第06話 ~神魔会議 そして大魔王は動き出す~
大魔王と聞くと、多くの場合世界を征服したり滅ぼしそうな印象を受ける。
アナザーアースにおいては、そこまで破滅的な行いをしないものの、下の上位悪魔や下位の魔王等に様々なクエストで事件を引き起こさせたり、もしくは自分自身が大規模戦闘の相手となったりと、やはりトラブルの原因になることが多かった。
だけどその実、それらのクエストを突破すると、彼らの本質的な部分が明らかになる。
それは、対になる七曜神と同じように、彼らもまた世界に欠かせない要素なのだと。
七曜神は、四元素を中心とした自然現象への畏怖からくる信仰が源となる自然神だ。
地震や津波、干ばつに水害、人の力ではどうしようもない災害に対する畏怖と、自然から得られる恵みに対する感謝。
それは余りに強大であるがゆえに、『神』と崇め奉る事でしか対処できなかったともいう。
対して、闇の神とも称される七大魔王は、精神的な面を強く持つ。
そもそも、現実で伝えられる魔王等の伝承は、元をたどると異教の神を取り込みつつ悪魔や魔王に堕とした場合が殆どだ。
それに倣い、アナザーアースの大魔王達も、元は神々であったと言う設定になって居る。
例をあげれば、高慢の大魔王ルーフェルトは、今の星辰神の兄であり、先代の星辰神であったとされるし、色欲の大魔王ラスティリスは、情愛と豊穣を司る女神であった。
それが、長い年月の果て、幾つかの契機の果てに大魔王に堕ちてしまったとされている。
実際には、世界の停滞を防ぐための適度な混沌をもたらす役目を担うために、あえて堕ちた存在なのだけど。
そんな堕ちた神々が、僕を手伝おうとしている。
それは不思議な感覚であると同時に、ある種の不安を抱かせるのには十分だった。
「おや、不安かい? そう思うのは仕方がないかもしれないが、既に魔王を傍に置いている我が契約者がらしくないものだね」
ルーフェルトは、そんな僕の心情を見越したように言ってくるけれど、それは仕方がないと思う。
何しろ、大魔王なのだ。
データとして仲間にしたのなら、機械的にしたがってくれるかもしれないけれど、今は意志を持っている彼らに警戒しないと言えば噓になる。
それに彼の言う魔王、リムスティアは僕が手ずから育て上げたのに対して、七大魔王はアナザーアースが終わる最後の時期に滑り込みで仲間にしたと言う点が異なった。
要は付き合いの長さが違うのだ。それは信用の度合いが違うのも仕方がない事だと思うのだ。
「妬ましいわね……信用の差って。でもね夜光、魔の者というのは、契約を守る者よ。私達は貴方と契約を結んで、降った。そこは絶対だと覚えておきなさい」
そんな僕をたしなめたのは、無数の呪具で身を覆った黒髪の女、嫉妬の大魔王エンレヴィアだ。
彼女は嫉妬心で暴走している時は話にならないけれど、それ以外の時は比較的七大魔王の中でも穏健な存在としてアナザーアースで語られている。
彼女はかつて、他者との比較からくる向上心と、成長を促す女神とされていた。
今の僕への忠告は、その面が現れていたのだろう。
とはいえ、今の彼女は何がスイッチになって嫉妬心を暴走させるか判らないと言う恐ろしい面もあるのだけど。
もっとも、信用という点を告げられると、既に一つ反論したい事は在る。
「でも実際、力を貸してくれたのは有難かったけど、余計な事もしてくれそうで……例を挙げるなら、直近で、何か誰かの楽しみの為にTSさせられたのだけど」
「……直ぐに戻ったからイイじゃないのん」
皇都で何故か一時期僕を少女化した色欲の大魔王、今日は定番の姿の色気過剰な姿をした美女へと視線を送ると、彼女も流石に気まずいのか視線を外してくる。
あともう一つ懸念がある。
滅びの獣達への影響だ。
かつて、<大地喰らい>討伐の後、その核である<飽食>に、暴食の大魔王グェルトゼバンが近づいた時、その核が活性化すると言う事態があった。
そのことから、『外』の世界に潜んでいる滅びの獣達は、七大魔王が近づくと活性化し、一層の脅威になると予想して、彼らの力を『外』では極力借りない方向で今までやってきた。
皇都に同行したラスティリスにしても、正直な所もし滅びの獣の中の<情欲>が付近に居たのなら、危険だったのではないだろうか?
「懸念は理解しているが、一つ伝える事があるぞぞ? 滅びの獣とやらの核が活性化するのは、その性質が近い我らが近づいた時であったのだだ。そなたが捕らえた<貪欲>とやらの核と、<飽食>とやらの核、それぞれグラムドーマと我としか反応しなかったのだだ」
「そうなんだよね~。だから、もう対峙した滅びの獣、あとは<羨望>だっけ? 僕達の中でこの辺に対応するメンバーは、もう少し自由に動いても良いと思うんだよね~」
いささか特徴的な口調で、密かに実験していたらしい結果を伝えてくるのは、恰幅が良過ぎる紳士姿の大魔王、グェルトゼバンだ。
彼と、道化じみた子供の姿を持つ強欲の大魔王、グラムドーマの言葉には、確かに頷けるものがある。
「元より、世界が合一した以上、滅びの獣とやらへの影響は避けられまい。ならば、守りを固めるべきではない。攻めるべきだ」
仮面をつけた大男、憤怒の大魔王サトルギューアの言葉も、一理あった。
最早『外』の世界とマイフィールドという小世界を隔てる境界は失われてしまった。
だとするなら、世界を滅ぼすという滅びの獣の脅威はむしろ強まったと言える。
世界のどこに潜んでいるか判らないのは脅威だけれど、それを気にしすぎ動けなくなるのは逆に危険だ。
「とまぁ、そういうわけだよ、我が契約者。最早我々も動くべき状況であると主張したいのだよ。理解していただけたかな?」
「そう、だね。滅びの獣の事もあって、意見を聞くだけのつもりだったけど、もっと積極的に動いてもらう時が来たのかもしれないな……」
締めくくるように告げるルーフェルトに、僕は納得する。
それに、頼もしいのは確かだ。
七大魔王は、精神的な活動の反面教師的な存在だけど、逆に言えば悪意や害意と言った人の負の側面にも強い。
僕が今抱えている問題の中の、政治的な方面や交渉事の面では、頼れるのは間違いないだろう。
実際、彼らは魔界でそれぞれ無数の悪魔や下位の魔王を抱える一大勢力で、アナザーアースの各王国の動向や政治的な問題に関しても干渉してトラブルを起こし、それがクエストとして僕達冒険者が動く経緯になっていた。
つまり、余程僕より政治を理解していると言っていいだろう。
そう考えれば、実に頼りになる。
「まぁ、こんな事を言っておるがの? こやつら暇で飽いて居ったのじゃ。世界の運行は我らの仕事の比重が高いゆえにの」
「うるさいよ、陽光神」
と思ったら、陽光神ハーミファスと高慢のルーフェルトが密かに魔力をぶつかり合わせていた。
ああ、確かに世界の運行というと、自然神の役割は大きくて、逆に精神面を司る神の側面を持つ大魔王達は、確かにあまりやることが無いのかもしれない。
かつてのアナザーアースのように、彼方此方でトラブルを起こすと言うのは、僕と契約している以上は、中々出来ないだろうし。
そう考えると、逆に申し訳なくなってくるな……。
「いや、俺としてはこのまま暇でも良いんだが? 働きたくない。責任とか果たしたくない」
「いや、貴様もいい加減動け」
唯一不満を漏らしたのは、今までずっと居眠りしていた、というか前回の会議でもずっと寝ていただらけた青年姿の大魔王だ。
怠惰の大魔王スロフェグルは、その司っているモノを象徴するようにやる気がないらしい。
もっとも、すぐ隣のサトルギューアに小突かれているのだけど。
ともあれ、こうして僕は、大魔王達の力を借りる事となったのだった。
書籍1巻刊行中です。
今日も何とか更新出来た…




