

「まったく、軍功など立てずに糧秣だけ支給して居ればよいものをのう」

「いやいや、フェルンの軍は精強であるからな? 皇国の切り札として普段は重石となってもらうべきであろうさ」

「はっはっは! いやまさにその通りですなあ」


 声潜め巡らす策謀は、泥沼めいた粘ばりつくようで。

 同時に、似たような策謀が、声潜める者たちにも向けられてもいる。



 蟲毒の如き利権と欲と嫉妬と功名心がうねる場。

 それこそが皇城であった。



 そして更に深く。

 どことも知れぬ深き闇の中では、別のモノが潜んでいた。

 他に誰も居ない中、それでも誰かに謡うかのように。


「ああ、いつ来てもここは良いですねぇ。欲が、渇望が、情動が溢れている。だからこそ、ここにいるでしょう。ワタクシたちのお仲間が」


 暗き闇の中、そのモノは機嫌よく踊り、謡う。

 だれも目にする者が居ない中、だからこそと言わんばかりに。


「ああ、います、いますよ。貪欲(アバース)が。久しいですねぇ。とはいえ、この溢れんばかりの欲のうねりの中、アレを見つけ出すのは聊か手間と言うモノ。ワタクシめが赴いても、アレは大人しくこの手に収まってくれるかと言えば難しいでしょうし、さて……」


 迷うような素振りも、どこか演劇じみて。


「となれば、機を窺うが正解と。ああ、偉大なる万魔殿の主殿。アナタは必ずここへとやってくる。その時こそ、貪欲(アバース)は動くでしょう! やはりアナタこそワタクシめにとっても救いの主! では今しばらくアナタをお待ちしましょう。心より、お待ちしております……」


 闇の中の声は消える。

 まるで、何もなかったかのように。


 かくして、物語の舞台は大陸北西部の中心、皇都へと。

 栄光を謳歌する皇国の象徴である皇城。

 ここは、華やかなる皇都の光の中心であり、同時に最も闇深き魔境であった。

 この魔境こそ、フェルン侯が向かう場所。

 そして夜光達もこの深き闇に足を踏み入れる事となる。

 

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