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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第5章 ~新大陸への来訪者~

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第24話 ~大西海の嵐 天を切り裂く巨怪鳥~

「あの氷山戦艦の迎撃能力を飽和攻撃で無力化して、核を露出させる。そこへ最大戦力を叩き込む。この基本方針で行こう」


 謁見室に揃ったモンスター達を見回して、僕は風浪神と水流神の映し出す氷山戦艦を撃退する戦略を立てる。

 言葉にしてしまえば簡単だけど、あの氷山戦艦の迎撃能力は脅威だ。

 数十キロ単位の射程を活かした対空&対艦防衛能力。

 今まさに海王を押しとどめている海中の防衛力。

 風浪神の接近さえ許さなかった近接対空弾幕。

 どれも威力が高く特に主砲である三連戦艦砲の威力は、LLL級の巨大モンスターでさえ瀕死にする恐るべき威力を誇っていた。

 海王の配下の孤島亀(アスピドケロン)の硬い甲羅さえ貫いたのだ。

 更に多少のダメージは、船体が氷で出来ていることを活かし冷気で幾らでも修復してしまう。

 それを踏まえた上での、攻撃の選択が必要だった。


「そこで、妾の出番というわけじゃな? 我が王よ」

「うん、積乱雲の上まで飛べる太陽船(マンデト)なら、対空砲火も届かない高みから、一方的に相手の戦力を削れると思う」

「ならば付いて行こうかの。あの大きさの相手ならば、強化せねば足りぬやもしれぬ」

「お願いします、陽光神」


 魅惑の美貌の砂漠の女王、ネフェル・イオシス陛下が、僕の声に応えて眩い美貌を一層輝かせる。

 太陽を司るハーミファスが更に力を添えてくれるなら、かなりの効果が見込めるはずだ。

 ただ、どうしてもはるか上空から洋上の氷山戦艦まで届く攻撃となると限られる。イオシス陛下のエクストラアタックしか届かないだろうし、だとすると間断的な攻撃になってしまうだろう。

 できれば被害は極力抑えたいから、まだ迎撃能力が残って居そうなタイミングでの攻撃は避けたい。

 航空戦力として竜種を戦闘機のように襲撃させることも考えたけれど、風浪神でも撃退された弾幕を考えると、いささかごり押しに過ぎると思って止めた。

 風浪神よりもはるかに大きいドラゴンたちでは、強靭な鱗を持ち合わせていても的の大きさで相殺されそうだと感じたから。

 しかしそうなると、困る。

 光の攻撃でどれ程相手の戦力が削れるのか、判断憑かないのだ。

 迎撃能力が残っていたら、次の世界樹の矢と界滅の炎のコンビネーションも船体に至る前に撃ち落とされる可能性もある。

 世界樹の矢と界滅の炎は、どちらも世界樹の枝と巨人の燃えさしという二つの貴重なアイテムを使用するためそう何度も使える訳ではないから、確実に通したかった。

 そこで声をあげてくれたのが、ドワーフの職人頭だった。


「丁度いい。在庫処分に、ちょいと余った船がある。そいつを突っ込ませたら面白いんじゃねぇか?」

「いや、でも、それだと乗り手が危険では?」

「守り固めりゃイケるだろ。関屋の旦那から弾避けの護符と、後は離脱用の転移石が在れば、十分だ」

「おう、格安で融通するぜ。代金はツケでも良いぞ」


 何故か僕も知らない鋼鉄製の船の図面を取り出して、即興で改造案を示してくるドワーフの親方は、何とも楽しそうだ。

 関屋さんも乗り気で、二人して改造用の資材の確保まで算段を付け始め、結局そのままその作ったと言う船を移動の為に、慌ただしく謁見室を飛び出してしまった。

 ただまぁ、その船の改造案は、素人の僕ではわからないけどしっかりとしたもののようだ。

 想定される前方からの攻撃を、盾のように突き出した追加の装甲で全部抑え込むらしい。その装甲には弾避けの強化を付与した護符を張り付けて、更に防御力を高めているのだとか。

 反面攻撃能力は体当たりだけだ。

 多少の攻撃能力を持たせても、相手の巨体には意味がないので、防御力と突進能力に特化したのだとか。

 鋼鉄の船の質量と炉の暴走は、巨大な魚雷かミサイルかという有様で、確かにこれならば氷山戦艦にも通用するかもしれない。

 上空からの光の攻撃とタイミングを合わせれば、相手の迎撃能力を一気に削って、次の攻撃を通す有効的な手段になりそうだ。


「契約故従うが、ドワーフの助力などなくとも、我が弓は十分に届くのだぞ?」

「いやまぁ、そこは念のためだから……ソレよりも、前線基地の設置を頼むよ、ギリスブレシル」

「む、任せるが良い」

「我もそこから放てばよいのか?」

「うん、頼むね、スルト」


 森の主ギリスブレシルは、エルフだけにドワーフの力を借りるのに難色を示すけれど、そこは飲んでもらわないと困る。

 何しろ、世界樹の枝も巨人の燃えさしも、再生成スパンが長い貴重品なのだから。

 とはいえそこを気にされてやる気を失っても困るから、ギリスブレシルには早々に南の海の海上拠点造りを頼んでおく。

 氷山戦艦の射程からギリギリ外れる位置に置いて、そこからドワーフの鋼の船や彼らの攻撃を放つのだから、重要な役割だ。

 特に今回大きな効果を見込めるスルトの界滅の炎は、余り射程が長くない。

 世界樹の矢の特性を生かして到達距離を延ばすにしても、限界はあるだろう。それだけにスルトがしっかりと足を踏みしめそのエクストラアタックを放てる土台を、氷山戦艦の射程の境界線ラインに置くのは必須だった。

 そして、この攻撃が通れば、最終段階だ。


「ここまでやれば、恐らく相手の核と想定する大精霊石を露出させられるか、出来なくとも大半は掘り起こせているはず。そこへ、僕の最大戦力を叩き込みます」


 僕は、謁見室から居城である万魔殿の方向を見る。

 僕の仲間達であるゲーゼルグ達は、一足先に万魔殿に戻っていた。

 今この瞬間も、戦闘の準備に駆け回っているはず。

 そしてそこに僕の最大戦力が待っている。

 手塩にかけて作り上げた、鋼の巨人、ギガイアスが。

 

 

「はぁ、結婚とかマジかよ……国元のお袋にはなんていうかな」

「え~? 嫌なの? わたしじゃ不満?」

「そ、そんなことないけどさ。まだ見習い明けたばかりだから、不安って言うか……」


 パンデモニウム・サイドの町から離れた海岸で、フォルタナ号の船員であるヨハナンは、海豹乙女のニーメを伴って海を眺めていた。

 突如として告げられた結婚宣言に、気持ちの整理が追い付かず、少しでも落ち着こうと海が見たくなったのだ。

 砂浜と岩場のまじりあった海岸線は、辿っていくと岬になり、その先に立派な建物のある島があるらしい。

 ニーメが言うには、そこにあの謁見室でまみえた万魔の主なる存在が住んでいると言うのだが、ヨハナンはそれが良く解らない。

 この島の王というからには、宮殿に住むものではないのだろうか?

 少なくとも国元の近隣では王族は豪奢な城や宮殿に住むものだった。

 もっともそれらの宮殿は、ヨハナンが先だってまで居た宮殿と比べるならつつましやかな物なのだが。


「良いじゃない。そんな不安、わたしが消してあげられるよ?」

「う……ニーメ、近い……」

「こんなの近くないよ! もっと近くになったから、判るでしょ?」

「うぅ……」


 困惑の中で取り留めのない事を考えるヨハナンの手を取り、ニーメが指を絡ませる。

 この島での滞在の間、彼女はずっとこんな調子だ。

 彼の何が気に入ったのか、他の船員には目もくれずヨハナンに付きっ切りであり、夜にはあけすけなほどの誘惑をしかけてくる。

 初めは戸惑いのほうが強かったヨハナンだが、結局彼女の魅力に負け、一線を越えてしまった。

 その記憶は未だに脳裏から離れない。

 ヨハナンの若い衝動を全て受け止め、更にはそれ以上に貪り求めるニーメに、口ではどう言おうと魅入られ切っているのだ。

 今もまた柔らかな肢体をするりと絡まされると、頭が回らなくなる。

 ただ、そんな桃色の思考をもってしても、見逃せない異常が、目の前で起こり始めた。


(あれ……? なんだ、海が……)


 それははじめ、只の波の様だった。

 しかし船員として、まだ未熟ながらも海を見続けて来たヨハナンには直ぐに判った。

 海面が急にうねり出すと、次第に潮流が生じたのだ。

 まるで海流と海流がぶつかり合う潮目の様だ。

 それは次第に激しさを増し、目の前の海に巨大な渦を生んでいた。


「な、何だコレ!?」


 余りの異常に、甘やかな雰囲気は吹き飛び、ヨハナンは慌てて周囲を見渡す。

 まだここが陸上だから良いものの、もし船に乗っている状態で目の前の大渦を目の当たりにしたら、恐怖で正気を保てたかどうか。

 しかし、同行者は暢気なままだ。


「あ~、ギガイアス様だね」

「ぎ、ギガイアス様? なんだそれ!?」

「主様のお力だよ。すっごくおっきいの」


 わかる様な分からないような説明にヨハナンが困惑を深める中、それは渦の中から現れた。


(で、デカい……なんだ、巨人!?)


 渦の中心からせりあがるように、巨大な物体が姿を現す。

 あの謁見室でも巨大な化け物は多くいたが、この物体はそのどれよりも巨大だった。

 ヨハナンの知る船のマストを遥かに超える全高と重厚な厚みは、まるで城が動いているかのよう。

 それが人の姿を模している事に違和感を覚えながら、ヨハナンはその巨人が全身を顕わにするのを呆然と見守るしかなかった。



 僕の居城、万魔殿の地下にあるギガイアスの格納庫からは、幾つかの巨大な通路がある。

 はるか離れた地に直接転移するためのルートの他に、直接外に出る通路もあるのだ。

 ただ、万魔殿の地下という事は、それは海面下にある。

 付近の陸地が万魔殿までの岬で狭く、ギガイアス用の大きさの出入り口を作るのには向かなかったため、ギガイアスを直接地下から地上に出すのには、こうして海中のゲートから出入りする必要があった。

 MMMOとしてのアナザーアースの頃はその外連味で気に入っていたけれど、こうして実体化した中だと地下通路を地上まで伸ばすべきだったかなと反省したくなっていた。


「追加精霊石タンク、脱落有りませんんわ」

「各部水没の影響なしよ」

「……? 浜辺に誰か居るようやね。まぁ邪魔もせんしええやろ」

「御館様、準備できまして御座いまする」


 いつものメンバーが、ギガイアスの状況をチェックし、知らせてくれるけれど、海水を切っての出撃は初めてだっただけに、問題が無くて何よりだ。

 特に、即興で付けた追加の精霊石タンクは、直ぐに外せるような構造にしていただけに、想定外のタイミングで外れる可能性もあったから一安心。

 これなら、少なくとも片道往路は保ってくれるはずだ。


「これが、ギガイアス様の中ですのね」


 そして今回、普段とは違う同行者がいる。

 氷の女王アレンデラ。

 氷山戦艦の弱点を指摘してくれた彼女が、今回の戦いのカギだ。


 そしてもう一人、この場に揃うべき人がいる。


「御主人様、後方に転移陣発生しましたわ。ライリー様です」

「良いタイミング、さすがだなあ」


 丁度その人物を考えた矢先に、ギガイアスの後方で巨大な転移の魔法陣が空中に浮かぶ。

 そこから現れたのは、60m級のギガイアスに匹敵する真紅の巨人の姿。


『待たせたか、夜光』

「いえ、ちょど良かったですよ、ライリーさん」


 それはライリーさんが操る新たな魔像、60m級超大型日緋色金魔像(ヒヒイロカネゴーレム)、『壱式緋彗』だ。

 ギガイアスよりも手足が長くスマートな印象を抱かせるその機体は、ライリーさんの新作だった。

 何でも皇都で使用した試作型を改良したモノらしく、様々な機能を追加しているのだとか。

 今回の作戦において、その機能の試しを含めて、彼は協力を申し出てくれていた。


『じゃぁ、早速おっぱじめるか? 俺っちの準備は出来てるぜ?』

「ええ、お願いします。こっちも直ぐに変形しますから」


 新しい機能を試すのが楽しみで仕方が無いのだろう。

 今にもこらえきれ無さそうなライリーさんに了承し、僕もギガイアスを変形させる。


『よし、なら行くぜ! メルティ、飛行形態だ』

『畏まりました、マスター』

「ギガイアス、可変機構(モードチェンジ)飛行形態(スカイモード)!!」

 

 深紅の魔像の手足が後方へと伸ばされ、更に噴射口らしきものが後方一方向にまとまっていく。

 僕のギガイアスも、巨怪鳥の形態へと変化する。

 さらに変化は続く。


『よし、接続用補強腕展開だ。掴むぞ、夜光』

「大丈夫、お願いします」


 巨怪鳥の形態を模したギガイアスの後方から、手足を後方に伸ばした『壱式緋彗』が近づき、臨時で据え付けられた精霊石タンクの()()()をしっかとつかみ取る。

 かくして連結した2体の魔像は、その姿を何処かロケットめいた長大な姿に変じていた。


『メルティ、各部チェック。問題ないか?』

『問題ありません、マスター。推進軸とギガイアス様との位置合わせ完了しています』

『だ、そうだ。何時でも行けるぜ、夜光』


 ライリーさんの声は、期待を隠しきれていない。

 実際僕もそうだ。

 2体の魔像を連結した運用、片方の魔像を完全にブースター化しての多段ロケット方式なんて、試さずにはいられないじゃないか。

 ここから、連結した2体の魔像の噴進力で、一気にマイフィールドを南北に突っ切り、超高速で氷山戦艦の射程距離を突き抜け強襲するのだ。

 もっとも、わざわざ万魔殿傍からマイフィールドを突っ切るのは訳がある。

 エルフの長が作ってくれた前線基地には転移起点が置かれて居る。僕らもあちらに移動してから転移ゲートでギガイアスと緋彗を呼び出す方式を行おうとしたのだけど、魔像の連結は今回初の試みだけに、マイフィールド上空をある程度飛行して慣らしを行った上での突撃を行いたい関係上、万魔殿からのスタートとなったのだ。

 実際うまくいくかは、試してみないとわからない。

 もっとも、最悪でもギガイアスの単騎突撃になるだけで、それはそれで慣れて居るから問題ないのだ。

 そして、僕は号令をかける。


「では、行きましょう、発進!!」

『応さ!! メルティ、全噴射口点火だ、ぶっ飛ばせ!!』

『了解です、マスター。緋彗、ブースター形態起動、データ取得開始します』


 轟音が海岸に響き渡る。

 爆炎を伴いながら進み始めた連結魔像は、直ぐに恐るべきスピードに到達し、猛烈にアクバーラ島の上空を駆けた。


「くっ…キツ……」

『す、すげぇGだな!?』

『衝撃に備えてください。音の壁、突破します』

「っ!?」


 余りの速度に、僕らはギガイアス内の座席に押し付けられ呻きを上げる。

 耐G仕様なんて考えていない座席ではこらえきれる筈も無く、もしこの身体が冒険者の強靭な物で無かったら、とっくに血反吐を吐いていただろう。

 音速を突破した衝撃が追加で襲い来て、僕は悲鳴も上げられずに僅かに舌を噛む。

 ギガイアス内部に映し出される外界表示(モニター)では、地上の光景が引き飛ばされるように後方に流れている。


「第一追加精霊石タンク、消費完了したわ。ストレージに収容してください、ミロード」

「さ、さらっと、言うなぁ……」


 準上級の僕よりも伝説級の皆は更に余裕があるようだ。

 冷静に追加タンク内の精霊石の消費を見て取ったリムが、僕にタンクの収容を促す。

 空になった以上追加のタンクは余剰重量に過ぎない。更にパージしようものならマイフィールドのどこに落ちるか判ったものでない以上、僕がストレージにしまい込むのが一番穏当な手段だ。

 猛烈なGで苦しむ中、それでも何とか意識に浮かぶコンソールで、タンクを収容する。

 同じことを数度繰り返すと、ようやく外界表示(モニター)に映し出される眼下が、青い海面一色になった。

 前方の海上に、前線基地として作り上げた浮島と、そこに立つ巨大な弐つの姿。

 そこから2つの強大な魔力が放たれ、僕らはその後を追う。

 そして、遥か彼方に純白の巨艦が見えた。


『よし、直ぐに氷山戦艦とやらだ! 気合い入れろよ、夜光!!』

「は、はい!!! ギガイアス、前面障壁展開、突っ込め!!!」


 これまでの攻撃で防衛能力を失っていた氷山戦艦に、僕らの突撃を止める手段はない。


 天地を裂くような大轟音!!


 閃光のような速度と60m級魔像2体分の質量は、氷山戦艦の船体に突き刺さり、船体中央を真っ二つにへし折った。

皆様に応援いただいたおかげで、拙作「万魔の主の魔物図鑑」書籍2巻にGOがかかりました。

何時頃の刊行になるかはまだ不透明ですが、現在更新中の5章終了後に2巻の作業に取り掛かる予定です。


ご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

可能であれば、感想、評価、ブックマーク、いいね等よろしくお願い致します。


投稿情報などをこちらで呟いています。

https://twitter.com/Mrtyin

書籍1巻2月15日付で刊行しています。

挿絵(By みてみん)

アース・スターノベル様の公式ページはこちら。

https://www.es-novel.jp/bookdetail/156mamonozukan.php


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