章間 第3話 ~夜光のマイフィールド紹介 南西部~西部~
~南西部 フォーティザン川~
山間の清流を、僕らを乗せた川船が下っていく。
船頭はこの付近を棲み処にしている河童族の長だ。
勝手知ったるとばかりに、巧みな操船技術を披露してくれていた。
「南部やや西寄りから始まるこの川の流域は、今は山の合間を流れていますが、もうしばらくすると湿地帯などが広がっています」
「川下りとは乙だねぇ」
川の両岸は緑に覆われた山々だ。
時折聞こえてくる山鳥の声以外は、さらさらとした川のせせらぎがBGMになっている。
川面で何かが跳ねた。
多分、鮎だろう。
「良い清流だな。モデルは四万十川か?」
「ええ、リアルの四万十川は大きく方向を変えて南の土佐湾に流れ込みますけど、こっちは西の海に向かう流れですね」
ただし、モデルはモデル。リアルとは大きな違いも当然ある。
「なぁ、向こうにワニとかカバが居るんだけど」
「さっきピラニアっぽいのも居たよ~」
「おい、あっちで泳いでるの、アナコンダじゃないか?」
割と雑に配置したせいで生態系はかなりカオスになっている自覚はある。
「淡水系のモンスターはこの流域に集中して配置してますから…あと、リザードマンの集落もこの付近ですね」
「清流釣りしたら何がかかるかわからんな」
「ヒュドラくらいはかかっても不思議じゃないなぁオイ」
「私釣ったことあるよぉ?」
「マジかよ」
一応、モンスター除けの結界魔法などを駆使したら、ごく普通の鮎釣りやフライフィッシングとかもできるはず。
リザードマンの氏族もそこそこいて、その食料をまかなえるだけの生き物が居るのは事実だから、大漁も狙えるはずではある。
そうそう、河童族もこの辺りの魚が主食だったかな。
「周辺の森には樹木系のモンスターも多いですね。以前<大地喰らい>の被害処理を任せた樹精も、この付近から連れて行きました」
そう、南西部はこの川流域が湖畔地帯や湿地帯になっているけれど、それ以外は森林におおわれているエリアでもある。
当然森にすむモンスターも多く、以前<大地喰らい>の森の被害の修復を任せた<樹木乙女>のディーナスも、元はこの付近に配置していたのだった。
今も彼女の姉妹たちはこの森に棲んでいる。
時折連絡を取り合っているらしく、稀に関屋さんの商店街への門があった付近は森が濃くなっているらしいとか何とか。
「あの連中はすっかり外の森に馴染んじまったなぁ」
関屋さんはそのことを思い出したのか、軽く遠い目だ。
そうそう、森と言えばあそこに寄らなければならないだろう。
「あと南西部の大半は森林で、中心にはエルフの森の町がありますよ。一番近い岸から道が伸びてますから、寄っていきましょう」
僕は船頭の河童族の長に頼んだ。
~エルフの森~
深い森を抜けると、そこは大樹生い茂る秘境だった。
蔦を利用した空中回廊が、木々の枝の合間を橋渡ししている。
ゴンドラにも似た昇降機を使って、僕達はエルフの里に足を踏み入れていた。
「ここがエルフの森、その里ですね。ここにはエルフ系列のNPCの殆どを配置しています。ダークエルフ系は森の地下の方になりますけどね」
通常のエルフは地上近くに、上位エルフほど枝の上層に、ダークエルフは半地下の階層を好む。
これは階級と言うよりも、種族の好みが形になっているみたいだ。
皆、エルフの里を物珍しそうに眺めている。
「美女が……美女が多い」
「お耽美な感じの美形も多いわよね~」
エルフのお約束として、美男美女が多い。
体系もレトロなすらっとしたタイプから、肉付きのよいタイプなど様々だ。
うん、実際ここは良い目の保養になる。
「エルフならそんなもんだろ。俺としては木工系の武器や革製品の質の高さに目が行くな」
「生態部品絡みはこういう場所で獲れる素材が生きるからなぁ…おっ、いい素材が並んでるじゃないか」
とはいえ、職人の関屋さんやライリーさんは店頭に並んだ交易品や装備に素材に目が行くようだ。
僕のマイフィールドで森の素材を求めるなら、やはりここになるのでお二人にはぜひ活用してもらおう。
「森の幸はここに来たら大体手に入りますね。あと、このエルフの森の世界樹のウロから精霊界に行けますよ。妖精や精霊はそちらに配置しています」
そう、エルフといえば精霊といった連想がされやすいのを踏まえて、この里の中央の大樹、世界樹のウロから精霊界への通路が開けてある。
あの精霊界への門は高難度のレイド報酬で、設置するのにかなり苦労したんだよなぁ……
「精霊界まで再現してやがるのか……」
「必要でしたから」
妖精系や精霊系のモンスターは、ただフィールドに配置するにはコストが高すぎるのだ。
なので、全ティムモンスターコンプの為には精霊界への門は必須案件だった。
まぁ、リターンは大きかったので良しとする。
妖精素材はかなりのレアなのだ。
「それ系の素材は貴重だからありがたいなぁ。うん? メルティ何買ってるんだ?」
「マスターの食事に混ぜる媚薬の原料を少々」
「えっ」
ダークエルフの露天商から怪しげな胞子や粘液を買ってるメルティさん。
アレは確かかなり扱いの難しい毒性の強い素材だったはずだけど……まぁ、よその主従事情は横に置いておこう。
踏み込むと危険な気がするし、藪蛇になりそうな気がするのだ。
実際、今の光景と言動をリムやマリィやここのが聞いて居たらヤバかった気もする。
こら、そこの女神官様はこっそりニヤニヤしない!
……気を取り直そう。
まだ案内は途中なのだから。
「一通り用事を済ませたら、川に戻って川下りを再開しましょう。河口付近が西部ですね」
森をこれ以上進むのは止めて、再び川に戻る。
この川の流域は、下っていくと更に変化するのだから。
~西部 ヤハトの砂漠~
川の両岸は、森林や湿地帯を抜けると一旦草原に代わり、次第に荒れ果てた荒野へと変わっていく。
中流域以降は、完全に砂漠だ。
「西部はリアルの四国で言う宇和島から八幡浜の一帯に位置していますね。地形は大違いですけど」
「大河の流れる砂漠ねぇ。エジプトっぽいな」
「河口付近の両岸は砂漠のモンスターを配置する砂漠エリアですね。ここにも町がありますよ」
そう、この付近は砂漠のモンスター用のエリアだ。
時折砂嵐なども巻き起こる危険地帯。
自然に生成された土地ではないからこその環境変化だろう。
そろそろ川下りから陸路に変更だ。
船着き場を後にすると、目の前に巨大なミミズのようなモンスターが現れる。
この先は、このモンスターの背に乗ってこのエリアの中心の町まで移動だ。
「船からサンドワームに乗り換えだね~」
「サンドワームってデカイな…」
某砂だらけの星の映画を彷彿とさせる巨体だ。
この子も僕が苦労してティムしたモンスターの一体。
砂漠での移動ではいつも助かっている。
「日中は気温も高くなるので早く町に行きましょう。スフィンクスの中には謎かけしながら襲ってくるものも居ますし」
全員で乗っても全く問題なく、サンドワームは砂漠を行く。
時折空を飛んでいるのはスフィンクスだろう。
伝統的な習性そのままの彼らは、害は成してこないものの謎かけはして来るのでちょっと面倒だ。
「ティムされても謎かけはしてくるのかよ」
「今は町に着くのが先決ですし、相手にしていられないですね。一応サンドワームに乗っていれば謎かけされても無視できますし」
「無視されるもかわいそうね~」
そうこう言っている内に、行き先の町が見えてくる。
遠くからでも、あの町は見つけやすくて有難い。
何しろあの町には、巨大なピラミッドがあるのだ。
~イオシスの町~
イオシスの町もまた、多くのNPCでにぎわっていた。
「ピラミッドを背にして広がってるこの町がイオシスの町ですね。リアルの四国で言うと、八幡浜辺りの位置になります」
「おおう、しっかり日干し煉瓦のガチな砂漠の町やってるじゃねぇか」
街は全体的にエジプトや中東付近の特徴を混ぜた印象になるように頑張って設定してある。
関屋さん達も、期待通りにそういう印象を抱いてくれたようだった。
「この町の主要なNPCは準上級位階です。女性ファラオのネフェル・イオシス陛下が治めてくれてますね」
「イオシスちゃんは美人よぉ」
「彼女の種族はファラオですね。ダンジョン兼神殿兼王宮のピラミッドの主です。ミイラ系やアヌビスといったエジプト神話系モンスターの統括も任せています」
町の名前にもなっているネフェル・イオシス陛下はAEで砂漠の町のクエストの果てに契約できるモンスターで、王女様であり黄泉がえりを果たしたミイラという特殊な存在でもある。
蘇ったので、外見は絶世の美女ではあるものの普通の人間。ただし属性や特性はミイラの上位種族であるファラオというレアな存在だった。
僕が彼女の事を思い出していると、アルベルトさんが思い出したように聞いてくる。
「もしかして東部や南部の町にも町長みたいなのが居るのか?」
「ええ。そちらは行政系の汎用NPCですけどね」
ただし、彼らも行政官としての実力は確かなものだ。
何しろ、プレイヤーによってはマイフィールドに作った国の大臣さえ任せているとも聞く。
この後、僕は皆を連れてイオシス陛下と謁見し、歓待を受けた。
ホーリィさん以外は初見だし、全員を紹介する。
とりあえず、今日は此処で夜中まで宴になるだろうから、続きは明日だ。
今晩は此処に泊まって、明日は北西部と、北部。
僕の居城である万魔殿と、北部の都市を紹介しないとね。
~北西部へ~




