188 アルゴナウタイ
前の時間軸の後の世界の流れです。
カストルとポルクスがお互い殺し合った末、このようなことになってしまいました。
トレミー皇国末期。
かつてこの国に伝説の革命団が存在したという。
『アルゴナウタイ』
謎のリーダーに率いられた革命団。
その構成は複雑で、貴族も平民も混ざっていたという。
だが一つ言えることは、皇国期末期に現れた彼らは、貴族主義を掲げる特権階級貴族と聖職者を次々と血祭りに上げ、処刑していった。
あまりの残酷さに異を唱える一般人もいたが、長年に渡り貴族に塗炭の苦しみを与えられ続けていた平民たちはアルゴナウタイが残虐に貴族を処刑するたびに歓喜した。
そんな皇国末期で治安維持に当たったのが警備隊長のポルクスだった。
ポルクスは恐るべき手段で潜伏する住民をあぶり出した。
彼は部下に決起集会に参加させ、そこで臭いの強いモノを詰め込んだ袋をぶちまけさせたのだ。
石鹸や風呂を使えるのは貴族だけ。
一般人は臭いがついてしまえば洗って落とすことができなくなる。
つまり、決起集会に参加していた者は、強烈な臭いを辺りに撒き散らすことになり、臭いが証拠となるわけだ。
ポルクスはこの方法を使い、次々とアルゴナウタイの賛同者を逮捕、投獄していった。
だがいつまで経ってもアルゴナウタイは壊滅しなかった。
何故ならアルゴナウタイは誰も知らない逃走経路を持っていたためだ。
後の研究家によると、どうやらその逃走経路は当時の犯罪王と呼ばれたカストルという人物が作った物で、彼はアルゴナウタイの支援者だったとも言える。
カストルとは謎に包まれた人物だ。
ある者は貴族の落胤の成れの果てと言い、またある者は敵国のスパイだったという。
また別の者は犯罪者ギルドのボスだったとも、暗殺者軍団の元締めだったともいう。
このカストルだが、革命末期に警備隊長ポルクスと二人で殺し合い、相打ちになったといわれている。
だが、その二人の死体は決死の捜索にもかかわらず、見つからなかった。
アルゴナウタイはカストルの死後も活動を続け、最終的には監獄を制圧し、天宮殿にまで踏み込んだ。
そして皇帝アスクレピオス13世の首を取り、革命を成し遂げたのだ。
だがこれは悲劇の序章に過ぎなかった。
アルゴナウタイを構成していたと思われる人物達は皇国崩壊後、主導権の握り合いでお互いが血で血を洗う戦いを繰り返し、最後は全員が姿を消した。
オルフェウス伯爵。
ヘラクレス子爵。
カノープス侯爵。
歴史で確認されているのはこの三人だ。
アルゴナウタイのリーダーは後の研究で警備隊の一員だったイア―ソンという男だったという説が有力視されている。
だが、そのイア―ソンも革命の中で仲間の裏切りによって殺されたという。
トレミー皇国の末期は今も歴史書の謎といわれるほどだ。
だが当時を知る文献はアルゴナウタイの一員を称する女帝メディアの一族によって焚書されたというので誰も知る者はいない。
女帝メディア、その暗黒期はトレミー皇国を上回る暗黒時代だったといわれる。
現在においてもこの女帝メディアを超える暴君は存在しないだろうといわれるほどだ。
女帝メディアの象徴は黒い猫だったという。
彼女を称賛する書画は数多く存在するが、そのことごとくに出てくるのが黒い猫である。
妖艶な美女と不思議な魅力を秘めた黒い猫。
確かに絵になる光景ではあるが、あまりにも出来過ぎている。
異端視されているが、学説の中にはこの黒い猫こそがメディアを狂気に走らせた悪魔の化身であるというものもあったくらいだ。
当然ながらそのようなことを発言した学者は一族郎党に至るまで凄惨な処刑をされている。
黒い猫は現在でも禁忌のものと言われているのはそのためだ。
さて、私もこの学説を書き終えるまで命があったことが幸いと言えるだろう……。
どうやら学者仲間の誰かが私を密告したらしい。
後の世界の人よ、どうか私の命のメッセージを受け取って欲しい……。
黒い猫に……気をつけろ……。
※これはトレミー皇国の歴史を調べようとしていたある学者の最後のメッセージだと言われている。
当博物館においてこれは貴重な当時を知る歴史的資料として展示するものである。
この不幸な歴史を忘れてはいけない。それが過去からのメッセージである。




