父の日 2022/06/19 ユータver.
2022/6/19 父の日閑話
夜にカロルス様ver.もUPしますね!!
ロクサレンの執務室に飛び込むやいなや、オレは急いで言った。
「ねえ、カロルス様! オレにしてほしいことってない?」
だって、今日は特別な日。今日だけは、遠慮無くカロルス様の望むことをしてあげられるんだから。
「お前にか? なら、飯を――」
「お料理は作るから! それ以外なの!」
どうせ肉って言うんだから。お肉の料理ならオレよりジフの方が得意なんだからね!
「それ以外って言われてもなぁ……書類仕事かあ?」
がっくり。
うん……でもそうか、そんなものかな。
渋々椅子を引っぱってくると、大きな机にカロルス様とはす向かいに座った。
「でも、オレができることなんてほとんどないよ?」
「俺ができることもほとんどねえぞ?」
それはマズいんじゃなかろうか。
じっとりした目で見上げると、既に面倒そうな顔で肩をすくめた。
「グレイやエリーがやれば早いのに、なんで俺が……効率悪いと思わねえか?」
「そうかもしれないけど、執事さんやエリーシャ様は他にもお仕事あるよ?」
多分、王都がらみのことや貴族関連のアレコレは全部2人がやってると思う。カロルス様がやっているのは、主にこの村のことくらいだもの。
むしろ、これをやらなかったらカロルス様は何のお仕事をするのか。
「いいじゃねえか、俺は魔物や敵が来たら撃退するからよ」
「それも大事だけども……」
ぶつくさ言いながら、二人して作業を進めていく。
計算だったり書類の仕分けだったり、ちょこちょこ手伝いつつ快適環境を維持する。室温はやや低めで、時折わずかな空気の流れを作る。お仕事が早く終わったら、自由な時間が増えるもんね。それはそれでプレゼントであるはずだ。
そうこうするうちオレの方は書類整理が終わり、手持ち無沙汰になって顔を上げた。
集中を切らさないようこっそり見上げた美丈夫は、難しい顔をして行儀悪く片肘をつき、額の髪をくしゃりと掻き上げていた。
なんだか、こういう姿は新鮮だ。
伏せた目元、微かに寄せた眉。そして指の間からこぼれる金の髪。引き結ばれた唇が大きくへの字を描いている。
ふむ、これはこれで格好いいかもしれない。
そこはかとなく、セクシーなオーラが漂っているんだもの。メガネでもかければいい感じじゃないだろうか。
それに、黙っていれば知的に見えなくもない。
……その実、嫌々宿題をする小学生レベルだったとしても。
遠慮無く見つめる先でサラサラと動いていたペンが止まり、薄く開いた唇から長い吐息が漏れた。伏せられていた睫毛が何度かしばたたいて持ち上がる。
露わになったブルーの瞳が、ひたとオレと視線を合わせた。
しっかり絡んだ視線に何を思ったか、ふっと笑って大きな手がオレを撫でた。
「……飽きたか?」
服が破れるんじゃないかと思うほど大きく伸びをして、カロルス様は子どもみたいに両手で目を擦った。
「違うよ、オレの担当は終わったの」
「そうか、ありがとな。俺は飽きたぞ」
「じゃあ、その書類が終わったら休憩にしよう!」
さっとおやつを取り出してコトリと机に置けば、その口元が嬉しげにほころんだ。今日は、マーマレードみたいなジャムを練り込んだパウンドケーキだよ!
「昼飯は?」
おやつを前に、さっきまでより随分早く動くペンを見つめながら、ちょっと唇を尖らせた。
「お肉がいいんでしょう? お肉だったら、オレが手伝えることなんてあんまりないよ」
「む……。なら、肉でなくてもいいぞ」
終わったのだろうか。ぐいと伸ばされた手に大人しく捕まえられると、そのままぬいぐるみのように引き寄せられた。
カロルス様はオレを肩へ乗せ、猫のように顔をすり寄せる。お腹と言わず、首筋と言わず、すんすんと鼻を鳴らすから、むしろ猫よりも犬だろうか。
「オレ、まだ何も作ってないからいい匂いしないよ?」
お菓子にしろ、食事にしろ、カロルス様は何か作った後によくこうする。くすぐったいけど、大きな猛獣が懐いたみたいで、結構好きだ。
「そうか? 囓りたくなるけどな」
はもっと腕を咥えられ、身をよじって笑った。それじゃあ本当に猛獣だよ!
「オレを食べちゃダメ! おやつがあるでしょう!」
「おう、そうか!」
カロルス様だから、と思って厚めに切ったパウンドケーキが3切れ。オレなら昼食代わりになるそれは、1切れにつきひとくちで消えていく。
「美味いな」
そう言うけれど、本当に味わったんだろうか。
「ちゃんと、しっかり噛んで食べなきゃダメだよ」
「へえ? 分かった」
言うなりまたオレの腕を取り上げて――
「オレじゃないの!!」
口へ入れられようとする腕を慌てて背中にまわせば、オレを抱えた猛獣は思い切り笑ったのだった。
カロルス様ver. もあります!
21時頃UPしますね!




