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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第5章 ~新大陸への来訪者~

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第01話 ~神魔会議 マイフィールドの王~

 窓の外を見ると、遠く水平線の彼方に、何か見えるような気がした。

 実際にはただ海原が広がっているだけだ。

 万魔殿は、僕のマイフィールドでも端の方にある。

 その為この部屋からはマイフィールドの外縁である霧に覆われた境界が見えていたのだけど、その霧は今失われていた。

 色々な手段で確認した結果、その先に何があるのか僕は知っている。

 特にマイフィールドの北西方向、その先にあるモノを。

 だけど、見えたような気がしたモノは、それじゃない。

 キャパオーバーで目を回し倒れる僕自身の姿だ。

 ここ、僕の居城である万魔殿の最上階、見晴らしのいい会議室で、僕は現実逃避していた。


「そろそろ戻ってきてくれないと、私としても苦言を言わねばならなくなるのだがね、我が主よ」

「我が契約主は、直ぐ意識を内に向けるのが瑕であるの」


 目の前に居並ぶのは、何時かこの会議室に集まった七曜神と七大魔王達。

 僕のことで囁き合うのは、太陽を司る陽光神ハーミファスと、高慢を司る大魔王ルーフェルトだ。


 いつかの会議のように、彼らをここに集めたのは僕だ。

 あの時は、この僕のマイフィールドの管理運行を彼らに任せるために呼び出した。

 今回は僕が抱えるに至った幾つかの問題に対して、意見を聞きたいが為に集まってもらったのだ。

 だけど、幾つか意見を聞いた時点で僕自身が情報を整理しきれなくなり、思わず現実逃避してしまっていた。


 ここで、今現在僕が抱えている問題を整理したいと思う。

 まず一つ目。実は、コレは前回のこの場所で開いた会議の時までさかのぼる。

 僕が『外』の世界を調べるために、彼らに世界の運行を任せた時のことだ。


「世界の運行は、我らに任せるが良い。我らは自然の運行を司る七曜神。そなたの世界の環境はかつての世界程広くない故、分け御霊たる我らであっても不足なく運行して見せようぞ?」

「はい、お願いします」


 当初の予定として、配下のモンスター達より、僕自身が『外』で調査する方が問題が少ないという理由で、僕はマイフィールドの管理を彼らに任せた。

 それは快く受けて貰えたのだけど、問題はその後だった。


「だが夜光よ、世界の運行とは別に、この地の王はそなたぞ? 余り玉座を開けすぎるのも考え物では無いかの?」

「えっ? 王って……そんな大げさな」

「何を言っておる。この地の主はそなたである以上、この地に生きる者達は全てそなたが治める民であるというべきじゃ」


 陽光神の言葉に僕は戸惑う。

 確かにこのマイフィールドは僕が作ったし、モンスターやNPCを配置して住まわせたのも僕だ。

 だけど、『王』と言われると、正直に言って、困る。

 僕は現実ではただの大学生だ。

 それもリーダーみたいな役割なんてほとんどやったことがない。

 思い起こしても、もちまわりで回ってくる委員長とかそんなものが精々。

 そんな身の上の者が『王』というのは、どう考えても手に余る。


「そんな、そういうのも含めてのマイフィールドの運行を任せたつもりだったのに」

「我らは神であるがゆえに『祀られるもの』ではあるが、『治める』のは精々天界だけじゃの」

「私達も、治められるのは配下の悪魔に限られるね。人の世を魔が『治める』というのは、理が崩れるというものだよ」

「じゃ、じゃあ各町のまとめ役や領域を任せたモンスターの中から誰か……」

「それらから誰が『王』となろうと、他を抑えられんじゃろう」


 だけど、こんな時に限って七曜神の盟主と七大魔王の筆頭は手を組み連携して僕を追い詰めていく。

 この二柱、存外に仲がいいのだろうか?

 そんな事を思いながら、僕は悪あがきを続ける。


「でも、王だなんて何をしたら……!」

「君に求めるのは象徴としての『王』であり、実務者ではないよ。君臨せども統治せずという政治形態があるのは知っているだろう?」

「この城にも頭の回る者がおろう? それらを大臣として据えればよいではないか」

「『外』に調査に向かうと言うと、何日もこの城を開ける事に……」

「王が城を開けるなど、珍しい事でもあるまい? 外交や親征で国を開ける事もの。無論城に居るが望ましいが、絶対とは言えぬの」

「こ、この万魔殿は行政府の機能何て……」

「ああ、必要なら新しく街を作り行政府を置けばいいのでないかね?」

「うむ、そうさな。この地にほど近いパンデモニウムサイドの町に作るかの」


 もっとも悪あがきに思いついた口実は全て反論で潰されてしまったのだけど。

 他にも幾つか『王』の立場を逃れるための理由を考えたのだけど、結局うまくいかなかった。


「……僕なんか、精々避難船の船長だよ。助かった先で船長が王様になるのは、何か違うと思うし引きずり過ぎだと思う」


 結局最後に言えたのは、僕の偽りのない気持ちだ。

 僕はモンスター達を助けたかった。

 だけど王になろうとは考えていない。

 マイフィールドの主だなんて、結局は土地の権利者が精々だと思う。

 確かに各領域に支配者級のモンスターやNPCを配置したけれど、それはマイフィールドの設定を作っただけで、『王』ではない。

 だけど、


「そうは言っても、そなたがもとよりこの地に住まわせたもの達、そして我らのように最後にそなたに降った者達、その全てがそなたを追うと認めておるのじゃよ? そうでなければ、そもそも従わぬ故にな」

「だから、君は胸を張ってこの地の王となりたまえ。何、各地は君が任じた支配者級の者が治めるさ」


 こうまで言われてしまっては、もう引き受けるしかなかった。

 結局、僕はこの地の王として君臨する事になる。

 実務的な部分は、万魔殿のメイド達やリムやマリィの配下から頭脳に秀でた者たちを選び、行政府に配置して対応した。

 そしてこの万魔殿には新たに作れなかった謁見室や玉座の間等の行政施設は、この城からほど近いパンデモニウムサイドのNPC町に新たに建造される事になったのだった。


 『王』の問題は、その時はそれで済んでいた。

 だけど、その後僕は王と言うものをさらに甘く見ていたと思い知ることになる。

 各地の領域の統治は各NPC町のまとめ役や支配者モンスターが担ってくれるものの、各領域間で発生した

問題の調整を冒険中でも度々行う必要が発生したのだ。

 特に砂漠の女王と氷の女王は犬猿の仲で深刻だ。

 領域が隣接していないからこそ現状問題は発生していないけれど、月に一度行われる支配者級協議の場で一触即発の事態になったと報告書に書かれていたりして、思わず気が遠くなったりもした。

 まぁ、この気が遠くなった理由にしても、僕が知らない間にパンデモニウムサイドの町に立派な行政府が出来上がっていて、そこに支配者級が参加する議会のようなモノが作り上げられていたと言う謎事態になって居たからでもあるのだけど。


 そして二つ目


「『外』からの来訪者について、扱いを話し合いたいから出席してほしい。と来たかぁ……どうしようかな、これ」


 皇都から戻った僕に、マイフィールドの境界であった『霧』が晴れたことで、僕のマイフィールド全体を震撼させた問題について、僕も交えて協議がしたいと言う連絡が入ったのだ。

 そもそも、マイフィールドの境界が消えると言うのも驚きだし、更には直ぐに領域の『外』から来訪者がやって来たと言う。

 マイフィールドが『外』の世界と繋がっていたと言うのは、ゼフィロートが皇都にまでたどり着けていた事もありある程度予想はつけていたけれど、その場所は完全に予想外だった。

 皇国の西にある大西海、その更に西に僕のマイフィールドの中心であるアクバーラ島が浮かんでいただなんて。

 それだけでも十分驚異的なのに、どうも嵐で遭難した船が流れ着いたらしい。

 今は監視をしてくれているらしいけど、そちらの対応もする必要がある。

 もうこの時点で僕の処理能力はパンクしそうなのだけど、更に他の問題があるのだった。

書籍化1巻刊行中です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王からはにげられない! 実際、大方針を決めるのは主のお仕事な訳で・・・ [一言] 書籍買いました!こっそり応援しております。
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