31 リュバンのデザインセンス
ヘミニス邸に布を取りに行ってたマルシェ達が戻ってきた。
「坊ちゃん、あるだけ持ってきました」
「あァ、ご苦労さん!」
では早速服屋に行ってみるか。
◇
「これはこれはカストル様、お待ちしておりました!」
「あァ、言ってた服の生地持って来たぜェ」
オレはマルシェ達に持たせた生地を箱一杯に置かせた。
「これは! こんな立派な生地を使って服を作れとは、服屋冥利に尽きます!」
「そうかァ。それで、デザインは出来たのかァ?」
「はいっ! カストル様。こちらを見てくださいませ」
リュバンは羊皮紙にインクで描いた服のデザインを見せてくれた。
オレはそこまで言ってはいなかったが、リュバンはきちんと男性用、女性用、そして大人用、子供用で四種類のデザインを用意していた。
「これ良いなァ! 良いセンスだよ」
「ありがとうございます。カストル様」
リュバンが黒く汚れた手を隠しながらニッコリしていた。
この子は努力家なんだろう。
そしてセンスも良い。
「カストル、これ良いな! おれが見てもそう思うぜ」
「俺たちもそう思います」
リュバンの描いた服のデザインは、マルシェ達元誘拐団の連中も納得するだけのデザインだった。
「これだけのデザインが出来るなら、もうこちらからいう事はないなァ。早速取り掛かってくれ」
「カストル様、承知致しました!」
「はい、あたしもがんばります!」
「リュバン、では母さんも呼んできてくれ。久々の大仕事だぞ」
オレはタイヤールのオヤジの前に金貨の入った袋を置いてやった。
「これは前金だァ。作業するのもいいが何か美味いもんでも先に食ってくれ。完成は五日後で良いからよォ」
「カストル様、お心遣い感謝いたします。ですが、コレだけの作業、一日でも早く立派なものを仕上げたいですので、お気持ちだけ頂戴いたします」
タイヤールのオヤジは職人の目でオレを見つめた。
「仕方ねーなァ。オイ、マルシェ。テメェが何か食い物を買ってきてやれ」
「はい、坊ちゃん。承知しました!」
オレはマルシェ達に、タイヤールの家族が明日の朝まで食べられるだけの食事を買いに行かせた。
「明日もまた昼と夜のメシを届けてやるぜェ。だからせいぜい立派な服を作るんだなァ!」
「カストル様、本当に……本当にありがとうございます」
タイヤールの家族は父親、母親、リュバンの三人で深々とオレに頭を下げていた。
「お礼はいい、だから立派な服を用意してくれよォ」
そう言ってオレ達は、服屋を出た。
◇
潰れた花屋の跡にオレ達が戻ってすぐ、ガキ共が帰ってきた。
ガキ共はとてもうれしそうな顔をしながら、手に抱えきれないだけの玩具や服、それになんと本や画材に掃除道具まで持っていた。
「ぼく、カストルさまのためにべんきょうしておてつだいしたいんです!」
「アタシ、このおうちキレイにしたいからおそうじどうぐかってきました」
「ボク、絵をかいてカンバン作ります」
ガキ共はそれぞれがやりたい事を考えて、いろいろな物を買ってきた。
「オウ! みんなァ。ここがテメェらの家だ。好きに使っていいぜェ!」
ガキ共は色々と買ってきた物を置いて、殺風景だった家の中を綺麗に飾り立てた。
手の届かない高い位置は、元誘拐団の連中が手伝ってやっていた。
「良い感じじゃねェか!」
オレはニッコリ笑いながら、ガキ共が頑張る姿を見ていた。
そんな中でオレに服を渡してきたガキがいた。
「ぼく、カストル様のために服を買ってみました。ぜひ着てみてください」
「何だってェ? まあ、そういうなら着てやるか」
ガキがオレに服の袋を渡してきた。
「じゃあ着替えるかァ」
服の袋を開けてみたオレが見た物は……女物の服だった。
「えぇッ? オレにこれを着ろというのォ?」
「ああー、まちがえて女性用の服を買ってしまいました!」
それを見たアルヘナがお腹を抱えて大爆笑していた。




