42 警備隊のイアーソン
私は街の宿屋を探した。
貧民街の外れ、中央通りに一番近い場所にその宿屋はあった。
「失礼します。レグルスさんいますか?」
「あら、お嬢ちゃん。レグルスに何の用だい?」
「僕、ポルクシアと言います。レグルスさんに落とし物を届けに来ました」
そう言うと私はレグルスの忘れ物を入れた布袋を見せた。
中身が高価な物だとわかると、他の人に取られてしまうかもしれない。
この街はそれほど治安が良くないのだ。
「うーん、さっきまでここにいたんだけどねー。多分酒場に行ったんじゃないかな」
「わかりました、酒場はどこですか?」
「そこの通りを曲がったとこだけど……お嬢ちゃん一人で行くのかい!?」
「ありがとうございます!」
私はお礼を言うと酒場を目指した。
「あんなとこにあんな可愛い子一人だけで行くなんて、野犬の群れに肉を投げ込むようなもんだよ……」
◆
「こんばんわ、レグルスさんいますか?」
私は酒場に入り、挨拶をした。
酒場はガラが悪く、どう見ても筋モノといった男達が安酒をかっ喰らっている場所だった。
「おうおうお嬢ちゃん、こんなとこにいると悪ーい狼さんに食べられちまうぜー」
「オイがミルクを飲ませてやろうかー、はっはっはっは」
「お嬢ちゃん可愛いね。おらのヨメっこにならねか?」
私は後悔してしまった。
こんな場所に女の子一人で来るなんて、自殺行為もいいとこだ。
そういう危険性を考えるのを忘れていた。
「え……ええ、うぇぇ……」
私は途端に怖くなり、その場にしゃがみこんでしまった。
「オイ、テメェら。よさねぇか。そこのお嬢さん怖がってるじゃねぇかよ!!」
私はどこかで聞き覚えのある声を聞いた。
「う。うひぃ! じょ……冗談だってよ」
「テメェら顔怖いんだからお嬢さんにお前らの顔を見せるだけで威圧的なんだよ」
「すんません」
「お嬢ちゃん、怖がらせて悪かったな」
そういうと男は私の頭を優しくなでてくれた。
「イア……ソン?」
「おう、俺がイアーソンだ。お嬢ちゃん、なんで俺の名前知ってるんだよ?」
私は前の人生で彼の事を知っていた。
彼はイア―ソン。
皇国警備隊の不良隊員だ。
警備隊の一員だったが、素行不良に遅刻無断欠席の常習犯。
それでついたあだ名が『ごく潰し、給料泥棒のイアーソン』
前の人生では私の嫌いだった男だ。
「い、いえ。それは……」
「よお、ポルクシアちゃんじゃねえか。なんでこんな危険なとこに?」
「レグルス。何だ、お前の知り合いだったのかよ」
「ぼ……僕これをレグルスさんに……届けようと」
「お、コレ……悪い悪い、風呂場に忘れてたみたいだな。ありがとよ!」
レグルスは私から忘れ物を受け取ると、とてもいい笑顔を見せてくれた。
それを見て私は、顔を赤らめてうつむいてしまった。
「なんだお嬢ちゃん、レグルスに惚れたのか?」
「バ……バカ! イアーソン、子供をからかうんじゃねーよ」
そう言うとレグルスとイアーソンの二人は同じテーブルに座った。
私もそのテーブルに椅子を用意してもらい、甘いホットミルクを出してもらった。
「でもよぉ。レグルス、よくあの戦場から帰ってこれたな」
「まあ敵の卑劣な戦術でオレ以外全員死んじまったけどな。オレも赤死病に侵されてしまったくらいだ」
「赤死病だって!? よくお前生還出来たな」
「オレを助けてくれたのそこのポルクシアちゃんだよ。この子はオレの命の恩人だ」
「そうだったんだな。ポルクシアちゃん、この街で襲われそうになったら、俺が助けてやるからな!!」
イアーソンは私を見てニッコリと笑った。
だが、イアーソンはその直後、レグルスと向かい合い、真剣な表情になっていた。
「レグルス、今度こそ返事を聞かせてくれよ。この腐った国を変える為に、お前の力が必要なんだよ!」
「イアーソン、その話は断ったはずだぜ」
「俺達は腐敗貴族からこの国を奪い、国を変えるんだよ。それが俺達『アルゴナウタイ』なんだよ!!」
!!! 『アルゴナウタイ』それは……前の人生で私が戦った革命団の名前だ!?




