第38話 ~解放の聖鎚~
激しすぎるゼルとここのの猛攻と、大樹と魔獣の攻撃。
その全てをギガイアスが受け切り、そしてじわじわと近づいて行く様に焦ったのだろうか?
黒い靄に包まれたままの二人が、攻撃を止め大技を放とうと溜め始めた時、僕は賭けに勝った事を確信した。
「ホーリィさん! ギガイアスを任せるよ!<人像一体>!!」
「任せて、やっくん!」
此処まで僕を支えていてくれたホーリィさんが、操縦室の前側、開けたスペースに歩み出す。
その姿は先に皇都で一瞬見せてくれた、アナザーアースで大暴れしていた頃の姿だ。
僕には詳細を教えてくれないけれど、ホーリィさんはごく短い間とは言え、位階上限を超えて伝説級の頃の力を取り戻すことが出来るらしい。
どうも色欲の大魔王ラスティリスの力を借りて実現しているみたいだけれど、反動が大きいのか普段は極力使わないようにしている事だけは僕も知っていた。
今回も、リムからの報せを受けてこの地下空洞に向かう際に二人が何か話していたのは覚えている。
そしてギガイアスに一緒に乗り込んだ時には既にホーリィさんはこの全盛期モードになっていた。
色々と気になるところだけれど、全盛期の力だからこそ重病人の僕の体調を奇跡を使わずに維持できていたのだとも思う。
神官系称号の一つの頂点、<女教皇>に、癒し手系称号の一つの頂点である<大地の聖女>の二つの称号は、周囲にいるキャラクターを存在するだけで癒す力がある。
それは奇跡ではなく自然治癒やそれぞれが持つ自然な抵抗力を引き上げる方式らしくて、『白金の祝福』に侵された僕をここまで癒してくれていた。
だけど、今は攻める時だ。
ゼルとここのが溜めに入った事で出来た時間を、彼女なら、ホーリィさんなら活かしてくれる筈。
既に彼女の背には、三対の純白の翼が広がっていて、同時に踏み出したその先で無造作に外界表示の片隅に立てかけられていたソレを手に取った。
一見すると墓石や記念碑にさえ見える、棒付きの金属の塊。
普通に考えれば、こんなものを振り回すなんて発想がそもそも浮かばないソレは、ホーリィさんの愛用の武器だ。
大鉄塊。前述したとおりに、これを手持ち武器にするなんて狂気の沙汰としか思えないそれを振り回すのが、ホーリィさんのスタイルだ。
実際、ホーリィさんはこれを調理用のオタマ程度のノリで振り回すことさえ可能で、
「それじゃ、ギガイアスちゃん、受け取ってね~!」
一瞬開け放った搭乗口から、ドリンクの瓶でもあるかのように片手で窓の外へと放り投げたのだ。
50mを超える巨大なギガイアスなら大鉄塊も受け取るのも容易いもの。
実際、ギガイアスの大きさであれば、手に乗せた玩具ほどのサイズ比になってしまう。
だがこの大鉄塊は、只の巨大な金属のメイスというわけでは無かった。
僕の視線の先で、ホーリィさんに絡みつく光の糸。
それは、一見操り人形の糸のように見えて、実際は真逆。ギガイアスの挙動は、いま一切をホーリィさんが握っている。
魔像操作のおいて、一つの極みである<人像一体>で、僕はギガイアスの力をホーリィさんに託していた。
つまり、彼女の発揮するスキルは、ギガイアスが発していると同じ扱いになる。
それが何を意味するか。答えは外界表示に表示された外の光景で明らかだ。
「凄いですわね……」
「あの時と同じ光……」
僕と共にギガイアスに同乗し、今は二人で僕を支えてくれるターナとハーニャが、呆然としたように外界表示からの光を浴びる。
ギガイアスの手の中には、大鉄塊を核とした巨大な光のハンマーが握られていたのだ。
ターナはギガイアスの外界表示の片隅に表示されるその力にただただ感嘆し、ハーニャは先の皇都での<貪欲>を名乗る滅びの獣と対峙した際のホーリィさんが全盛期の力を発揮した時のことを、しっかりと覚えていたらしく呆然と呟いた。
あの時、瓦礫の巨人の猛攻を光のハンマーで蹂躙していくホーリィさんが、今度は<人像一体>によりギガイアスのサイズで、その力を振るう。
その準備が整っていた。
操縦席の中からだと判り難いけれど、いまギガイアスはホーリィさんと同じ三対の翼を背に、巨大なハンマーを振りかぶっているはずだ。
同時に、外界表示の向こうはるか先に、ゼルとここのが大技を溜め切る直前の姿が目に入った。
あれを放たれては、『聖域の構え』も解いたギガイアスでもひとたまりも無いだろう。
「ゴホッゴホッ……護衛無しの大技は、通らないのが道理だよ、二人とも」
「そだね~。護衛のモンスターも、マリィちゃん達がひきつけてくれてるモノね~」
だけど、1手遅い。
ああいう溜めのある技は、妨害されないように配下モンスター等にガードさせるなどしないと、そもそも通らないのがアナザーアースのエンドコンテンツだ。
敵も味方も、そしてもちろん僕も、ああいった大技を持ち合わせている。
だけど溜めている間は無防備で、そもそもそう簡単に使わせても貰えない。
多くの戦闘系称号が、溜めの妨害効果を持つ攻撃を持ち合わせているのだ。
神官系であるホーリィさんも、その効果のあるスキルを持ち合わせていた。
「行っくよ~! ゼルちゃん! このちゃん! ちょっと痛いかもだけど、我慢してね~!! <審判の星槌>!」」
今まさに振るわれる、<審判の星槌>も、その一つだ。
この光のハンマーには、衝撃によるよろけ、詠唱の中断、溜め攻撃の中断など複数の行動阻害効果を引き起こし、同時に闇に属する効果を問答無用で無効化する効果がある。
ギガイアスのサイズに合わせ、まるで光の山脈でも迫って来るかのような、拡大化され巨大化した光のハンマーの一振り。
その範囲は必殺の一撃を放とうとしたゼルやここののみならず、その背後で隠れていた八本足の魔獣や『白金の大樹』にまで届いていた。
更に、その神聖な輝きは、黒い靄を朝日に融ける霜のようにかき消していったのだ。
これにすぐさま反応したのは、意思を歪められ続けて居たゼル達だ。
「ぬおおおおぉぉぉぉ!? ……むっ!?、身体が!!!」
「う、動くわ! 主さまぁぁぁ!!」
今まで、僕らに攻撃はしても、黒い靄の中から出ようとしなかった二人が、弾かれたように森へ駆けていく。
そして、今この瞬間を待っていたのは、僕だけでは無かった。
「「「やっとあの二人が退いたな、我が友よ」」」『ああ、ならもう加減は必要ないさ』
はるか上空で、応龍と化したアルベルトさん。
『……あの八本足、盾にしてた二人が消えて狼狽えてやがる。ま、慌てるよなぁ……あの二人の影に隠してた急所がバレバレだぜ』
『マスター、ダブルロック完了、何時でも撃てます』
遥か遠方で、虎視眈々と『陰陽の魔獣』の弱点を探っていたライリーさん。
溜めに溜められた二つの巨砲が、
『なら、行くぜ!』「「「竜槍よ、雷撃を纏い天地貫く光となれ!」」」『「「「 <九天応元天地雷槍普化天尊>!!!」」」』
『仮想砲身、展開完了』『最終安全装置、解除だ』『了解しました。安全装置、解除完了です』
『よし……<双撃複合精霊砲>、発射!!!!』
今、放たれた。




