96 魔法模擬戦開始
ポルクシアが標的台に狙いを定めた。
オレやスピカは炎や雷の魔法で指先から標的台を狙ったが、ポルクシアの魔法はどうやら違うようだ。
ポルクシアは右手を前面に大きく広げた。
「ほう、あれは……ポルクシアちゃんもやりおるわい」
「シリウス元学長、彼女は一体?」
「あの娘も天才ぢゃよ。儂の自慢の教え子ぢゃ」
貴族のガキ共がポルクシアを見てビックリしている。
オレ、スピカだけでなく、まさかこれほどの魔法の使い手が三人もいるとは誰も思っていなかったようだ。
「てやぁーっ!」
ポルクシアの右掌から激しい吹雪が吹き荒れた。
どうやらオレの属性は火だったが、ポルクシアの属性は水や氷らしい。
ポルクシアの手から放たれた激しい冷気は、ヒビだらけだったシリウス爺さんの魔法障壁を完全に破壊し、標的台を粉々に砕いた。
「ポ……ポルクシア・スパータ。文句無しの合格!」
「やった!」
ポルクシアとスピカが手を取り合って喜んでいた。
どうやら今の人生では、あの二人が相棒同士なんだろう。
オレは心で二人を祝福してやった。
その後まだ魔法実技試験を受けていない、残っていた貴族のガキが数人いたが、標的台が粉々で修復不可能になったので、全員最低点の合格になった。
「さて、ポルクシアちゃんの魔法で標的台が壊れてしまい、時間が余ってしまったわけぢゃが……せっかくなので余った時間で最高点を取った二人に実践で戦ってもらおうかのう」
「シリウス学長!? いきなり何を言い出すんですか!」
「ほっほっほ。まあ聞け」
シリウス爺さんは耳をほじりながら飄々とした態度で話し出した。
「的が粉々になってしまっては、この後実技試験は出来んぢゃろ。だからといってまだ中途半端に時間が残っておる。それなら今の受験者達に最高の魔法の実技を見せるのが一番の参考になるってとこぢゃよ」
「しかし、学長」
シリウス爺さんが眉毛の下の鋭い眼光を見せた。
「それならお前さんが実技試験の的をやって続けてもええんぢゃよ」
これは理不尽だ。
だが教師陣はシリウス爺さんのいうことにも一理あると納得した。
「それでは残り時間は、最高点を出した『カストル・ヘミニス』と『ポルクシア・スパータ』の二人による魔法実技特別模擬戦を開始する。『スピカ・カニスマイヨル』は二人の審判をすることになった」
貴族のガキ共が大きく盛り上がった。
ガキ共の大半はオレを応援している。
コイツらは貴族が平民に負けるわけがないと思い込んでいるようだ。
オレを応援しているのは大半が女子だった。
だが、一部のガキ共はポルクシアを応援していた。
どうやら彼女は先ほど見せた魔力と、見た目の可愛らしさで男どもの心を掴んでしまったようだ。
ヤツとの対決は……前の人生以来か。
「悪いが、手加減無しで行かせてもらうぜェ! 負けても怨むなよォ!!」
「そっちこそ、今の立場にかまけてサボってた言い訳とか聞かないからな! 覚悟しろ!」
オレ達は二人共ニヤリと笑いながら構えた。
今の戦いは前の人生のような殺し合いではない。
正々堂々とした魔法対決だ。
「行くぜェ!」
「来いっ!!」
スピカが教師に借りた杖を振り下ろした。
「二人共……勝負開始っ」
そしてオレとポルクシアの一対一の魔法模擬戦がスタートした。
「まずは……コレでも食らいなァ!」
オレは正面からファイヤーボールを連発した。
しかしポルクシアはその火球を足さばきだけで避けた。
魔法をただの肉体の移動だけで躱したスピカはオレの懐に入り込んできた。
「アイスダガー!」
ポルクシアの作った氷の短剣がオレの腹を切り裂こうとした。
だがオレはそれを指先の炎を出して一瞬で溶かした。
「危ねェ危ねェ……」
「あれを避けるとは、流石だな」
ポルクシアが鋭い目をこちらに向けた。
彼女の目は……まるで暗殺者のような眼光だった。




