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19 執事見習いのバロ

ここからまたカストリアの話になります。

前回から二年が経ちました。

 あれから二年が経った。

 オレはご禁制の草を使った痛み止めの麻酔薬を売り始めてすぐに、メディコの医者として持つルートで莫大な金を手に入れた。

 親父はオレに何も言わない。

 この金はオレが自分で稼いだ金だ。

 親父も方法は突き止めようとしないが、武力に注ぎ込める為の資金だと言えば納得していた。


 バロはオレの専属の付き人として、執事見習いになった。

 コイツは馬鹿じゃない。

 きちんと文字を読めるようになって、貴族のマナーも勉強した。

 だがオレと二人だけで話す時は、様とかはつけずに話をしている。


「よう、バロ。最近ガキどもの様子はどうだァ?」

「ああ、カストル。アンタのおかげでみんなきちんと毎日肉入りのスープ食えてるぜ、でもなー」

「ん? 何があったんだ?」

「実はな、恥ずかしい話だが……親父やお袋がすっかりやる気をなくしてしまってな、真面目にやってもおれの稼ぎの方が多くなってしまったので困ってるんだ」


 まあそりゃそうだろう、この国の格差での稼ぎだとそんなもんだ。

 だが親が仕事もせず子供に頼る酷さは、前の人生のあのクソッタレのユピテルのせいで嫌というほど体験している。

 これはどうにかしてやらないとな。


「ところでカストル、以前から聞きたかった事があるんだが良いか?」

「ああいいぜ、オレとテメエの仲だ。それで、何だ?」

「いやな、アンタ、カストルなのになんで普段はカストリアと呼ばれてるんだ?」


 !? それ聞くかよ、オレが女だとはコイツは知らないからな。

 コイツとは流石に気は許してても、風呂までは絶対に一緒に入れないようにしている。


「あ……あのなァ、貴族は正式な名前で呼ぶのが本来の習わしなんだァ、だからな、オレの本名はカストリアってわけ。だからみんながカストリアって呼んでるってわけだァ」


 これでごまかせればいいんだが。


「そうか、それじゃおれは今まで通りカストルと呼ばせてもらうぜ」

「ああ、でも正式な場ではカストリア様で通してくれよォ、オレにも世間体ってもんがあるからなァ」

「はい、承知致しました。カストリア様」

「オイオイ、ふざけんなァ!」

「ハハハハ」


 オレとバロはこの二年で親友と言えるくらいに仲良くなった。

 バロをオレの付き人にしたのはオレ自身だ。

 コイツは優秀だった。

 見た目も悪くないイケメンだ。


 オレが正装して立っていたとして、コイツが執事服を着ていたらそのガッチリしながらスラっとしたスタイルに、メイドや来客の他の貴族のお嬢様方も目を奪われるくらいだ。

 オレはそういう時何故か不機嫌になった。

 コイツへの嫉妬なのか?


 いかんいかん、今日は親父の付き添いで街に行く事になっているんだ。

 バロはもう準備を済ませていた。

 オレも着替えは終わっているので、後は馬車で出かけるだけだ。

 オレ用に特別に用意された馬車に乗りこんだオレは、足元にある毛布が気になった。


「おや、こんな所に毛布が、コレなんだァ?」

「おにーさま、きちゃいました」

「アルヘナ!?」


 馬車に入り込んでいたのはアルヘナだった。

 もう馬車は動き出してしまった後だ。

 このまま帰らせるわけにはいかない。

 

「アルヘナ様! 危ないです。今すぐにでもお戻りに」

「あら、あなたワタシをいじめたバロじゃない、わすれてないからね!」

「う……、申し訳ございません」


 まあ事実だから仕方ない。

 バロはあれ以来アルヘナに逆らえないのだ。

 だがオレがきちんと制御しているので、アルヘナがバロを理不尽に虐げる事はない。

 だがたまにワガママをいうのは抑えきれないので、そこはバロに耐えてもらうしかない。


「ワタシ大きな町に行くのはじめてなの、ワクワクするわ」

「アルヘナァ、あまり調子に乗るんじゃねぇぞォ」


 だが、この時アルヘナが街で大事件に巻き込まれるとは、オレだけでなく誰も想像がつかなかった。

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