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20 さらわれたアルヘナ

 オレは久々に王都に来た。

 といっても前の人生からの久々だ。


 その時のオレは貧民街の最底辺、腐臭漂うゴミ捨て場をさまよっていた。

 あそこは臭いがひどかったがどうにか食い物にはありつけた。

 パン屋の焦げたパンや食い物屋のダメになりかけた料理の出来損ない、それがオレの生きる糧だった。


 あそこで食べ物を奪い合ったのがスピカとの出会いだったな……。

 その後オレ達は奪い合うよりも、協力して盗んだ方がお互いもっと食べれるとわかったので、二人で協力しして盗みをするようになった。


 スピカは盗みの天才だった、なんせ魔法が使えたからな。

 この国では魔法を使えるのはほんの一部の人間。

 貴族か特別な生まれの奴だけだ。


 スピカの魔法は追いかけられた時に空に飛び上がったり、姿を消したり、強盗の跡の証拠隠滅で火をつけたり、全ての属性の魔法を使える凄い物だった。


 だが最後に狙った獲物は大きすぎた。

 魔法省公爵夫人の財産だ。

 これは盗みではなく詐欺のようなものだったが、高等魔法が使えたスピカは最後まで上手く行きかけた。

 それは、魔法省乗っ取りを企む貴族の後押しもあったからだ。

 しかし生き別れの双子の弟、警備隊長ポルクスに見破られ、オレ達の全ての計画は水の泡になった。


 オレにとっては、この王都は良い思い出が無い場所だ。


「おにーさま、どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

「カストル、もう着くぜ」

「バロ。わかった、街ではきちんとした言い方で頼むぜェ」

「承知致しました」


 オレ達は王都に到着した。

 親父はどうやら軍務省と厚生省と農務省に用があるらしい。

 オレの作った麻酔薬を、大体的に利権化する為だ。

 今はご禁制の草からの麻酔薬はオレの畑だけで作っている。

 だがこれを大体的に利権化して、合法的にご禁制の草を取り扱えるようにする為だ。


 まあそれで大体的に仕事に出来れば、バロの親達の仕事も確保できる。

 武力一辺倒だと思っていた親父だったが、意外にこういうところも考えているようだ。


 オレ達は親父が他の貴族に会っている間に、街で買い物などを楽しむ事にした。


「おにーさま、あのふくかわいいからほしいのー」

「ハイハイ、分かりました分かりましたってェ」

「バロ、頼むぜェ」

「承知致しました」


 アルヘナは気に入った服やアクセサリーを次々に買った。

 持ち役は当然バロだ。

 まさに金を湯水のごとく使うとはこの事だ。


「お、肉の串焼きがあるじゃねーか、オッサン、コレ三本頼むわ」

「味はどうするんだい?」

「そうだな、コショウたっぷりにマスタード添えで」

「!!……毎度ありっ!!」


 ハッキリ言って肉の串焼きよりもトッピングの方が高い。

 コショウは貴重品だ。

 次の商売は、魔法を使える奴に部屋の暖かさを保つ形でやらせて、コショウ栽培ってのもいいかもな、コショウは温かい場所でしか作れない。


 今のオレは考えた事をすぐに商売に出来るだけの金がある。

 この力を使えば、まっとうな稼ぎだけで大儲けできるってわけだ。


「おにーさま、あっちのほうにおもしろいモノがありますわー」

「おい、アルヘナ! どこに行くんだ!?」


 アルヘナは大道芸に興味を持ったようで見に行ってしまった。

 しかしこの王都は人が多い、下手に離れるとすぐに見失ってしまう。

 そして案の定、アルヘナは大道芸を見ている間にオレやバロとはぐれてしまった。


「オーイ、アルヘナァ、どこに行ったァ?」


 しかしオレの呼び声は雑踏にかき消されて消えた。

 まさか、アイツ貧民街になんて行ってないだろうなっ!!

 あんな貴族の娘丸出しな姿であんな場所に行ったら間違いなくさらわれるぞ!!


「バロ、嫌な予感がする。オレについてこい!」

「わかった!!」


 オレとバロは近道の裏道を通り、大通りから貧民街に抜ける道を走った。


「キャアアアアーーー!!!」


 オレの耳に絹を裂くような悲鳴が聞こえた。


「アルヘナァーー!!」

「おにーさまーーー!! たすけてぇーー!!」


 オレ達が角を曲がると、丁度奥の方で男に担がれて連れ去られるアルヘナがいた。

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