98 双子の対決 再び
「これはこれは、ヘミニス卿。今からちょうどご子息様の実技試験が行われるところです」
「ふん、それで……私の息子の相手は誰だ?」
教師の一人が手元の受験生リストを確認した。
「それが……どうも特待生枠での受験者で、ここには資料が揃っていないんです」
「まあよい、私の息子がそんな市井の凡骨に負けるわけがないだろうからな」
「では。ご覧になられますか?」
「無論だ」
ヘミニス伯爵が遠目に試験会場を見ると、そこでは息子のカストルともう一人そっくりな女の子が戦っていた。
「相手は女ではないか……」
「はい、ですがどうやら優秀な成績を修めているようでして、シリウス元学長の推薦で試験を受けているようなのです」
「ほう、あの魔道王と言われたシリウス男爵か、それは面白い」
ヘミニス伯爵はシリウスの名を聞いて、息子の対戦相手に興味を示したようだった。
◆
「それでは木剣を用いた戦闘をもって試験とする。なお、この勝敗が試験結果ではなく、どれだけの技量で戦えるかが判断基準となるので、相手が格上だからとあきらめる事の無いように。それでは、始め!」
オレ達の戦いが始まった。
スピカは別の相手と戦い、あっという間に勝ったようだ。
所詮男だろうがもやしっ子の貴族と、大人相手に逃げたり戦った元盗賊の、体力に自信のある少女ではどちらが勝つかなんて火を見るより明らかだ。
だが、ポルクシアはスピカとは違う、油断したら間違いなく負ける。
「行くぜェ!」
「来いっ!」
オレの剣は盗賊の剣技、ハッキリ言ってキレイな所より実践で身に付けた戦い方だ。
所詮貴族の試合しかしたことのないようなポルクシアのキレイな剣技ではオレの動きは読めまい。
「甘いよっ!!」
「なッ!?」
まさか、この足払いを読んでいたなんて。
普通の貴族の剣技ならこんな動きをしてくるなんて普通は考えない。
だが、ポルクシアは確実にオレの動きを想定していた。
「今度はこちらの番だ!」
バカな!? 前の人生でのポルクスのキレイな剣技とはまるで別物だ。
まるで……暗殺者レイブンを相手にしているような戦い方だ。
小さく相手の急所を狙いながら削るような戦い方、これは貴族の剣技ではない。
オレが防戦に回っているだと!?
「ハァッ……ハァッ……」
オレは一旦距離を開けた。
考え方を変えよう。
今オレの目の前にいるのは、前の人生の貴族のキレイな戦い方をするポルクスではなく、暗殺者レイブンの動きをするポルクシアだ。
「テメェ……誰にその戦い方を教わったんだァ」
「教えないよ、多分知ってるだろうし」
この答え方で分かった。
間違いなくポルクシアの師匠は暗殺者レイブンだ。
どういう流れでレイブンの弟子になったのかは知らないが、今オレの目の前にいるのは最強の暗殺者の後継者といえる。
「行くぜェッ!!」
オレは木剣が折れるくらいの力でねじ伏せる戦い方に変えた。
大きく体を振った方がまだ、小さくダメージを削られるやり方よりは対抗できる。
「くっ!!」
思った通りだった。
レイブンの戦い方はスピード特化型。
力で押してそのスピードを出せないようにすれば足さばきで逃げることは難しい。
「でもっ!!」
だがポルクシアはオレに足払いのフェイントをかけながら前転で懐に入り込んできた。
このまま胸を突かれたらオレの負けだ。
「させるかよォ!!」
俺は剣を逆手に持ち直し、柄でポルクシアの胸を逆に突いた。
「ぐはぁっ!!」
勢いよく突かれたポルクシアが後ろにのけぞり、転倒した。
だがタイミングよく後ろに下がったのか、ダメージはそれほど大きくなさそうだった。
「はぁ……はぁ……」
「ゼェ……ゼェ……」
オレ達はほぼ互角の戦いだった。
周りで試験の終わった連中、まだ試験を受ける前の連中が全員オレとポルクシアの対決を見ていた。




