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【書籍4巻刊行中】万魔の主の魔物図鑑 【6章完】  作者: Mr.ティン
第4章 ~混迷の皇都~

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第12話 ~謀反の真実~

 現実の僕は、何処まで行っても只の一大学生でしかない。

 特に秀でたところもなければ、目を見張るような実績を上げたわけでもない。

 確かに、僕は多くのモンスターを自分のマイフィールドに保護したけれど、それは趣味に没頭しただけだ。

 彼らから崇められているらしいけれど、僕自身にそんな価値があるとは思えないし、王や神のように振る舞う事なんて到底無理な話だ。


 多くのモンスターやNPCを統治するなんて無理な話だし、だからこそマイフィールド内の運営は七曜神と七大魔王にほぼ丸投げしたと言える。

 外の世界に情報収集という名目で出ているのも、マイフィールド内では意思を持ったモンスター達に貴い者として扱われるのがどうにも居心地が悪くて、実質逃げ出しているという面があるのは否めない。

 それに、僕はアナザーアースをプレイしていても、どちらかというと交流の幅が広い方ではなかった。

 召喚術師としてパーティーを自分のモンスターで固めていると言うのは、他のプレイヤーとあまり関わらないプレイスタイルだ。

 辛うじてホーリィさんやその他何人かのフレンドとは交流があったけど、ユニオンに所属したのもこの世界に来て関屋さんらと組んだのが初めて。

 人見知りとまでは行かないから、見知ったパーティーモンスター達や同じプレイヤーだったアルベルトさん達と話すのは問題ない。

 しかし例えば社会的に地位がある人物と交渉しろというのは、僕のキャパシティを大きく逸脱している。


 グラメシェル商会の会頭のレオナルドもそういった人物に該当するけれど、彼方が交渉上手なのか僕が気負う間もなかった。

 今夜もそうだ。

 ゼルと共にレオナルドへ依頼の件に対しての対応で商会を訪れたのだけれど、護衛失敗の責任として報酬の全額カットを伝えられただけで、それ以外は特に罰も無く話がまとまってしまった。

 ある程度の補填さえ視野に入れていただけに正直な所肩透かしだったけれど、直ぐにその理由が判明した。

 バッグの襲撃犯を追わせていたここのとレディ・スナークから、情報が入ったのだ。


 襲撃犯の匂いを頼りにここのが辿り着いたのは、寄りにも寄って皇城だった。

 モンスターである彼女は皇城の魔法結界を通り抜けることが出来ず困っていた所、僕からの依頼を受けたスナークが合流。

 そのまま追跡を引き継いだレディ・スナークはモンスターではない為結界を易々と潜り抜けると、僕の顔をした襲撃者を早々に発見してそのまま追跡して、その正体と襲撃の目的を明らかにしてくれたのだ。

 まさかバッグの奪取が、皇王の命によるものだったとは。

 なるほど、それなら下手に奪還するより向こうの意図に乗った方がいい。

 表面的にはバッグは奪われ、商会は一つ汚点を残したものの、工作員の襲撃そのものは撃退したことから、皇王からの心証は良くなっている。

 だからこそレオナルドの話は早かったのだろう。

 下手に僕らが動いてバッグの奪還や偽物を用意した場合、話が拗れる事にしかならない。

 実利面での補填や、演出的な意味でのバッグの奪還が為される事は明らかだ。

 恐らくは、その奪還作戦を商会に主導させることで、汚名の払しょくと奪還の報酬という形で商会は皇国から報いられることになるのだろう。

 つまり、此方の問題は概ね片付いたと言える。


 一方、ゼルグスに掛けられた濡れ衣の件は、正直な所思わしくない状況にあった。

 ゼルグスに似ているというゴゴメラ子爵家で謀反を起した騎士、その手掛かりを求めてその領地へ向かったマリィとリムから、思いがけない報告を僕は受けていた。

 くだんの騎士は、もう既に死んでいると言うのだ。


「えっ、どういう事?」

「それが御主人様、その騎士の霊は見つけたのですけど、子爵家に忠義を捧げたままに殺されていたのですわ」


 マリィらが話した経緯はこうだ。

 転移と飛行でゴゴメラ子爵家の城跡地に飛んだ彼女達は、死霊魔術での亡霊との会話と精神魔法での感応で、その地で死んだ亡霊たちから情報を聞き取っていた。

 多くは謀反を起した騎士に対して怨念を募らせていたのだけれど、意外なことに子爵一家はその騎士を恨んではいなかった。

 なぜなら、殺された彼らは見ていたのだ。

 今際の際に、忠義の騎士の顔を崩して本来の姿を垣間見せた化け物の姿を。


「……鏡魔(シェイプシフター)の一種かな?」

「ええ、その可能性はありますわ。その騎士は顔のない悪魔のような存在に顔を剥ぎ取られて殺されていましたし」


 鏡魔(シェイプシフター)は、相手の姿を写し取る魔物の総称だ。

 その姿を写し取る能力や質、写し取る条件は種によって多彩で、上級鏡魔(ドッペルゲンガー)ともなれば写し取る相手と相対しただけでほぼ完璧に再現することが出来る。

 ゼルの人化した姿を写し取ったように、召喚できるようになると身代わりとか代役など便利に扱えて、アナザーアースの召喚士系プレイヤーには人気のモンスターだった。

 とはいえ、ゴゴメラ子爵家の悲劇のように、クエストでは容易に見抜けない偽装で様々な事件を起こす厄介な存在とも描かれていて、召喚士系以外のプレイヤーには評判が悪かったりもしたのだけど。


「困ったな。それだと真犯人を御前会議に突き出してゼルグスの無罪を主張する事も出来ない」

「鏡魔という意味では、ゼルグスが犯人というのも合っているのが皮肉ですわね」


 問題はそこだ。

 ゼルグスの濡れ衣に対しては、真犯人を用意したら何とかなるだろうと僕は考えていた。

 だけど出てきたのは、鏡魔というアナザーアース由来と思われるモンスターが、皇国の貴族を殺害していたという事実。

 次々姿を変える事も可能な鏡魔(シェイプシフター)を今現在から追跡するのは不可能だ。

 ゼルグスが上級鏡魔ということもあり、ゴゴメラ子爵殺害犯と同じ存在という点ではナスルロン諸侯の言い分が正しいと言うのは、どういう奇縁なのだろう?

 そこでふと、マリィの言葉が気にかかった。


「……そういえば、その騎士は顔を剥がれていたって?」

「ええ、鏡魔(シェイプシフター)の中でも、顔剥ぎ(レザーフェイス)の系統なのかしら?」


 顔剥ぎは被害者の顔を剥ぎ、その皮を身に付けることで相手に成りすますモンスターだ。

 主にホラーテイストのシナリオやクエストに登場し、プレイヤーを恐怖に陥れる厄介な存在として知られていた。

 殺害された被害者の遺体が凄惨なのも特徴で、戦闘時も不意打ちから始まることもあり、とにかく心臓に悪いモンスターと言える。

 ただ、剥いだ顔の皮を使っての変身である為か、慣れてくると顔の輪郭辺りに明確な肌の境界線などが見える事もあり、偽装を見破りやすい存在でもあった。

 そういう点もあり、顔剥ぎは中級位階と左程強くないモンスターとして位置づけられていた

 更に言うと、内面や技能の偽装はお粗末であり、長くだまし続けるのは不可能なはずだ。

 話によると、その騎士の謀反は傭兵を雇っての用意周到な物だったらしい。

 それには長期間の偽装が必要だったはずだ。顔剥ぎのような露呈しやすい偽装では成立しない筈。

 むしろ顔を剥いだのは死体が誰であるのか隠す意図であるように思える。

 そこでふと思い出したことが有った。


「そういえば、フェルン領でも変死した遺体が見つかったことが有ったな……」


 あれは、ナスルロン侵攻直後の事だ。

 ゼヌートの城でも、変死体が見つかったのではなかったか。

 死体の詳しい状況は、伝え聞いていただけだから詳しくは判らないけれど、領内で重要な地位を持っていた人物が死んだのは、どこかに通っている。


「いや、まさか、ね」


 脳裏に浮かぶのは、傲慢(アロガンス)を名乗る存在。

 変死体となった文官の長の姿をしていたあいつ。

 僕に接触してきたアレは、自身を憑依の能力を持つと語っていた。

 だけど、だ。

 もしそれが口先だけのモノだったら?

 憑依ではなく変身こそが真実の能力だったら?

 ゴゴメラ子爵家の騎士のように、先に文官を殺して入れ替わっていた可能性もあり得るだろう。

 ゾッと僕の背筋に冷たい物が走る。

 あの時傲慢が僕らに接触してきたのが、入れ替わる為ようにも思えたのだ。


「……いけない、思考が先走り過ぎてる」


 僕は首を振って暴走しそうな思考を押さえつける。

 全ては仮定で、明確な証拠は何もない。

 ゴゴメラ子爵家の騎士に成り代わったのが、傲慢と同一と決まったわけでもないのだ。


 ただ気にするべきは、門の中の存在であるモンスターが複数の貴族家に入り込んでいたと言う事実だ。

 それも友好的な接触ではないのは明らかだ。

 アナザーアース絡みをこの世界であまり大っぴらにしたくない僕らとしては、何とも嫌な流れであるのは否めない。


「……本当に、どうしようかなぁ」


 そして、思考が一週回って戻ってくる。

 つまり、ゼルグスへの濡れ衣の問題だ。

 少なくとも、真犯人を見つけると言うのは無理筋になってしまった。

 いざとなったら真実をなぞるように鏡魔を召喚して、謀反を起したことになって居る騎士の姿を写し取らせて真実の一端を語らせて逃亡させても良いかもしれない。


 そんなことを考えていると、僕の張った情報網、ホーリーゴーストの一体から重要な知らせが届いた。



 そして今、僕は此処にいる。

 改めて言うけれど、僕は何処まで行っても只の一大学生でしかない。

社会的に地位がある人物と交渉しろというのは、僕のキャパシティを大きく逸脱している。

 だから、その、困るのだ。


「そなたが、ゼルグスの主、ヤコウか」


 こんな才気の塊のような人物、フェルン候シュラートのような人物との交渉などというのは。

 心配そうなゼルグスを背後に、僕はフェルン候シュラートと向き合っていた。

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