第16話 ~地下空洞調査に向けて~
予約投稿忘れてた……
まったく、酷い目にあった。
あの後一晩程熱と咳に苦しめられたのだ。
噂の疫病に自分がかかるとは、流石に想定外だった。
だけど、よくよく考えると僕も関屋さん達を送るために最前線近くまで赴いていたから、罹る可能性はあったのは判る。
だとすると潜伏期間は1週間ほどだろうか。
その事に気づいた僕は、看病してくれていたホーリィさんに頼んで、防疫に動いてもらっているけれど、どうなるか。
既に関屋さんやライリーさんから、『白金の祝福』の特性は聞いている。
一応人から人への空気感染はしないらしいけど、その代わりに空気中での残留は長いらしい。
そのため、特に移動に使用した転移起点の周辺は重点的に消毒──胞子に浄化の奇跡等は逆効果だが熱などには弱い──を行うように頼んでいる。
だけど、根本さえ叩いてしまえば、それも気にしなくていい筈だ。
聖地の地下に居ると思われる、『白金の祝福』の根源。
そこにたどり着くための方策、道を切り開く為のモンスターが記された魔物図鑑のページ、そこを見せようとして……、
「っ!ゴフッ!!ゴホッゴホッ!!」
「お、おい、大丈夫か?」
少しせき込んでしまった。
落ち着いたとはいえ、完治にはほど遠いから仕方ない。
仲間達が心配そうな視線を向けてくるけど、だからこそ問題の元凶をどうにかしないといけないんだ。
「まだちょっと咳は出るけど、熱は引いたよ。位階を上げていたのが良かったのかも」
「……ステータスが上がる分、抵抗力もあるって事か?」
「ええ、皇国の軍でも兵の間で特に広まって、逆に指揮官級での広がりは鈍いのはそのせいかな」
報告では、軍の大半を占める一般兵に『白金の祝福』は広まっているとあったけれど、逆に騎士などの位階を上げた人たちへの感染度合いは鈍かったらしい。
僕自身も、話に聞いているよりも、症状は軽かった。
多分位階を上げる事で耐久性や抵抗力が上昇した影響なのだろう。
そして最前線にいた関屋さんやドワーフの職人たちがこれまで罹患していないのも、それで説明がつく。
彼らは伝説級であり、今は準上級まで上昇した僕の位階のさらに二回りはステータスが高い。
そこまで抵抗力が上がると、病気の元となる胞子も寄せ付けないのかもしれない。
ただ、ホーリィさんは僕と同じ準上級だし、マイフィールド内は低位階のモンスターやNPCが多くいる。
万が一を考えると、悠長にはしていられない。
僕のマイフィールドのアクバーラ島には、幾つかの巨大な地下道がある。
地上部が険しい山地である南東地域の地下深くを通る、ドワーフの大坑道を含めた地下世界。
過酷な砂漠の環境にあって、貴重な水の供給源になる地下水路とそこに併設されて居るダンジョン。
そしてもう一つ、特に大きな地下通路が存在する。
アクバーラ島の中央を走る山脈を、南北に貫く大地下道だ。
大型モンスターさえ通り抜けられるその大きさは、天井までの高さが50m程もある。
大型化したゼルやここのでも、そしてギガイアスなど今まで僕が作り上げて来た魔像でも通れるようにした為だ。
一定間隔で魔法の明かりを灯しているここは、アクバーラ島のNPCやモンスターが各地を行き来するための大動脈でもある。
この大地下道、そして南西部の地下坑道の幾つかは、実はあるモンスターが掘り進めて作り上げた。
それは無肢竜、所謂手足を持たないとされている竜の一種。
その中でも地中を棲み処とした上位種である、地王竜と呼ばれる、伝説級の個体とその眷属達だ。
見た目はゴツゴツとした岩のような鱗に覆われた、頭だけ竜っぽい蛇と言った姿。
だけど地下を掘り進むときには、身体の直径と同じほどの大口を開けて、地下の土を、岩を、岩盤を食べながら掘り進んでいく。
その際には、竜というより、いっそ岩の身体を持つ蚯蚓と言った方が的確になる。
竜種であるため、普段は竜族の巣などで平穏に過ごしているけれど、ひとたび動き出せばその巨体でどうやっているのかと思うほど巧みに、大地に巨大な穴をあけていく。
「たしか例の聖地近くの地下通路には、一部広い空間もあるんでしたよね? そこで地王竜を呼び出して、直接道を切り開きましょう」
「……確かに、ちょっとした空間はあったが、そこまでデカい奴は無理だ。それに、そこまでデカい通路は必要ないだろう? もう少し小さい奴でいい。人が通れる程度に掘り進められるのは居ないのか?」
「準上級にあたる眷属なら、多分ちょうどいいかと……」
僕の答えに頷く関屋さん。
「なら、眷属の方にしておけ。お前さん、白金の祝福で体力落ちているのに、格上を召喚して無茶をされても困る」
「……判りました」
モンスターを召喚する際に必要となるコストの捻出は、この世界に来た当初と比べて大分楽になっている。
それは僕が準上級位階まで成長したのもあるし、コストの軽減効果のある装備やアイテムなどを関屋さんから融通して貰えているのもあった。
だから、伝説級のモンスターの呼び出しも、体力魔力スタミナ全てを振り絞れば、何とか可能な範疇になっている。
だけど、今の僕は病人だ。無理は出来ないのは自分でも良く解っている。
「そうですわマスター! それに、その程度ならゼルに使役させればいいのですわ。ですから、今は安静になさって」
「その地下の空間も、本当に元凶が居るのか分からないわ。だから、あたし達が様子を見てくるわね」
「主様は、ここでお待ちを。妾たちが万事こなしますえ」
それに、皆がそう申し出てくれた。
……考えて見ると、マリィ達もこの世界に来てからいろいろ経験を積んでいる。
今まで僕が主としてあの世界を調べて回って居たから護衛の意味でもずっと傍に置てもらっていたけれど、そろそろ単身で動いてもらうのも良いかもしれない。
「うん、じゃあ、今回は皆に任せるよ。だけど、危なくなったら呼んでほしい。直ぐに向かうから」
「ええ、わかりましたわ」
「ふふっあたしに任せてね」
「妾におまかせや」
僕の頼みに、うれしそうな皆。
実際彼女達とゼルなら、対外の相手はどうにでもなるだろう。
それに、位階も高い以上僕のように疾患する可能性も低い。
不安を感じないではないけれど、僕が最も信頼を置く仲間達なら……いや、待てよ。
「まず調査となると、戦力面は問題ないけれど、斥候とかその辺りの称号持ちが足りないかな?」
「そういえば……」
僕の仲間モンスター達は、この場に居ないゼルも含めて、基本的に戦闘系称号で占められている。
ここのの魔獣としての特性や仙術系称号など応用が利くものも多いけれど、調査となると話は別だ。
「それなら、俺っちのメルティも連れて行け。調査なら得意だ」
「それは助かりますけど、良いんですか?」
「何、メルティの妹たちも再稼働してるから、身の回りの世話はどうにかできるってな……メルティ、行けるな?」
「もちろんで御座います。かしこまりました、マスター」
綺麗な礼をするメルティさん。そして、
「なら、ウチの職人も連れて行け。その地下空間を見つけた奴だ。近くまで案内できるし、戦う腕もある」
関屋さんも人員を派遣してくれた。
こうして、問題の地下の空間を調査するメンバーが決まったのだった。




