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57 若き日のティコ

 ガキをなだめていたティコは上目遣いにオレを睨んでいた。

 オレはこの顔に見覚えがある。

 この特徴的な泣きぼくろの美人、ティコは前の人生で娼館の人気ナンバーワンだった娼婦だ。


 そうか、ここの教会が無くなり、行く当てもなかった彼女は娼婦になったというわけだ。

 彼女は人気ナンバーワンの売れっ子だったが、笑う事もなく常に憂いを帯びた目をしていた。

 そして稼ぎの大半は全て、貧しい奴らの炊き出しに使っていた。


 あまりの人気ぶりに何度か大物貴族から身請けの話もあったが、彼女は全てを断った。

 だがそんな中で、赤死病の患者の面倒を見ていた彼女は赤死病に感染、そうなると誰にも見向きもされずに見捨てられ、路上で死んでいた。


 間違いない、彼女は若い時のティコだ。

 彼女もこのままでは不幸な人生が待っている。

 今のオレなら、ティコを助けてやる事も出来る


「オイオイ、ティコさん。オレはなァ、アンタに身体を売れと言ってるわけじゃねェんだよッ」

「え? でも体で払えって……」

「それはなァ。働けって意味だよォ」

「!! あなたはこの子達に悪事をさせようというのですかっ!」


 ティコがオレを涙目で睨んでいた。

 まあそう考えても仕方ないよな、この貧民街で優しい顔をするのは大抵詐欺師か悪人だ。


「待てよ待てよォ。誰もコイツらに悪い事はさせねェから安心しなァ」

「本当……ですか?」

「あァ。アンタの大好きな神様に誓ってやるよォ」


 神様の名前を出すと、ティコは少し安心したようだった。

 そしてオレ達は教会の懺悔室を応接間代わりにしてもらい、飲み物を出してもらった。

 飲み物はとても薄めたお湯のような味しかしなかった。


「あなた方は誰なのですか?」

「オレは『カストリア・ヘミニス』ヘミニス伯爵の息子だァ」


 ティコが頭を深く下げた。


「貴族様とはつゆ知らず、先程の無礼をお詫び致します! どうか、この子達には罰を与えないでくださいっ!!」

「だから大丈夫だってェ。ガキ共には何もしねェよ」


 オレの言葉を聞いてティコは頭を上げた。


「それで、ヘミニス様、ここにはどういった御用で?」

「もう用事は済んだ。この街の掃除に来ただけだぜェ」


 ティコはこの言葉で全てを察した。


「どんな悪人だったとしても人を殺すのは罪です。あなたはその罪を背負って生きるのですか?」

「あァ。そんなのは覚悟済みだからなァ。その分だけ、不幸になる奴を助けてやろうってだけさァ」

「あなたは一体この街で何をしようと……?」


 ティコが怯えた目で俺を見ている。


「安心しな。この街にとって悪い事じゃねェからよォ」


 オレは金貨の袋をバロから受け取り、ティコに見せた。


「オレはなァ。ここに大きな工場を作るんだよ。そうすればガキ共も盗みや物乞いをしなくても済むからなァ」

「でも……この教会は……」

「安心しなァ。法に触れるような物は作らねェよ。ガキ共の仕事も出来る事をやって寝る場所や食べる物を与えてやるからよォ」

「そんな夢みたいな話……信じられません! どう考えても私達を騙してここを追い出そうとしているようにしか考えられません!!」


 貧すれば鈍するというが、ここまで疑われるとオレもちょっと凹んでくるなァ。


「ティコさんよォ。今度中央街のカストリア商会に来てみなァ。オレの言っている事の意味が良く分かるからよォ」


 ティコは子供達と何かを話し合っていた。


「わかりました。今度そちらに伺わせていただきます。」

「おゥ。待ってるぜェ」


 オレはバロと金貨数枚を教会に寄付してその場を離れた。


 それから数日後、ティコは子供達と元花屋だったカストリア商会の建物にやって来た。


「信じ……られない」

「ねえちゃん、アイツ言ってたの……ホントだったんだ」


 ティコは店の入り口で呆然としていた。


「ようこそお越しくださいました。お待ちしてましたよ」

「カス……トリアさん??」

「あァ。貧民街では下手に女の格好だと危険なんでなァ」


 ティコは色々な事が起こりすぎていて、頭が困惑していたようだった。

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