61 教会の炊き出し
オレはまた東の貧民街に来た。
ケプラーとその手下が一掃された事で街の治安は保たれている。
だが、街には相変わらず、浮浪者と娼婦と物乞いのガキがあちこちにいた。
コイツらは仕事がない、稼ぎ方を知らないのでこの生き方しかできないのだろう。
今はケプラーがいないのでまだ治安がマシだが、このまま放っておくとまたケプラーみたいな悪党が街を牛耳る可能性が高い。
それをさせないためには、街を活性させて人が多く出入りできる場所にする必要がある。
「カストリア様ー。わたくしこの臭い耐えられませんわー」
「泣き言言うなァ! テメェはオレのいう事に従ってろォ」
ベレニケが涙目で黙った。
まあここは慣れない人間には耐えられない臭いの場所だ。
「後でお風呂連れて行ってやるから、我慢しろってェ」
「本当ですかーっ! こんな所にお風呂があるのですかー」
お風呂と聞いてベレニケの表情が変わった。
まあこの仕事が落ち着いたら、あの風呂場に連れて行ってやるか。
オレ達はティコの教会に向かった。
「カストリア様、ようこそお越しくださいました」
「おゥ。邪魔するぜェ」
ティコはオレ達に飲み物を出してくれた。
今回の飲み物には、水で薄めた酸っぱい果物の汁が入った味がした。
「カストリア様、今日はどのようなご用事ですか?」
「とりあえず、隣の空き地と壊れかけの家に用があってなァ。良かったら住民をここに集めてくれねェか? タダで食事をさせてやるって言っていいぜェ」
オレはバロとマルシェ達に持たせた食料を、教会のテーブルの上に並べた。
そしてティコに炊き出しの料理をさせて、ガキ共には近隣の住民を集めるように指示した。
お昼前には教会の前に大量の食い詰めた連中が押し寄せた。
辺りの臭いが一層酷くなって、ベレニケはもう泣きそうだった。
だが、オレはこの臭い程度なら全然問題ない。
ベレニケはオレがこの臭いの中で全然問題ない事を、かなり不思議そうに感じていた。
仕方ないのでベレニケには教会の二階の部屋で休ませておいた。
所詮はひ弱な貴族、こういう時には役に立たないもんだ。
「よォ。テメェら、とりあえずここにある物は好きに食っていいぜェ。その代わりきちんと並べ。順番抜かししたやつは後ろに並びなおさせるからなァ」
男の姿のオレの迫力にビビった連中は、順番抜かしをせず素直に並んで肉入りの煮込んだスープとパンを受け取っていた。
食事の終わった連中はすぐに帰ろうとしていたが、バロとマルシェがそいつらを外に出さないように入口に立っていた。
ただ飯だけで帰られたら、こちらとしても投資した甲斐が無い大損になってしまう。
外に出してもらえない連中は、騙されたのかと思って怯えている奴らもいる。
もう少し待て、全員が食べ終わってから話をするから。
教会の中には、東の貧民街の大半の連中が集まったと思われる。
ここに来る事の出来なかった行き倒れ寸前のやつとかは後で助けてやろう。
しかしオレは前の人生と違うある異変に気が付いた。
ここには、前の人生だと既に赤死病が流行っているはずなのに……誰一人として赤死病の感染者がいないのだ。
オレ達はここに来る前にあえて赤死病に対抗するために魔法薬を全員に飲ませておいた。
しかしそれが必要ないくらいに赤死病の感染者がいないのだ。
これなら計画は予定通りに進みそうだ。
オレは食事を終えた貧民街の連中を教会の中で全員出せない状態にしてから話を始めた。
「テメェらに伝えたい事がある。安心しろ、悪い話じゃァねェからよ」
貧民街の連中はざわつきだした。
悪い話じゃないといっても、食事に釣られたヤツらがどう扱われてもおかしくない。
この貧民街はそんな場所だ。
「テメェら。今のままの生活でいいのかァ? 食うにも困る、寝る場所も無い、仕事も無い、貴族に虫けら扱いされる、そんなので生きていると言えるのかよォ!」
一部の連中が喚いた。
「じゃあお前が何とかしてくれるのかよっ!!!」
「あァ。オレはその為に今日ここに来たからなァ!」
これからコイツらを説得するぜ。




