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18 スピカ、魔法使いの弟子になる

「ほう、魔法を使う娘か。これはめんこい子ぢゃのー」

「すぴか……」

「ほう、スピカ……、スピカ!?」


 どうやら魔法使いのお爺さんは、スピカの名前に聞き覚えがあるらしい。


「お前さん、スピカというのか……?」

「うん……アタシ、すぴか」


 魔法使いのお爺さんは少し考え事をしていたが、その何事もなかったような態度をした。


「皆の衆、昨日はすまんの、儂がギックリ腰をやってしもうてのう、昨日は風呂できんかったんぢゃろ」

「いや、そこのスピカちゃんが魔法で火をつけてくれたよ」

「!? なんぢゃと? あの魔法はベリー難しい儂だから出来ることぢゃったはずぢゃが」


 どうやらこの魔法使いのお爺さんは飄々としているが、かつては凄腕の魔法使いだったと見える。

 どうしてこんな貧民街に落ちぶれたのかは、本人の為に聞かないでおこう。


「まあよい。スピカとやら、魔法を使ってみよ、火の魔法ぢゃ」

「まほう……ひのまほう」


 スピカはゴミを燃やす炉に炎の魔法を使った。


「な! 信じられん、儂が魔法を使えるようになったのはもっと上の年齢ぢゃったぞ!」


 魔法使いのお爺さんがビックリして腰をぬかして大口を開けてあごを外しかけていた。

 この子は天才ぢゃ! 儂が保証する。


「お爺さん、本当ですか?」

「ああ、ポルクシアちゃん、よくこんなトンデモない逸材を見つけてきたもんぢゃな」

「えへへへ……」


 私は頭をかいてごまかした、まさか魔法省のビルゴ公爵夫人の娘だと知っていましたとはとても言えない。


「スピカとやら、儂がお前さんを鍛えてやろう! 儂の弟子になるがよい」

「でし……ってなに?」

「なんぢゃ、この子は会話も難しいような子なのか。よかろう、儂が言葉や勉強も教えてやろう!」


 魔法使いのお爺さんはスピカの事を大層気に入った様子だ。

 そしてスピカはパン屋で住み込みで働きながら、早朝は火の魔法でパン焼きを、午前中はお爺さんに勉強を教えてもらい、午後はお風呂を焚く生活を始めた。


 そんな日々が二週間ほど過ぎた頃……。


「大変だー! 爺さんがまた腰をやってしまったぞー!」


 お風呂はスピカが焚けるからいいが、お爺さんの様子が気になる。

 私はスピカとお爺さんの家を訪ねた。

 お爺さんの家は足の踏み場もないくらい散らかっていて、お爺さんは腰を曲げてうずくまっていた。


「フガガガガガ……すまんのう、この年になると腰がきつくてのう」

「おじいさん、かわいそう」


 スピカはお爺さんの腰に手を当てた。

すると明るい光がスピカの手に光り、お爺さんの腰に吸い込まれた。


「!! なんぢゃこれは!? 腰が軽い! 治った、治ったぞーい!」


 お爺さんは嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねた。

 調子に乗ったお爺さんはガラクタに足の小指をぶつけてしまい、うずくまっていたが自業自得だ。


「スピカちゃん! お願いがある。儂と一緒に暮らしてくれ!!」

「え……でもアタシパンや……おばさん」


 スピカは一緒に暮らすようにしてくれたパン屋のブレッドさん、おばさんを悲しませると思ったのだろう、顔に曇りが見えた。


「スピカ、パン屋にはここから通えばいいよ。同じ街の中だからいつでもいけるんだから」

「そうぢゃそうぢゃ、儂がブレッドさんには言っておく」

「でも……たべもの」

「なんぢゃ、食べ物の心配をしておったのか。儂は独り身ぢゃ、金はいくらでも使える。お前さんの食べたいものを食わせてやろう」


 スピカの曇った顔が、パアっと晴れた。


「ほんとう? おじいさん」

「ああ、お前さんはもう儂の可愛い弟子ぢゃ。ぢゃが弟子となると厳しく辛い修行も受ける事になるぞい」

「うん。ごはんたべれるなら、スピカ……がんばる!」

「スピカ、良かったね。頑張ってね!」


 そうしてこの日、スピカは魔法使いの弟子として、正式にこの貧民街の一員になった。

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