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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第5章 ~新大陸への来訪者~

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プロローグ 前 ~ラディオサ・フォルタナ号航海日誌~

 聖暦976年 春の2月 火の6日 快晴 南東の風 船長クライファスが此処に記す。


 早朝ダモテラ島のコッパス港を出発。

 航路に異常なし。風に乗り内海北のデリミスを目指す。

 昼頃風向きが乱れた為、デミリスには至らず、サファン島にて係留する。

 北の皇国が何やら騒がしいらしいが、そういう時こそ交易船の稼ぎ時だ。

 軍が動くなら、物資も動く。

 コッパスでは内海南の交易品を仕入れている。

 特に薬品の原料はデミリスで高く売れる。

 明日に期待しよう。



 聖暦976年 春の2月 水の3日 曇天 北東の風 船長クライファスが此処に記す。


 錨泊していたトルス島より西へ向かう。

 デミリスでは酷い目にあった。

 皇国の貴族とデミリスの貴族との争いに巻き込まれたのだ。

 おかげで、ナソー国の白磁が粉々となり大損害だ。

 皇国の南ナスルロンの貴族は、内海の諸国と昔から小競り合いを繰り返していたが、最近は大人しかったというのに。

 同じ船乗りの噂では、何でもナスルロンの貴族たちは内戦で手ひどく負けたらしい。

 その巻き返しに兵を動かしたらしいが、ナスルロンには良港が無い。

 自然係留できる船は小型になり、海軍として動かせる兵は少ない。

 だと言うのに海軍の強いデミリスから略奪しようと言うのは、意味が分からない。

 噂をしていた船乗りは、大領主の気が狂ったから他の領主も頭がおかしくなったのだろうと笑っていた。

 だとしても巻き込まれた此方は迷惑でしかない。

 明日には、聖アラガスの門を抜け、外海たる大西海へ出る。

 そこからはナスル半島を迂回しつつ北に向かうのだが、あの辺りはナスルロン領だ。

 デミリスの一件も考えれば、あの辺りの港町は避けるべきかもしれない。

 少々補給間隔が長くなるが、ガーゼルまでは保つだろう。



 聖暦976年 春の2月 土の1日 荒天 南東の風 船長クライファスが此処に記す。


 この数日海が荒れ続けて居る。

 強風のあまり帆もろくに張れず、走錨するばかりだ。

 縦走も出来なくはないが、荒れる波に流される距離を超えられずにいる。

 南西から来る黒雲は、大規模な嵐に違いないが、大西海には風よけになる島などない。

 このままではあの嵐に巻き込まれるが、今のままでは避けえないだろう。

 デミリスの一件から、運に見放されたかのようだ。



 聖暦976年 春の2月 土の6日 曇天 東の風 船長クライファスが此処に記す。


 嵐の被害は酷いものとなった。

 突如として吹き荒れた暴風によりマストが折れ、船の制御を失ったまま巻き込まれたのだ。

 うねる波を何とかやり過ごすので精いっぱいで、どれほど流されたのか見当もつかない。

 不幸中の幸いは、補給間隔が長くなると予想して普段より多めに食料に酒を積んでいる事だろうか。

 交易品も食用に足るものもあり、生き延びること自体はまだ問題ないだろう。

 海さえ荒れて居なければ、帆走は出来ないまでもオールで移動は出来る。

 曇天で星が見えないため、今船がどこに居るのか観測できないのが不安要素だが。



 聖暦976年 春の3月 風の1日 晴天 東の風 船長クライファスが此処に記す。


 ようやく晴れたと思い観測したところ、船は陸より大きく西に流され、およそ内海を東西に往復するほども流されたことが分かった。

 嵐の後も吹き続けるこの東風と海流のせいだろう。

 船員総出でオールを漕いでいるものの、西に流されるのを弱める程度しか効果がない。

 船員たちは、このまま大西海の西の果てにある世界の果てにまで行きつくのではないかと不安がっている。

 船乗りの間で語られる伝説では、西の果ては巨大な滝となって居るのだとか、恐ろしいほど巨大な怪物が海の水を飲み干し続けて居るのだとか。

 この西へ向かう海流は、それを裏付けているようで、猶更船員を不安に書き立てるのだろう。

 船長としてその不安をどこまで抑えられるのか。

 聖地の坊主共の語る神には祈りたくはないが、それでも祈る相手が欲しくなる。

 船乗りの間には、遥か古の時代には海の神や風の神が居たという話もある。

 もし本当にいたのなら、今祈れば我々を救ってくれるのだろうか。



 聖暦976年 春の3月 風の7日 霧天 無風 船長クライファスが此処に記す。


 数日前から、奇妙な霧に覆われた海域に入っている。

 風が収まったのは良いが、この霧のせいでせいで方向を見失ってしまった。

 船員たちは海流に逆らいオールを漕ぎ続けたが、結局思ったように東に進むことは出来なかった。

 皆疲れ果てている。

 漕ぎ続けている間の消費で、食料も随分と減ってしまった。

 何より、水が枯渇しかけている。

 船員の間には諦観が広まっており、動く気力も失われているようだ。

 この身も先が見えぬ状況に焦りが尽きない。

 もしや、この霧こそ世界の果てなのだろうか。

 世界の果てが、荒れ狂う嵐の先に在る停滞の霧なのだとしたら、随分と皮肉な姿だ。

 このままここで朽ち果てるのならば、いっそ怪物でも滝でも解りやすく終わりが来た方が、余程死の世界への土産話になると言うものだろうに。



 聖暦976年 春の3月 火の3日 晴天 南東の風 船長クライファスが此処に記す。


 水も食料も付き、このまま朽ち果てるかと思った頃、我々は霧の海を抜けていた。

 風も波もある海の様子に安堵する暇もなく、船員が北西に浮かぶ島影を発見し、我々は沸いた。

 もしあそこが世界の果てで、島に見えるのが島ほどに見える巨大な怪物であり、我々を飲み込むのだとしても、停滞の海で朽ちるよりは余程上等な死にざまだったろう。

 だがそんな事は無く、発見した島も世界の果てではないようだ。

 島に近づくにつれ、その大きさに驚く。少なくとも小島程度ではない。

 雲を貫く雪に覆われた山々がそびえ、入り組んだ海岸線が彼方まで続いている。

 もしや島どころか、陸というべきものなのだろうか?

 だが、今はその様な調査は後回しだ。

 近づくにつれて、島の詳しい様子が見えてくる。

 深い入り江と砂浜と森。入江には海へと注ぐ川も見えた。つまり、水がある。

 鹿らしき野生の獣や船から見下ろす水面の下には魚影もあり、食料も確保できるだろう。

 我々は、どうやら助かるようだ。

 ただ、この近辺の海はいささか水温が低いらしい。

 気温も低く、内海の温暖な海に慣れ、北洋まで足を延ばさない我々には、少々堪える気候である。

 それでも救いの島だ。

 我々は手ごろな入り江にまでたどり着き、上陸することにした。



 聖暦976年 春の3月 火の4日 晴天 南東の風 船長クライファスが此処に記す。


 この地は楽園に違いない、

 船員が入江傍の森に入ると、様々な森の幸を抱えて戻って来た。

 木の実や果実、野兎と言った肉まで、豊富な食糧得られるようだ。

 また、折れたマストの修復に足る材木も、この森ならば得られそうである。

 久々の揺れない足元もまた嬉しい。

 魚も取れるが、種類は北方群島諸国で獲れるという種に近いように思える。

 もしや、この地は北方群島に近いのだろうか?

 しかし、風向きや流された方向、そして星から得た位置は遥か西方に位置していると知らせているし、そこまで北に流されても居ない筈だ。

 このちぐはぐさも、世界の果てほどに離れた地ではあり得るのだろうか?



 聖暦976年 春の3月 水の1日 晴天 北西の風 船長クライファスが此処に記す。


 この島に係留して数日が過ぎた。

 食料の補給と、嵐で壊れた船体の修理は順調だ。

 切り出した木材で簡易のクレーンが出来上がったため、マストの修復に本格的に取り掛かれるようにもなった。

 このまま行けば、再び元の様に航行できるようになるまで、土の週までもかからないだろう。

 ただ、食料確保を任せている船員が、奇妙なことを話している。

 どうも、誰かから見られているらしいと。

 こんな世界の果てに何かいるのかと思うも、世界の果てならば何か正体も解らぬ化け物が居てもおかしくないのだと思い直す。

 事実これほど食料が豊富な土地だ。それらを食う者が居てもおかしくはない。

 念のため、見張りの数は増やしておくこととした。



 聖暦976年 春の3月 水の3日 雨天 北の風 船長クライファスが此処に記す。


 船体の修復は雨で中断してはいるが順調だ。

 食料に余裕が出来たため、調理の者には保存食を作らせ始めている。

 もっとも、船体の修復がなった場合は、まずこの島の調査を手掛けようと思う。

 この地の事を、我々はもっと知るべきだ。

 見張りが雨の中奇妙なものを発見したらしい。

 沖で巨大な影が海を渡っていったと言うのだ。

 少なく見積もっても、このラディオサ・フォルタナ号と同等か、それ以上の大きさだったとか。 

 雨の中であったため、詳しい姿が判らなかったらしいが、それほどの大きさとなると、鯨の類かもしれない。

 見張りには陸側を注意するよう言い含めていたが、これからは海側も警戒するよう命じて置いた。



 聖暦976年 春の3月 水の7日 曇天 西南の風 船長クライファスが此処に記す。


 船体の修復が、明日には完了する。

 だがこの地の調査は取りやめ、直ぐにでもこの地を離れるべきだ。

 あんな、恐ろしい化け物が居るとは思っても見なかった。

 異常を察知したのはやはり見張りだ。

 だが懸念していた海や山ではなく、脅威は空に在った。

 巨大な翼を持つ何者かが二匹、雪山の彼方で激しく争っていたのだ。

 驚くべきはその大きさであり、我々がマストに利用した木々よりも頭の高さが上なのだ。

 そのようなものが争い、時に口から炎や雷を吐いている。

 まさに常軌を逸した光景であった。

 最後は痛み分けであったのか互いに離れて行ったものの、もし争いの場が此方に近かったらどうなっていた事か。

 更には、もし獲物として見られていたのだとしたら。

 思えばこの地の豊かさは異常であったと言える。

 それは、あのような化け物の縄張りであったと考えれば納得がいく。

 この地には感謝するより他ないが、それはそれとしてとどまり続けるのは危険だ。

 何より故国に戻りこの地の事を伝えるべきだ。

 世界の果てには恐るべき怪物が居るのだと。

書籍1巻刊行中です。

そしてここから新章となります。

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[一言] 監視にとどめたか、これから接触を行うのか・・・
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